MatterとSoMの統合:スマートホームのゲームチェンジャー
Adam Taylor(マウザー・エレクトロニクス)
モノのインターネット(IoT)は、デバイス、世界、自宅とのインタラクションの方法を一新しました。現在、最新のスマートホームは照明、コントロールパネル、暖房、換気、および空調(HVAC)、セキュリティシステムなどさまざまなインテリジェントデバイスを完備していますが、各デバイスはそれぞれ異なるメーカーの製品であるはずです。IoTがユビキタス化するにつれ、スマートホーム部門のシェアを巡ってさまざまな接続規格が活発に競い合うようになりました。中でもBLUETOOTH® Low Energy、Wi-Fi®、Threadはさまざまなメーカーに最も選ばれている規格です。ただし、一番の主流であるRFプロトコルでさえ相互運用性を保証していないため、シームレスに相互接続されたスマートホームソリューションを設計する際に問題が生じていました。
Matterの登場
RFプロトコルの競合は設計者と消費者に相互運用性の課題を突き付けています。テクノロジー業界はこの課題を克服するために結束し、Connectivity Standards Allianceを通じてMatter規格を開発しました。Matterはプロトコルスタックに統合アプリケーション層を追加し、スマートホームデバイス同士の安全かつ確実な相互通信を可能にすることで、Thread、Wi-Fi、イーサネット有線といった既存のスマートホーム技術と連携します。
Matter規格は、さまざまなRFワイヤレスプロトコルを使用してデバイス間によりシームレスなインターフェイスを実現します。そして設計者と消費者のために柔軟性を高め、選択肢を増やします。
スマートホームプロジェクト
どんなスマートホームにもルーターは欠かせません。ルーターがあってこそ、インターネットに接続し、異なるネットワーク上のデバイス間の通信を促進し、Wi-Fiによる無線接続または有線イーサネット経由で接続することができます。
このブログでは、Microchip Technology SAMA5D27評価キットを使用して、画期的なホームプロジェクトにMatterを組み込み、IoT境界ルーターを構築する方法を概説します。この評価キットは、SAMA5D27ベースボードを採用し、その上にSAMA5D27 SoM1(システム・オン・モジュール)をはんだ付けし、さらにその上にSAMA5D27 SIP(システム・イン・パッケージ)をはんだ付けしています。また、ビルドを完成させるSoMへのLinuxディストリビューションイメージについても解説します。
まずはSAMA5D27評価キットを検討し、SoMについて、またMatterをSoMベースのスマートホームソリューションに統合する利点について理解しましょう。
SoMベースでMatterソリューションを作成する
MatterとSAMA5D27 SoMのようなLinux対応の組み込みプロセッサを統合すると、スマートホームソリューションの作成時に役立ちます。MatterとSoMベースのアプローチはますます境界ルーターに採用されています。境界ルーターは、外部インターネットとスマートホームネットワーク間のゲートウェイとして機能します。このアプローチを取れば、BLUETOOTH®ワイヤレス技術を使ってデバイスを登録し、セキュリティ層を実装して内部ネットワークの安全性を保証することができます。
SAMA5D27評価キットには、最大500MHzのArm® Cortex®-A5 32-bitプロセッサが搭載されています。このプロセッサはSAMA5D27 SOM1(図1)に搭載され、A5プロセッサと以下を含むさまざまなペリフェラルが組み合わせられています。
- Arm® Cortex®-A5プロセッサ、浮動小数点およびSIMDユニット搭載
- 電源管理
- 1GB DDR
- 64MB QSPIフラッシュ
- 10/100 Base T イーサネット PHY
- 103 I/O、プロセッサのI/Oに接続、SPI、I2C、UART、CAN、SDIO、アナログ-デジタル変換回路(ADC)インターフェイスへのサポートを含む。
図1:Microchip Technology SAMA5D27 SoM1システム・オン・モジュール(画像提供:マウザー・エレクトロニクス)
SoMとは?
SoMは、現在急成長中の、開発時間とリスクを低減する説得力のあるコンセプトです。ごく基本的な形のSoMは、特定のシステム機能を、電力、クロッキング、および揮発性・不揮発性メモリを含む単一のモジュールに統合するボードレベルの回路です。I/Oラインを分岐すると、アプリケーション固有のキャリアカードでSoMも接続できます。
SoMをシステムの中心とし、周囲に残された部分を開発します。正しく設計されたSoMベースのオプションは、開発者に幅広いソリューションを提供します。
SoMを使用するメリット
SoMベースのソリューションを使用する主なメリットは、開発の着手時点で技術的リスクを減らし、ソリューションの技術成熟度レベル(TRL)を高められることにあります。プロジェクトチームは、TRLに基づいてシステム内の技術要素の成熟度を1~9段階(9が最もリスクが低い最も成熟した技術)で測定することで、デプロイメントの準備状況を評価できます。
SoMを使用すると、TRL 5相当のソリューションを開発できます。SoMメーカーは、SoMを設計後、試験を実施し、合格してから販売するので、開発者は付加価値アクティビティを含むキャリアカードの設計に集中することができます。
SoMメーカーは物理的なハードウェア部品以外に、開発を支援するツールも提供しています。たとえば、組み込みLinuxオペレーティングシステム、回路図、SoMをキャリアカードに組み込む方法を指南するユーザーガイド、さらにプロジェクト事例と開発に使用可能な設計などがあります。
また、既製品のSoMを使用すると、最初からSoMを使って作業できるので、プロジェクトの開発時間を大幅に短縮できます。そしてアプリケーション回路のTRLが上がり、結果として総設計費用を抑えることができます。さらにSoMの設計は実証済みであるため、ソフトウェアに掛ける労力も減らせます。
MatterとSoMベースのアプローチを採用すると、他に先駆けて製品を市場に投入して、シェアを拡大し、増益に結び付くといった、マーケティング上のメリットもいくつかあります。さらに開発者は、次世代製品の計画を早くから着手し、現在展開中のユニットを現場でアップグレードする機会が与えられます。
開発ボード
SAMA5D27 SoM1を使って評価し、開発に着手できるように、Microchip TechnologyはSoM1をベースボードに搭載した開発キットを提供しています。ベースボードには次のようなペリフェラルが複数搭載されており、開発者はSoM1機能を示すことができます。
- イーサネット
- Digilent Pmod™インターフェイス
- SDカード
- Mikroe Click™ソケット x 2(SPI、I2C、PWM、シリアル通信可能)
- デバッグ
- 汎用I/O
- USB
- CAN
デバッグは、USB接続式のオンボードJ-Linkデバッガによって提供されます。これらのペリフェラルによって、開発者はプロトタイピングおよびアプリケーション開発のリスク軽減が可能になります。
オペレーティングシステム
ハードウェアから最大限の力を引き出すには、当然ながらオペレーティングシステム(OS)(ここではLinux)を活用しなければなりません。UbuntuやOpenThreadなど、最も人気の高いLinuxディストリビューションを使用すれば、SoM1で選択したOSを容易にコンパイルしてデプロイできます。
この第一段階では、以下の必須ソースコードをクローンできるLinuxマシンまたは仮想マシンを使用します。
- at91bootstrapブートローダー
- U-Bootセカンドステージ・ブートローダーソース
- Ubuntuソース
これでUbuntuカーネルとブートローダーをビルドします。さらにLinuxファイルシステム( 一般に「rootfs」と呼ばれる)、およびOSイメージに含まれるSoM1と開発ボード上のプロセッサとペリフェラルの構成を記述するデバイスツリーを含める必要があります。
ビルドアーティファクトとrootfsがあれば、パーティション分割されたSDカードにイメージを書き込むことができます。SDカードに書き込んだイメージはSoM1のブートに使用できるようになり、Ubuntu Linuxディストリビューションブートがログインを許可します。ログインしたらすぐに、シンプルな「hello world」レベルから複合IoT境界ルーターまで、Matterなどのフレームワークを採用したスマートホームアプリケーションの開発に着手できます。
Matter規格を統合する
開発チームは、オペレーティングシステムをカスタマイズし、SoMでデプロイするとすぐにアプリケーションをビルドできます。デバイスの登録にはBLUETOOTH®ワイヤレス技術を使用します。つまり、Wi-Fiとイーサネットは高帯域幅アプリケーションに使用でき、Threadはメッシュネットワークとして低帯域幅通信に使用できることになります。Matter構築用のソースコードはGitHubで入手できるため、スマートホームベースのソリューション開発者は、OSがSoMで起動した直後から開発に着手できます。
まとめ
スマートホームの異なるRFプロトコルが設計者と消費者に相互運用性の課題を突き付けるなか、その問題に対処するMatter規格が開発されました。Matterは、異なるワイヤレスプロトコルを採用するデバイス間にシームレスな通信を実現します。これにより、設計者と消費者にとっての柔軟性が高まり、選択肢が増えます。MatterとSAMA5D27 SoM1のようなLinux対応組み込みプロセッサを統合すれば、スマートホームのIoT境界ルーターソリューションを作成できます。SoMベースのアプローチを採用すれば、技術的リスクを最小限に抑え、TRLを上げ、開発の時間と労力を節約できるだけでなく、早期参入、シェア拡大、潜在的な増益というマーケティング上の恩恵も得られるでしょう。