分散センサでロボットの自律化を実現する
SFの世界では何世代にもわたり、ロボットがさまざまな形で社会と共存する様子が描かれてきました。親切で従順な召使となって人間を助け、生活の質を高めてくれるロボットもいれば、残忍で冷酷な支配者となり、人類を滅亡させようとするロボットもいました。 どの物語でも、最初は、人間の代わりに単調な繰り返し作業や危険な仕事をするだけだったロボットが、AIの登場で、高度に訓練された人間をしのぐようになります。
そして今、私たちの周りでは、小さなロボット掃除機、配達ロボットやドローンといった、実用的なロボットが当たり前のように活躍しています。ロボットが自律的になり、会話力を身につけ、自己認識能力まで持つようになるなか、社会はロボットを生活に受け入れる用意ができました。
製造業、産業界の推進力を背景に、ロボットは数十年にわたり進化を続けてきました。そして、自動車工場、化学薬品工場といった様々な生産現場で多くの労働者の仕事を引き受け、優れた費用対効果と生産性、正確さを証明してきました。
もちろん、まだ購入費、プログラミング、現場で稼働させるまでの準備など、多額の初期投資は必要ですが、ロボット導入はメーカーにとって多くのメリットがあります。
生産拠点の自国回帰が強く望まれるなか、競争圧力を考慮し、高い生産性を低コストで維持しようとすれば、ロボット導入以外に道はありません。ロボットは1日24時間休みなく働けます。ロボットには休暇も休日もありません。今日は体調不良で休みます、と電話一本で休まれることもありません(ただし、結構故障はありますが)。
そして何より、会社はロボットに社会保障費、失業保険、労災保険、健康保険、退職金などを支払う必要がありません。
ロボットは次第に定置・固定機能型から、可動性と自律性を備えた多機能学習型に取って代わられつつあり、能力、安全性、コストの重要性が高まっています。今、ロボット設計者は、設計と稼働環境の狭間で選択を迫られています。
重さ5キロのロボットに10キロのチップ
どんなロボット設計でも鍵を握るのはセンサです。センサはロボットに外界の情報を伝えます。旧世代の固定型ロボットは移動しないため、障害物を検知し、自分の位置を確認し、別ルートを探す必要がありませんでした。しかし、新しいロボットにはこれが必要です。さまざまなセンサを実装し、監視し、優先順位を付け、解釈し、それを踏まえて行動を決めなければなりません。センサをどう分散させて、ロボットのサイズと重さを妥当な範囲に収めるか、設計者たちは今、この問題に頭を悩ませています。全部ロボットに搭載するか? それとも、ロボットがセンサのデータと命令を施設やワイヤレスコントローラから、またはクラウドから受け取れるようにするか?
ロボットの仕事を増やすと、ロボットは大きくなります。ロボットが重くなると、もっと強力なバッテリが必要になります。これにより稼働時間、速度、性能が制限され、バッテリの充電中、交換中は稼働できないため、その分コストも増えます。
スペースは限られ、重さは許容できません。それなら、環境に配置する知能を増やして、ロボットに組み込む分を減らすしかありません。ロボットは小さくなり、スピードが増し、より長時間稼働し、コストも下がります。これでウィンウィンですね? でも、ここからが大変です。
インテリジェントな環境があっても、各ロボットには知性とセンサを組み込む必要があります。そして「フォールトトレランス」(耐障害性)が必要です。つまり、通信障害があっても安全性を維持しなければなりません。トランスデューサ、ビデオカメラ、温度センサ、バッテリ電圧センサといった、軽いオンボードセンサだけなら実現可能です。2D-LiDARも低コストで効率的なロボットに搭載できるようになりました。
優先的に取り組むべき問題は、近接センサのようなフェイルセーフ装置や電源問題です。例えば、ロボットが障害物で動けなくなり、それを自分で認識できない場合、ドライブモーターの電流センサが障害を即座に検出して、ドライブへの電力をすぐに停止できます。施設の中央コンピュータやクラウドコントローラは、火災の恐れがあるときに、すぐに反応して防止できないでしょう。
工場や産業環境はワイヤレス通信には難しい環境です。製造現場には電子ノイズがあるからです。エラーが発生し、リトライが行われると、ロボットは安全確保に必要な信号を受け取れないかもしれません。ワイヤレスリンクは信頼性の高い通信を得るために、送信出力を上げる可能性もあります。
分散通信の選択肢:オープンネットワークとクローズドネットワーク
このような場合、配置されたセンサ群とロボットからのバックチャンネル情報に閉域分散ネットワークを使用することで、多くの問題を解決することができます。製造現場に通信ノードを点在させることで、閉ループフィードバック機構を構築し、そこで施設のコントローラがロボットの各ステップの高度な検証を実施します。
センサと通信ノードは、特定の位置に戦略的に配置します。5G、Wi-Fi®、Bluetooth®の信号は、半径15メートルよりも3メートルのほうが格段に信頼性が向上します。それを踏まえれば、すぐに信頼性の高いプライマリ通信とバックアップ通信のスキームを低コストで実現することができます。最も低コストなナローバンドAM/FMデータリンクでも、高レベル通信との同時運用が可能です。例えば、可動式ロボットが定置型ロボットの横を通過するときに、安全データを収集して通知することができます。
ロボットはデジタルチェックポイントを通過するとき、バッテリ残量、内部温度、振動レベル、ストレス、運搬中の荷物の負荷のほか、CPU、ビジョンシステム、および全般的な健康状態も報告することができます。RFID(Radio Frequency Identification)技術を使用すれば、シングルファイル・チェックポイントを通過するロボットの検証も可能になります。この方法なら、高度な自律システムでも、ロボットを製造現場の周辺機器のように稼働させることができます。
分散型シリアルアーキテクチャのトポロジーと長所
局所エリアまたは広域エリアでの分散通信に最適なのはシリアル通信です。シリアルネットワークを簡単に実装できる技術と形式はいくつかあります。どれを選ぶかは、システムおよび施設の設計者と管理者次第です。
イーサネットもその候補となるシリアルネットワーク技術で、 配線にはCat5、Cat6のマルチツイストペアケーブルを使用します。各ポイント・ツー・ポイントのイーサネット接続に8線が必要になるため、コストがかかり、信頼性が低下します。イーサネットは高速で長距離伝送が可能であるのに加え、ゾーン内でシリアルネットワークのハブとして使用できます。それでも、ノイズや静電気放電(ESD)の影響は免れないため、機械のある場所には適していません。さらにイーサネットネットワーク上のノードはどれも多くのプロセッサリソースと帯域幅を必要とします。対照的に、UART(Universal Asynchronous Receiver/Transmitter)のフレームフォーマットで非同期パケットをフレーム化したシリアルデータリンクは、低コスト実装できる方法です。
UARTベースのシリアルリンクは、恐らく最もシンプルで信頼性が高い選択肢でしょう。電波障害(EMI)ノイズが極めて多く、最も過酷なESD環境でも、無線シリアルリンクは優れた堅牢性と信頼性を示します。数十メートル先、場合によっては数百メートル先まで速度を落とさずに伝送できるさまざまなドライバとレシーバもあります。
アーキテクチャ的にも、分散されたシリアルセンサ群を中央から制御・監視し、分散アクセス、リモートアクセスを行うことができます これらは相互排他的ではないため、 例えば、中央コンピュータが常に指揮を執り、その間、バックアップシステムは監視を続け、プライマリシステムに障害が発生した場合に作動します。
シリアルネットワークにポイント・ツー・ポイントを組み込むことで柔軟性も得られます。一番簡単で信頼性が高いアーキテクチャは、ポイント・ツー・ポイントのダイレクト接続です(図1A)。これは最速かつ最もダイレクトなリンクです。ハードウェア、ソフトウェアのハンドシェイクで信頼性の高いデータ転送を保証できます。
デイジーチェーンでデバイスを数珠つなぎにし、1つのシングルデータリンクで多くの分散センサ/アクチュエータと通信を行うことができます(図1B)。データは各ノードを通過し、ラインレシーバとラインドライバ(パススルーバッファとして機能する)を経由して開始点に戻ります。各ノードに個別にアドレスを指定でき、例えば「緊急時のシャットダウン」コマンドのように、すべてのノードに同時アクセスすることもできます。
デバイスをループ状に接続している場合は、パススルードライバをなくして、すべてのデータを開始点に戻すことができます。ストリング式またはループ式アーキテクチャネットワークの場合、データレートは一般に単一のボーレートに設定されます。複数のマルチポート・シリアルコンソールコントローラを使用する場合は、ツリー型も可能です(図1C)。ツリー型では、ホストからのデータレートがすべての下位レベルに十分供給できる速さであれば、複数のセンサやセンサゾーンをシリアルドメインに構築できます。速度が不十分な場合は、イーサネット接続を最上位コンソールサーバーとして使用する方法もあります。これは、センサゾーンが局所エリアで定義されている場合には、有効なアーキテクチャになります。
図1:(A) ポイント・ツー・ポイントのダイレクト接続。(B) ループ型またはデイジーチェーン型でリンクされたデバイス。(C) ツリー型構成。(画像:マウザー・エレクトロニクス)
リモート分散センサとアクチュエータに加え、分散ノードにも専用の安全制御装置やRFIDスキャナを搭載すれば、施設内でロボットが特定の主要箇所を通過するときにロボットのデータを読み書きできるようになります。実質的に追加費用をかけずにいつでも冗長設計し、冗長化による安全性を賢く享受できます。
シリアルリンク層のプロトコル
RS-232は、ほぼすべての人になじみがある、古き良き接続規格です。このシングルエンドの物理層スキームでは、論理0を正電圧、論理1を負電圧とする非ゼロ回帰(NRZ)信号プロトコルを使用します。信号線は一切接地しません。その結果、RS-232は比較的堅牢で、ノイズやインパルスグリッチをしっかりと退けます。接続されていない線は電圧を示さないので、障害検知も容易です。
RS-232の通信距離は十数メートル、RS-422は1キロ以上です。RS-422は、各信号に差動ペア線を使用します。これにより、ノイズの多い工場環境でもコモンモードノイズの影響を受けません。ただし、従来のコンピュータ周辺機器やモデム用に使われていたRS-232ほど一般的ではなく、信号線も2倍必要です。
RS-485も差動インターフェイスですが、共有型のインターフェイスでもあります。すべてのRS-485デバイスは、物理的に同じペア線に接続します。つまり、RS-485デバイスは半二重モードだけで動作しますが、RS-232とRS-422を組み合わせれば全二重モードで稼働できることになります。通常、どのRS-485デバイスも、ボーレート、パリティ、ストップビットといった通信特性は同じです。
RS-485は適切に実装すれば、通信距離を数キロに伸ばすことができ、一般に工場などの産業環境で使用されています。半導体メーカーは、こうしたあらゆる選択肢に対応するため、ESDとノイズ保護を搭載し、費用対効果、設計、競争力に優れたラインドライバとラインレシーバを提供しています。
RS-232、RS-422、RS-485のようなUARTフレームの非同期パケットフォーマットは、自動車産業のコントローラエリアネットワーク(CAN)およびOBDII制御・センサバスでも使用されています。
古くても人気の高いMIDIインターフェイスもUARTベースのパケットプロトコルを採用しています。これらの信号伝達技術は十分理解が深まっており、ツールや開発ファームウェアによるサポートもあります。産業環境でセンサとアクチュエータを分散配置するとき、特にマルチポートサーバーを使用できる場合には理想的な技術です。
中間サーバーのソリューション
マルチポートコンソールは、イーサネットやTCP/IPアクセスポイントといったIPでアクセス可能な、複数の個別シリアルポートを提供します。8ポート/16ポートのRS-232があり、適切なインターフェイスを使用すれば、ポートをRS-485またはRS-422として使用できます。
2つの10/100/1000イーサネットポートの総帯域幅は、個別シリアルポートの最大伝送速度921.6Kbpsに対応でき、ローカルコンピュータ資源はもちろん、リモート分散グローバルコンピュータやクラウドベースのサービスへの接続も可能です。
標準的な1Uラックマウントで、実質的にすべての施設に容易に統合できます。さらに、各シリアルポートには15KV ESD保護が搭載されています。PLC、CNC機械、スケール、スキャナ、および実質的にあらゆるタイプのセンサベースのシステムをTCP/IPネットワークにつなぐなら、こうしたコンソールサーバーが理想的なインターフェイスとなるでしょう。OEMで生産できる使い勝手の良いセンサシステムの多くは、これらのシリアル規格をサポートしており、コンソールサーバーを介してこれらのセンサに個別接続できます。注目すべきは、ボーレート、パリティ、ストップビットを個々に構成して、セットアップと操作を簡素化できること、そして最も遅いデバイスは速いデバイスを制限しないので、帯域幅を最大化できるということです。
Windowsユーティリティ、ウェブブラウザ、Telenetなど、さまざまなコンソールで管理すれば、操作者とプログラマはセットアップ、運用、監視を容易に行うことができます。また、SNMP MIB-IIのようなネットワーク管理ツールがあれば、標準ツールセットによる運用と監視も可能です。すっきり配線できるリアマウント式で、拡張やアップデート時の作業も容易です。内蔵のイーサネット端子を使ってさまざまなトポロジを実装でき、効果的な分散センサ群をシンプルに低コストで構成することができます。
工場と分散ロボットセンサの例:
例えば、中央コンピュータをマスタとして視覚化し、イーサネットスイッチ経由でシリアルコンソールサーバーに接続することができます。こうすることで、各ゾーンに高速の帯域幅が提供され、そこでコンソールコントローラが個別センサへのインターコネクトとして機能します。
図2のトポロジーの例は、局所ゾーンへのルーティングに、高速イーサネットスイッチ経由で冗長コントロールリンクを使用しています。各局所ゾーンでは、シリアルコンソールサーバーの長所を活かして、ロボットが通過するルート付近にあるすべてのセンサ、RFリンク、アクチュエータへのダイレクト接続リンクを構築することができます。
プライマリコントローラの障害が発生しても、バックアップ、ウォッチドッグ、フェイルセーフとしてリモートリンクもしくは冗長リンクを確立できます。これはローカル冗長コントローラ、またはリモート/クラウドベースの監視・管理システムになります。
図2:トポロジー例(画像提供:マウザー・エレクトロニクス)
まとめ
オートメーションを次のレベルに引き上げる工場、産業環境を実現するには、ロボットの環境で組み込みセンサと分散センサを組み合わせることが、最も安全で確実な方法でしょう。ゾーンを設定し、冗長安全機構を監視してすべてのシステムが正常に機能していることを確認できます。
シリアルポートは、今もセンサとアクチュエータを最もコスト効率よく分散できる方法です。
実質的にどのマイクロコントローラもUARTベースの通信機能を備えており、OEMと設計センサはこのタイプのネットワークに容易に組み込むことができます。また、ロボットの多くの責任がインテリジェント化した施設に委ねられるので、ロボットの装備を減らし、簡素化を図ることができるでしょう。