人間とロボットの協働:インダストリー5.0の製造ソリューション
「コボット」とも呼ばれる協働ロボットは、インダストリー5.0を実現しようとしています。単なる自動化の向上だけでなく、人間とロボットの関係を最重視する製造技術が求められるなか、この協調型ロボットアームは、まさにその要求に応えています。インダストリー4.0は、ビッグデータやモノのインターネット(IoT)などの先進的ソリューションに大きく依存するものでしたが、インダストリー5.0では、先進技術が現場作業員の手に直接委ねられます。この方向性を踏まえ、コボットは従来の産業用ロボットのように作業員から隔離された環境ではなく、人間と並んで作業するように設計されています。コボットは人間と作業スペースを共有し、「ピック・アンド・プレース」、「パレタイズ」、精密な組立作業、そのほか軌道計画を必要とする作業など、反復作業の自動化に優れています。
コボットの需要は、新型コロナウイルスの感染拡大時、製造業が熟練労働者の急激な不足に陥ったことにより、急増しました。そこで、自動化に興味はあったものの、まだソリューションを導入していなかった工場は、簡単にプログラミングできて、すぐに導入できる自動化の第一歩として、コボットに注目したのです。未曽有の状況下、コボットは労働力不足に対する費用対効果の高いソリューションとして、すぐに成果を出し、柔軟性の高い自動化を実現しながら、人間の労働者の安全を確保しました。それ以来、コボットの導入はますます加速しています。その理由は、コボットが従業員のスキルアップ、生産性の向上、従業員の安全確保、複雑なアプリケーションやプログラミングの簡素化など、多くの有益なメリットをもたらすからです。
従業員のスキルアップと生産性の向上
コボットは、人間とロボットの協働というインダストリー5.0の取り組みをまさに体現するもので、その導入によりメーカーは優れた事業運営が可能になります。より少ない労働力でより高品質な製品を生産し、生産能力を高めることで、経営陣は余剰人員をより戦略的な役割に再配置することが可能になります。これは、多品種少量生産を行う工場において特に有益であり、コボットの柔軟性と操作性によって業務効率を大幅に向上させることができます。
例えば、配管パイプ部品組立を行う、ある工場では、部品に接続する前に、チューブのネジ山にシーリング剤を塗布するために、多くの従業員を雇用していました。この重要な工程は、部品の水密性を確保するためのもので、この工場では、サイズや厚さ、組み合わせが異なる何千本ものパイプを扱っていました。
この作業の大部分をコボットに任せることで、工場は作業員をより効率的で価値の高い工程に配置できるようになりました。事業主は、ある作業員をコボットの監督に割り当て、ネジ山に正確な量の接着剤を塗布するようにしました。他の作業員はコボットと直接連携し、作業を分担して、配管固定具に収まらないパイプを手作業でコーティングしました。また、管理者は、その他の従業員のスキルアップを図り、コボットのプログラミングや品質検査の強化など、より戦略的な役割に割り当てました。
このプロセス全体を通じて、成功の鍵となったのは、コーティング工程に精通した熟練工がコボットのプログラムを構築し、コボットの作業を監督したことでした。最終的に、かつては多くの労働力を投入して行っていた単純作業が、少数の作業員とコボットとの協働作業へと移行し、その結果、従業員の価値が高まり、製品の品質と生産性が向上したのです。
従業員の安全確保
従来の産業用ロボットは、人間の作業員とは異なる存在でした。力やパワーの面で人間よりも圧倒的に優れています。かつては、安全上の理由から、工場では産業用ロボットは人間から隔離され、人間と協働することは不可能でした。今日、コボットは産業規格に準拠し、共有環境における人間との安全な協働を確保するための先進技術を搭載しています。
例えば、コボットの各軸の関節にはトルクセンサが戦略的に組み込まれ、人間とロボットの協働作業においてフィードバック信号を送信します。このセンサは、人間がコボットと安全に作業を行う上で重要な役割を果たします。例えば、作業員が誤ってコボットに接触した場合、トルクセンサが接触を検知し、コボットの力と速度を即座に低減させます。コボットの位置とコンプライアンス制御により、破損や切断の危険なく精密部品を取り扱うことができます。
しかし、このような先進技術の統合は、コボットのインタラクティブ性を強化する一方で、新たなセキュリティ上の懸念をもたらす可能性があります。人工知能を搭載することによって、作業員に有益な提案を行うことが可能になりますが、その一方で、個人情報や機密ビジネスデータへの不正アクセスなど、サイバーセキュリティの脅威にさらされる可能性も生じます。
つまり、コボットは能力と効率性の面で大きな利点をもたらしますが、人間の作業環境に安全に導入するには、継続的な技術革新が必要になります。
複雑なアプリケーションとプログラミングの簡素化
従来の産業用ロボットのソリューションと比較すると、コボットはメーカーにとってより使いやすく、簡単にプログラミングできる自動化ソリューションを提供します。コボットの最先端のハードウェアとソフトウェアにより、小規模な生産ラインから大規模な製造工場まで、幅広い施設で複雑な作業内容やプログラミングにも対応できるようになります。
ロボットにとって特に難しい作業として知られているのが、ランダムに置かれた特定の品目を容器の中から取り出す「ビンピッキング」です。人間にとっては単純な作業に見えますが、ロボットにとっては極めて「知的な」課題になります。エンジニアは、ビンピッキングを行うコボットに、容器の中身を撮影するオーバーヘッドカメラを取り付けます。このカメラシステムは、先進的な機械学習技術とアルゴリズムを駆使して、容器内の目的の部品の正確な位置を把握し、その位置データをコボットに送信します。コボットは、グリッパーやその他のエンドエフェクタを使用して、部品を容器から取り出し、次の場所に運びます。
協働ロボットの開発は、高度なプログラミングを簡素化する方向にも進み、産業オートメーションソリューションを作業員にとってより利用しやすいものにします。従来、その複雑さゆえにロボットとそのアプリケーションには専門技術者による特殊なコーディングが必要でした。それに対し、エンジニアは、コボットを誰でもプログラミングできるように設計することで、迅速な導入を可能にしています。コボットは、ツリーベースのプログラミング言語とドラッグ・アンド・ドロップ方式の直感的なユーザーインターフェイスを採用しており、これにより、プログラムの構築が容易にでき、導入期間を短縮できます。作業員は、ティーチペンダントと呼ばれるヒューマン・マシン・インターフェイスを使って、コボットのプログラミングや修理を行うことができます(図1)。
図1:作業員はティーチペンダントを使用して、ステップごとに操作しながら、コボットのプログラミングや修理を行うことができます。(出典:Ridvan /stock.adobe.com)
作業員がプログラムの作成に活用できるティーチペンダントの1つに、KUKAが開発した「コマンダー」があります。これは、コボットに搭載された手のひらサイズの感圧ボックスです。このプロセスでは、作業員が教育用の「コマンダー」を握り、ロボットアームを動かし、目的の作業の軌道を定義するポイントを選んでいきます。この機能は、溶接や接着などの作業の軌道をロボットに覚えさせるのに非常に便利です。将来的には、コボットのプログラミングにコーディングが一切不要になるかもしれません。その代わりに、作業員はアイコンやテンプレートを使って、事前にプログラムされた機能を実行できるようになり、導入プロセスがさらに効率的で直感的なものになるでしょう。
まとめ
コボットは、インダストリー5.0の革新的なテクノロジーです。従業員のスキルを向上させ、製品の品質と生産性を高め、従業員の安全を確保し、ハードウェアとソフトウェアの課題を解消します。コボットを工場に導入することで、メーカーは従業員をより戦略的な役割に割り当て、生産をさらに最適化することができます。また、人間が安心して協働できるように、コボットには先進的な安全技術が搭載されています。
さらに、コボットは、複雑な作業上の課題に対して、誰でもプログラミングできる新しいハードウェアおよびソフトウェア技術を採用し、その使いやすさを証明しています。インダストリー5.0技術の進化により、製造業では、人間と機械の関係が強化される、よりインテリジェントな自動化ソリューションが求められています。今後もコボットは、安全性、適応性、使いやすさでユーザーを惹きつけてゆくでしょう。