スマートグリッド: 未来の信頼できるエネルギー
レイモンド・イン:
私たちが毎日、当たり前に思っていることはたくさんあります。呼吸するための空気、飲料用のきれいな水、太陽、そしてベンジャミン・フランクリン、トーマス・エジソンやニコラ・テスラといった優れた頭脳を持つ偉人のおかげで得られるようになった電気です。考えてみてください。家や仕事場の照明から食べ物の保冷、機器の充電から電気自動車での移動まで、電気は現代文明の影の立役者と言えます。
電力供給が安定しているときは問題ありません。しかし時として母なる自然は、誰が優位であるかを私たちに思い知らせるかのように予想外の出来事を投じてきます。例えば、世界的なニュースにもなったここテキサスでスノーマゲドンがありました。都市の規模が拡大し、人口が増加する中で、私たちはエネルギーの節約と効率化において大きな進歩を遂げていますが、エネルギー需要は増加の一途をたどっています。
そこでスマートグリッドの登場です。思い浮かべて頂きたいのはより効率的な送電、停電後の迅速な電力復旧、電力会社の運用管理コストの削減、そして私たち全員の電気料金の安さです。さらに、グリーン・エネルギーという利点も忘れてはなりません。これは究極の相互利益をもたらす関係だと思います。電力会社にも消費者にも、そして地球にもやさしいのです。
こんにちは、司会のレイモンド・インです。「The Tech Between Us」で本日お迎えしているのは、米国エネルギー省電力局のプログラム・マネージャーのクリス・アーウィンさんです。スマートグリッドについて、その現状と将来についてお話しを伺います。クリスさん、ポッドキャストへようこそ。対談を楽しみにしておりました。
クリス・アーウィン:
ありがとうございます。お招きいただき光栄です。
レイモンド・イン:
では早速、スマートグリッドの全国的な取り組みに関連する、ご自身のさまざまな役割について簡単にお教えくださいますか。
クリス・アーウィン:
はい。私がエネルギー省に入ったのは、ちょうど15年前、復興法と呼ばれるアメリカの電力インフラへの莫大な投資が始まったころでした。そこではインフラ改善のため、約70億ドルから80億ドルの予算が組まれたのです。私は、助成金プログラムに従事するのに雇われました。入省して間もなく、スマートグリッドに連邦政府が約16億ドルを投資することになり、その助成金の担当者になったのです。それ以来、送電網の近代化に関する外部関係者の指導であったり、もちろん送電網、特に配電網に関する研究や近隣の送電網の研究を進めてきました。再生可能エネルギーや電気自動車といった、私たちが採用しつつあるもの全てに対応してきました。
レイモンド・イン:
助成金の手続きやさまざまなプログラムを通じて、多くの人々と関わり合ってらっしゃるようですね。
クリス・アーウィン:
助成金手続きは、割引価格で受けることができたので、受給者にはうれしいものです。アメリカの納税者の厚意で近代化が広まるのです。同時に、私は多くのことを学びました。小規模で資源不足の電力会社で近代化を行う方法から、ヒューストンのセンターポイント・エナジーのような大都市圏で近代化を行う方法まで、全国各地で学んだのです。
レイモンド・イン:
文字通り、あらゆるものですね。
クリス・アーウィン:
はい、そうです。
レイモンド・イン:
「スマート」という言葉は、どこのマーケティング部門でも乱用されているように感じるのですが、スマートグリッドを具体的にどう定義なさいますか?
クリス・アーウィン:
大雑把に言えば、送電網には多くのアナログ機器が使われていまして、電柱の先端にある灰色のごみ箱のような形の変圧器がそのアナログ機器です。それにはデジタル的な機能はあまりありません。スマートグリッドとは、それら全てにデジタルセンサ、デジタル制御、通信機能を追加することなのです。ですが、スマートグリッドを理解するには私たちが目指しているものから把握していただく方がわかりやすかと思います。消費者が自分の生活に必要な情報を手に入れ、必要に応じて電力網とやり取りできるようにしたいと考えているのです。時として、木が送電線に倒れたりという事が起こりますが、そういった時にこのシステムで自然治癒できるようにさせたいと考えているのです。ですからスマートグリッドで電力網の回復力、信頼性の向上、そしてカスタマー重視ということが改善されていくのです。
レイモンド・イン:
ニュースなどの報道で、送電網やインフラをアップグレードする必要性はよく耳にします。それはまさに皆さんが事業を展開している中心分野ですね。おっしゃったように、アナログ・グリッドからデジタル・グリッドへ移行する必要性は、どのような変化によってもたらされたと感じていますか?
クリス・アーウィン:
電気に対する需要が高まっているだけでなく、私たちの生活はますます電気に依存しています。昔はレジも何もかも電気に頼ることなく、灯りが消えたとしても問題ありませんでした。しかし、今は停電になると社会が止まってしまいますよね。ですから新たなレベルの信頼性、新たなレベルの電力品質を手頃な価格で追求する方法が必要なのです。現在、送電網に働いている大きな力は、脱炭素化と電化に関係していると思います。これらは、今日の近代化の必要性を推進する実に大きなテーマです。
レイモンド・イン:
ポッドキャストのいろいろなエピソードでも、何度もこのテーマが話されてきましたが、持続可能性、そして先ほどおっしゃったような、信頼性と回復力です。皆、信頼性とは何かということについて、非常によく理解していて、少なくとも頭の中では定義していると思います。次に回復力に関してですが、現代の送電網における回復力とはどのようなものでしょうか?
クリス・アーウィン:
信頼性というのは、灯りが常に点灯しているということです。青空が広がっている間に電気はつけたままということです。しかし、雲行きが怪しくなったり、雪が降り始めたりしたときこそ、回復力がより重要な課題になります。物事がうまくいかないとき、そこから立ち直れるか、どれだけ早く復旧するか、です。それを得るためにはさまざまな手法があり、電力システムを考える際には、すべてを追求する必要があります。
レイモンド・イン:
つまり、信頼性とは、通常の状況下ですべてがあるべき状態で確実に機能していること、スイッチをいれれば照明がつく、冷蔵庫で食べ物が冷えるといった具合に。一方、回復力とは物事がうまくいかない場合のことを表します。2021年2月にスノーマゲドンというものを経験したわけですが、物事はうまくいかず、お話されたような回復力もなく、ここテキサスでは不運な事態に見舞われました。
クリス・アーウィン:
そうです。申し上げたように、追求する方法はひとつではありません。回復力について、データセンターの形態で取り上げてみましょう。データセンターは完全に独立しており、電力に依存しています。送電システムから二本の独立したデュアルフィードが設定されています。ですから施設に二本の別々の送電線があるのが望ましいのです。そしてもちろん、施設の裏側にはディーゼル発電機が設置されています。これらが回復力計画です。送電網への二つの接続と、彼らが維持するディーゼル発電機へのサバイバル接続です。近隣レベルや顧客レベルでどうしたら電力供給を高めることができるかの良い方法です。
レイモンド・イン:
そうですね、個々の建物のレベルではなく、街全体規模のレベルでですね。ここマウザーにも予備の発電機があり、たまに電気がチカチカしても大丈夫です。倉庫は動き続けています。
クリス・アーウィン:
送電網について考えなければならないことに、社会的回復力があります。すべての人の回復力指数を高めるために私たちがいるわけです。そして、個々の組織や人々が自分たちの回復力レベルを選択できるようにしたいと思っています。各自が発電や蓄電、ソーラーパネルなどで回復力のレベルを上げられるということです。
レイモンド・イン:
クリスさんはエネルギー省の方ですが、スマートグリッドや新しい枠組みの確立には、他にどのような団体が関わっているのでしょうか?
クリス・アーウィン:
政府に関してだけでいうと、エネルギー省はエネルギーにおける研究と科学的使命を担っており、電力局は送電網の番人のようなものです。どうすれば送電網をより良いものにできるか、どうすれば安価な電力網を維持できるのかを考えています。そして電力システムとはただ研究されるものではなく、建設され、維持されるものですから、それはほとんど民間部門によってのみ行われており、政府機関ではない地域送電事業者などです。しかし、社会のあらゆる側面には何らかの規制があるように、自浄作用同様、ある種の監督も必要ですね。そこで、米国連邦エネルギー規制委員会、略してFERCは、一括受電システム、全米に張り巡らされた大きな送電塔、そして発電機を監視し、今日の信頼できる送電網を構築している市場とシステムの健全な機能を監督しています。
レイモンド・イン:
つまり、エネルギー省の皆さんは、新しい部品、新しいシステム、新しいやり方を研究する部門であり、その知識を全国の電力会社や配給会社に伝えているのですね。
クリス・アーウィン:
そうです。もうひとつ付け加えるとすれば、もう二団体が関わっていることです。送電網の近代化を担ったパートナーに農務省があります。地方公益事業を運営し、助成金や融資を提供し、地方電化を支援しています。農務省は、電力会社が地方に進出することが経済的に合理的でなかった時代に、地方電化を全国に普及させたのです。現在もその役割を担っています。そのため、農村部での公共事業は農業の現場から提供され続けているのですね。そして運輸省ですが、輸送の電化に伴い、送電網と電気自動車の相互作用を理解することに既得権益を持っています。そのため、私たちは運輸省と共同で、輸送とエネルギーについて研究もしています。
レイモンド・イン:
スマートグリッドの原動力のひとつは電化であるという先ほどのお話に戻りますが、自動車の電化が進み私たちの生活のあらゆるものが電化されるにつれて、より多くのパートナーが参入し、それぞれの専門分野で活躍し、エネルギー省の皆さんと協力して、送電網を拡大させ、信頼性と回復力を維持しているのですね。
クリス・アーウィン:
拡大といえば、輸送の電化、建物の電化、家庭の電化など、あらゆる電化のニーズに対応するために、従来の重油を使った方法から電気による暖房などに移行しています。つまり、グリッドにより生産・分配されるエネルギー量が倍増する可能性があるということです。ですからシステムの最上流にある発電量を二倍にし、すべての電柱と電線を二倍にすればいいかといえば、それでは将来への道筋としては非常に割に合わない非効率的なものなわけです。新たなパートナーを迎え入れると同時に、家庭やビルとの電気的関係を強化し、お互いに協力する方法を考るべきなのです。なぜなら、それがインフラのコストを削減し、より民主化されたエネルギーシステムになり、より小規模な資源からの支援や参加を受け入れることができるようになるからです。
レイモンド・イン:
おっしゃられているのは、誰かの家にあるソーラーパネルが、実際にその家での需要が低いときに送電網に貢献するというようなイメージで、その大規模版のようなものですか。
クリス・アーウィン:
もちろん、ソーラーパネルとネットメーターは、送電網への貢献が認められてきた手続きで、電気代の節約などにもつながり、もう何十年も前から行われています。しかし、この革命を成功させるには、数百万もの家々を横断する電気の流れを統制しなければいけません。すでに、大規模な発電機からのエネルギーの流れは調節できていて、いつ、どこで発電を行うかを指示することで、その信頼性は確保できています。しかし、1,000単位の調整から1,000万単位といった高度な調整はできていません。そこで、送電網のデジタル化が非常に重要になってくるのです。
レイモンド・イン:
なるほど、自分の家が電力網に幾らか貢献しているだろうとは思っていましたが、ご説明されたようにその全てを集約すれば、化石燃料のほぼ代替になるようなあるいは、発電全体の重要な部分を占めるほどにシステムそのものの主要な部分になっているとは考えたこともありませんでした。
クリス・アーウィン:
理解すべき非常に重要なことは、発電のみでエネルギーのニーズを解決できる可能性があることです。実際に電力網の末端で、エネルギー使用と私たちの行動を調節することができれば、システムの効率を劇的に高めることができるのです。
そして本当のすばらしさは、人々が自分の幸せのために購入したものに頼るということです。地元でグリーンエネルギーを生産したいため、人々はソーラーパネルを欲しがり、送電網と共有できるのは副次的な利益のようなものなのです。インバーターは信じられないほど強力で、適応性があり、制御可能な装置です。これは全ての地球にやさしい資源において先駆けて登場するものと思っています。
レイモンド・イン:
確かに新しい資源がありますが、化石燃料での発電がより従来のものであると思います。
クリス・アーウィン:
その通りです。グリッドの専門家と長く付き合うと、システムの慣性の喪失についてわかるようになりますが、アメリカのすべての火力発電所には大きな回転タービンがあり、大量の鉄鋼が快調に回転していることに関連しています。ですのでグリッドに変動があると、その大量の質量が60ヘルツの信号に戻されます。そして石炭火力発電所が廃止されると、システムの慣性を失ってしまうのです。ソーラーパネルには慣性はありませんが、インバーターがあり、そのインバーターは慣性と同じように電力を調整することができます。適切な情報があれば、60ヘルツに戻すことができるのです。
レイモンド・イン:
こうした新しいエネルギー源に移行すると、インバーターベースのネットワーク、制御、通信が現在よりもはるかに重要になるようですね。通信面についてもう少しお話しいただけますか? 効率的な大規模の発電網となるには、どのように通信する必要があるのでしょう?
クリス・アーウィン:
ご質問にお答えする前に一つ申し上げたいのは、今日、私たちは大規模な電力網上で、石炭、天然ガス、原子力、太陽光発電所を制御できるという事実です。我々が飛べといえばどれくらい高くですかと答える、そのように制御しているからです。しかし、一般の皆さんの資源はその皆さんのものです。ですから、尊重とその理解をもって提供をお願いします。「制御」と簡単に話しておりますが、実際には一般の皆さんを尊重し、丁寧にお願いして、高品質の電力サービスを受ける必要があります。その注意点を踏まえた上で、電力局にとって重要なのは、通信に移行できることです。というのも、今日の社会では非常に多くの接続が存在し、かつては電力網が通信のためにすべての接続費用を負担しなければなりませんでした。例えば、スマートメーターを誰かの家に設置する場合、通信設備も設置する必要がありました。しかし、今ではすべてが「無料」で接続され、購入価格に含まれています。ですから、これらの資産の接続性を十分に活用することができるのです。電力網のこちら側の接続性と、私たちが「メーターの裏側」と呼ぶ接続性の両方です。
レイモンド・イン:
つまりは接続性の問題なのですね。広域であろうと郊外であろうと、接続性は実にユビキタスになりつつあります。既存のもの、新しいネットワーク内にすでに存在するものを活用しているのですね。
クリス・アーウィン:
その通りです。新しい通信技術が導入されると、人々はそれを評価します。品質や稼働時間などの基準がありますよね。ですから単なるスループットの問題だけではなく、グリッドがデジタルによりスマートになるにつれて、それに伴う通信ペイロードやバックホールの必要性が生じます。
レイモンド・イン:
クリス・アーウィンさんとの対談の前編はいかがでしたでしょうか。後半もスマートグリッドについてさらに深く掘り下げていますので、お聞き逃しなく。このテクノロジーについてさらにお知りになりたい方は、The Tech Between Usのポッドキャストをご覧ください。技術記事やユースケースなど、「Empowering Innovation Together」コンテンツシリーズ全体は、https://www.mouser.jp/empowering-innovation-jpでご覧いただけます。