スマートグリッド: 未来の信頼できるエネルギー(続編)
レイモンド・イン:
The Tech Between Usへようこそ。引き続き、米国エネルギー省電力局のプログラム・マネージャーでらっしゃるクリス・アーウィン氏とのスマートグリッドの対談をお送りしています。前半をお聞き逃しの方は、ウェブサイトのEmpowering Innovation Togetherにアクセスください。
新しい送電網(グリッド)では、一般的な通信手段は何になるのでしょうか?数十年前のスマートメータでは、ZigBeeが電力会社との接続をしてくれた「モノ」であり、詳細な情報を電力会社に提供でき、お返しに電力会社が私の熱使用量をある程度制御してくれました。それは今でもあることなのでしょうか、それとも何か変化しているのでしょうか。
クリス・アーウィン:
ZigBeeは名前が変わり、少し変動していますが現存しています。グリッド側とカスタマー側の両方にZigBeeはありましたが、モノのインターネット化が進み、カスタマー側へと移行しました。ですからZigBeeはMatterシステムの環境下で継承されていると思います。しかし、数社の電力会社との調査結果で、通信ニーズを満たすのに12種類以上の通信技術を彼らが駆使しているのがわかりました。普通の古い電話サービスも含めます。マニアックな用語がお分かりなら、POTSのことです。
ファイバーやマイクロ波システムに加え、さまざまなライセンス不要の周波数帯やライセンス済みの周波数帯も利用しています。地上波ラジオはもちろん、衛星機能を持つものもあります。ですから、電力会社にとって、使命が電力であるにもかかわらず、それを果たすのに12から15もの異なる通信システムを管理しなければならないのです。それが今日の法律なわけです。
レイモンド・イン:
このようなシステムが利用可能で、双方向の情報伝達が可能であることが、参入の代償のように聞こえますね。
クリス・アーウィン:
忘れていけないのが、携帯電話サービス・プロバイダの存在で、多くの送電網運用やスマートグリッド技術では携帯電話通信が使われています。ですが、大惨事が起こる可能性なども考えなければなりません。なぜなら、制御が通信に依存し、通信が電力の存在に依存している場合、どうやって制御を行うのでしょう。通信が途絶えたとき、どうやって制御を回復させるのかということです。テレビ番組の「となりのサインフェルド」や好きなものをストリーミング再生するような、信じられないほど素晴らしい帯域幅を持つ民生用通信の利用には限界があるので、停電になれば「ジェリー」もいなくなり、送電網をオンラインに戻すために資産と通信をし続けないといけません。
レイモンド・イン:
携帯電話では、レガシーネットワークを多く使用しているのでしょうか、それとも新しいサービスとともに展開される5Gネットワークに期待しているのでしょうか。
クリス・アーウィン:
全部を使用しています。
レイモンド・イン:
本当に全てですか。
クリス・アーウィン:
まあ、低い数字のGに押され気味なので、できる限りコストのかからないシステムを使うようにし、自前でシステムを構築したりはしないようにしています。5Gや4Gのシステムはさまざまなニーズに対応することができます。先ほどのスマートメータには、902メガヘルツと928メガヘルツのライセンス不要のものも使われています。周波数帯域を少し上げたものもいくつかありますが、まだオープンな公衆無線です。タワーまで届く認可された無線システムもあり、携帯電話との接続も可能です。
レイモンド・イン:
そういったものは緊急事態のために必要なのでしょうか、それとも異なる帯域で異なる種類の情報を送信するために必要なのでしょうか?
クリス・アーウィン:
誤解のないように申し上げますが、スマートメータのベンダーは複数あり、彼らが使用する通信媒体は一般的にひとつだけです。
レイモンド・イン:
ああ、そういうことですか。
クリス・アーウィン:
差別化を図ったり、何か特別なことをしたり、電力会社に魅力的にするためにさまざまな技術の選択肢があるでしょうが、一つのパッケージで複数の通信経路が使用されることはほとんどありません。
レイモンド・イン:
なるほど、理解できました。つまりは、A社は5Gを使い、B社はまだLTEを使用している、C社は5Gを使いつつ、光ファイバーのバックホールか何かを使っている、ということですね。
クリス・アーウィン:
その通りです。10年か20年前に始まったZigBeeのサーモスタットへの通信など、カスタマーとの通信はまだ残っているのです。しかし、世界はWiFiに移行しています。WiFiの方が実装コストが安く、どこにでもあります。カスタマーとの直接通信という点では、グリッドエッジのインターフェイスにある場合は、通信にWiFiが使われます。
レイモンド・イン:
そうですね、WiFiは全米中、いや世界中に普及していますからね。
クリス・アーウィン:
そうです。
レイモンド・イン:
先ほどもおっしゃいましたが、スマートグリッドにおけるすべての通信や制御は、全国的で巨大なモノのインターネットシステムになりつつあるようです。そのような評価でよろしいですか。
クリス・アーウィン:
はい。そう認識されていると思います。実際、アメリカ全土に導線と送電線が張り巡らされていて、便宜上、私たち自身の健全性を保つために、全米を北東部、中西部、南西部のセクションに分けています。セクション間にはいくつかのラインがありますが、セルラー方式を採用することで、より堅牢で、各地域がそれぞれの特徴を表現できるようになりました。ご存知のように、テキサス州の送電網は米国の他の送電網から分離されています。これは、彼らが自己決定の観点から行った選択です。将来に向けて研究しようとしている全国的なネットワークがある以上、地域の特性を尊重しなければいけないと思っています。
レイモンド・イン:
インバータ主導のプラットフォームに移行するにつれて、生成されるデータは、先ほどおっしゃったように、それぞれのインバータがグリッドを測定し、制御するためのセンシング・プラットフォームになる可能性があります。そのデータ量はどれくらいなのでしょうか。他の多くのアプリケーションや産業と同じように、エクサバイト規模になるのでしょうか。
クリス・アーウィン:
いい質問ですね。電力局の電力諮問委員会でその話をする機会がありまして、送電網が分単位、秒単位で作成するデータについてそこで少し話したのです。実際、現代の送電網と一部の市場運営は、年間ベースで約38ペタバイトの情報量を運用していると推定されています。これらのセンサは毎秒、毎分測定しているわけです。重要のなのは、グリッド上でスマートな意思決定を行うためにどれだけのデータが利用可能か、スマートなことを行うために通信ネットワーク経由でどれだけのデータを持ち帰る余裕があるか、そしていつインテリジェンスをシステムのエッジに移すことがスマートな動きになるのかを理解することです。それから2040年までの将来予測では、36エクサバイトの情報を運用できるようになると予測しています。これは現在の情報の1,000倍です。また、送電網で生産・消費されるエネルギーのサイズがすでに2倍になることに、私たちはすでに若干の恐怖を感じています。ですからやるべき仕事は山積みですね。
レイモンド・イン:
こういったデータを使ってスマートなことを行うとおっしゃいましたが、どういった情報が利用可能で、電力会社やDOEは最終的にどのようにそのデータを制御や計測に利用するのでしょうか。
クリス・アーウィン:
送電網は、毎日、毎年、電気料金を支払ってくださるカスタマーのみなさんよってに支えられています。ですから、私たちはカスタマーに対して、サービスを提供する義務があると思っています。取り組んでいる情報のうち、非常に平凡なものですが、停電データがあります。電力会社の多くは停電データのウェブサイトをもっており、停電が発生した場合、電気を利用していることを前提にウェブサイトにアクセスすると停電の広がりなどが確認できます。私たちが電力局で取り組んでいることのひとつは、各電力会社が提供するデータのサービスを利用することで、停電の状況を携帯電話や使っているプラットフォームで確認できるようにすることです。このように、送電網の情報を人々の手元に届けることで、多くの公共的価値が生まれます。停電データはパワフルであり、驚くほどシンプルです。
こう言ったものに取り組んでいますが、おっしゃったように、インバータ主導の資源は、ほとんどがカスタマーの所有物です。ソーラーパネルや電子レンジ、電気自動車など、インバータは今後ますます普及していくでしょう。つまり、インバータには感知する力があるため、グリッド(送電網)オペレータとしてセンサを設置する必要がなくなるのです。実際にカスタマーからデータ・サービスを取得し、監視機能を提供してもらうこともできます。送電網のためのセンサをカスタマー自身が手にできるのです。システム機能においてますますカスタマー自身が重要になってくるわけですから、その彼ら自身へと彼らの能力を尊重する必要があります。ひとつ、将来へのデータ予測で申し上げなかったことがあるのですが、2040年までには36エクサバイトのデータの半分はカスタマー所有のインバータやカスタマー所有の電気自動車からのものになるということです。ですから電気システムの民主化は実現しています。
レイモンド・イン:
興味深いですね。もしカスタマーが発電機を所有することになった場合、電力会社との関係はどうなるのでしょうか?ガラッと変わるのでしょうか、それとも現在あるものの上層におかれる形でしょうか。
クリス・アーウィン:
この問題には長い間取り組んできました。素晴らしい資源が存在しますが、規制当局が制御できるのは、電力会社が行う投資だけです。電力システムの規制当局は、カスタマーに特定のことがらをお願いできないのです。そのため、電力企業が必要に応じてカスタマー所有の機能を利用できるようにし、そのサービスへの補償を行いつつ、最終的にはますます信頼性の高い、ますます回復力のあるシステムを構築する方法を考えなければと思っています。それには、バランスを考えないといけません。LyftやUberのように、実質的に車両を所有していないにもかかわらず、交通サービスを提供している企業がありますね。彼らは、経済的インセンティブと素晴らしい技術、システム上独立したドライバーが自由に行動し、非常に信頼性の高い、経済的で魅力的なシステムを作り出しています。
レイモンド・イン:
まさにそうですね。
クリス・アーウィン:
グリッドの信頼性レベル次第の話ではなく、彼らから得られるインスピレーションはそこまでで、私たちの課題はそこからです。
レイモンド・イン:
では、自動車からグリッドを意味するV2Gについてお伺いしますが、個人のEV車からエネルギーをグリッドに送り、その代償をいくらかもらったりするには、その個人が契約か何かをする必要があるのでしょうか。ネットワーク接続のある個人宅で行わないといけないのでしょうか。
クリス・アーウィン:
それですと、とても面倒です。ですが、最新のEV車にはほぼインターネット接続がありますよね。
レイモンド・イン:
それはそうですね。
クリス・アーウィン:
自動車メーカーにはテレマティクスがあり、それがあることで、より信頼性を高め、問題を報告できたり色々なことができます。ですから接続性はあるわけで、電力会社が一軒一軒まわってグリッドサービスがありますか?と聞いて回らなくても、拡張できる方法があるわけです。
もっと効率的にそういったことができる方法は間違いなくあります。しかし、こういったカスタマー所有の資産に、接続性、データ、エネルギー機能があることで、私たちは信頼性のあるシステムを作ることができますが、私たち側でも何らかの変革を遂げる必要性があると思っています。
レイモンド・イン:
そうですね。制御と通信の両方の変革、そして、全てを考慮して効果的にするには、ある時点で政策を少し変える必要があるのかもしれませんね。
クリス・アーウィン:
はい。独立した発電所や電力会社においてはそれはもっともだと思っています。例えば都市の半分以上の人口が、自立心や、お買い得であったことから自家発電機をもっているとします。規制当局は、電力会社が停電になった場合、信頼性が低すぎるという理由で罰する方法などがありますが、電力会社が回復力のある国民を持つことを評価しません。ですからおっしゃる通りで、政策や規制に何らかの革新が必要で、そういうことを認めるべきだと思っています。例を挙げると、カスタマーが電気自動車やソーラーパネルを所持して、停電などが起こっても車を駐車しておけば、1、2時間、2日などの停電でも気にしなくて済みます。そういった価値を認識する法的な手段がないので、人々にシステムの回復力向上のための参加を促す方法を模索している最中なのです。
レイモンド・イン:
そうですか。実はこのオフィスでもそう言った話題がありました。何人かの社員がEV車を所持しているのです。彼らがEVで実際に電力を回したり、送電網に電力を供給したりするとは思ってはいませんが、そのうちの1人が「誰かに自分のEVに直接アクセスさせて電力を吸い出させることのなんて絶対にさせません」と言っていました。ですが、それも状況次第でどうにでもなるのではと思いました
クリス・アーウィン:
これを「こんにちは、政府の者です。あなたの電気を提供してください」と言うような具合ですと、うまくいきません。しかし、自由市場の仕組みがあり、売り手と買い手を結びつけられますよね。電気自動車の分野では、安いガソリンを得るのにもう5–10マイルも遠回りしてもいいという人にはそういう経済的な動機で、車を自宅に駐車させ、充電を深夜まで延期するというのもありです。朝には充電率は100%で、何も変わっていません。それでも、午後5時に自宅でプラグを差し込んだ途端に7.2KW 19,000ワットの電力を消費し始めないので、送電網はより良くなっています。"
"レイモンド・イン:
彼らにとっても、普段とほとんど変わらないことをするだけで、ポケットには20ドルが入ってくるというわけですね。
クリス・アーウィン:
UberやLyftを例にとると、そういった人たちは運転する車を持っていて、会社のために自分の時間を割いて働いています。グリッドに関しては、指一本動かさなくていいのです。資産を送電網と少し相互作用させるだけで、EV車が送電網からお金を稼いでくれるので、映画を見たり、ディナーを楽しんだりしていればいいのです。こういったシステムを実現するには、適切なインセンティブが必要ですが、実はすでに社会で、実際にそのような妥協点を満たす例があります。
レイモンド・イン:
なるほどその通りでしょうね。おっしゃったように、そうしない人もいるでしょうが、一方で、いろいろな理由でそうしたいと思う人もたくさんいるのでしょう。
クリス・アーウィン:
まあ、大半の父親はガソリンを数セント節約するのに少しの遠回りは厭わないですよね。ですから最初のターゲット層はすでに決まっているわけです。
レイモンド・イン:
「The Tech Between Us」のエピソードをお聞きいただき、ありがとうございます。スマートグリッドについてさらに詳しくお知りになりたい方はhttps://www.mouser.jp/empowering-innovation-jp の Empowering Innovation Together のページへお越しください。ビデオ、技術記事などこのテーマに関するマウザーの豊富なコンテンツをご覧いただけます。