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インダストリー5.0: 人間の役割を高める 製造業のスマート化

インダストリー5.0:
人間の役割を高める
製造業のスマート化

マーク・パトリック:
皆さん、こんにちは。このイギリス訛りでもうお気づきの方もいらしゃるかもしれませんが、私はレイモンド・インではございません。休暇中の彼に代わって、本日の司会は、再び、私、マウザー・エレクトロニクス、EMEAテクニカルリーダーのマーク・パトリックが務めさせていただきます。今回のポッドキャスト「The Tech Between Us」では、インダストリー4.0の次に来る新たな世界について掘り下げていきたいと思います。
さて、新型コロナウイルスの感染拡大はサプライチェーンを大きく揺るがし、世界は今もその回復の途上にあると言えます。より回復力が強く、適応力のあるシステムの必要性が浮き彫りになりました。それだけでなく、地球とその資源をこれまで以上に保護する必要性が高まっていることに目を向けるきっかけにもなりました。今、「インダストリー5.0」の到来にあたり、AIやIoTなどのテクノロジーが、製品の製造や流通のあり方を大きく変えようとしています。しかしこの変革は、企業や働く人、さらには社会全体にとって、どのような意味を持つのでしょうか。
本日は、業界の専門家であり、ISA(国際自動制御学会)デンマーク支部の支部長である、レオナルド・デントーンさんをお迎えし、この人間を中心とした産業革命に関して、その理念、技術的進歩、業界への影響についてお話を伺いたいと思います。
レオナルドさん、「The Tech Between Us」にお越しいただきありがとうございます。
レオナルド・デントーン:
こんにちは。お招きいただきとても嬉しく思います。番組をお聴きの世界中の皆さん、こんにちは。よろしくお願いします。

マーク・パトリック:
こちらこそ、今日このような対談ができることを本当に嬉しく思っています。まずは簡単に背景からご説明いただきたいのですが、国際自動制御学会、通称ISAと、そこでのご自身の役割について、そして、産業自動化技術の採用を支援するISAの取り組みについて少しお話いただけますか。
レオナルド・デントーン:
わかりました。国際自動制御学会、またはISAは、1945年に米国計測協会という名称で発足した非営利団体です。その後、自動化が普及し始めたのを受け、オートメーション分野にもその対象を広げました。その目的は、産業分野における幅広い計測やオートメーション技術の教育、トレーニング、情報交換、そして標準規格の策定です。ISAの標準規格の多くは、特にサイバーセキュリティの世界で非常に有名なISA 62443をはじめ、各分野での世界的な基準となっています。ほかにも、バッチ制御と製造オペレーション管理に関するISA88とISA95があります。私はデンマーク支部の支部長を務めていますが、ISAは各国の支部で構成されています。私はデンマークでのイベントのコンテンツを統括しており、ISAの理事会と緊密に連携を取りながら、デンマーク国内のイベントで有意義なコンテンツを提供できるよう努めています。

ここで、本日お話しする内容は、ISAを代表してではなく、あくまでも私個人の見解であることを最初にお断りしておきたいと思います。私は以前、インプリメント・コンサルティング・グループ(Implement Consulting Group)というデンマークのコンサルティング会社でシニアコンサルタントとして働いていました。同社は従業員1,800人規模の大企業で、私は業務効率化を担当する部署に所属し、具体的には、製造業の企業が全部門にわたってデジタル化を達成できるよう支援する作業部会にいました。そこでは、戦略から始まり、技術設計、ベンダーの選定、実装に至るまで、つまり、全業務にわたって、極めて実践的な対応を行っていました。
マーク・パトリック:
今、お話に出た多くのことについてこれからお話しを伺うことになると思いますが、リスナーの中には、産業オートメーションの分野にあまり馴染みがない方もいらっしゃるかもしれません。そこで、産業オートメーションの簡単な歴史についてお話いただけますか。かなり昔からのものであることを忘れている人もいることでしょう。どのような背景があり、どのようにインダストリー5.0に至ったのでしょうか。

レオナルド・デントーン:
わかりました。それでは、5つの産業革命についてお話したいと思います。第1次産業革命は、蒸気機関の導入と大量生産によるものでした。第2次産業革命は、主に電気の導入と鉄鋼業および化学工業の進歩によるもの。そして、第3次産業革命から、いよいよ産業の自動化が始まりました。つまり、コンピュータやより高度なデジタル技術、電子機器の登場により、世界中の工場でオートメーションが導入されるようになったのです。第4次産業革命、つまりインダストリー4.0については、ドイツのアーヘン大学が開発した成熟度モデルを使って、説明したいと思います。このモデルでは、インダストリー4.0を4つのステップからなるプロセスとして定義しています。ステップは全部で6つあり、最初の2つはインダストリー3.0、後の4つはインダストリー4.0とされています。
最初のステップは、コンピュータ化です。つまり、デジタル技術と電子機器を製造現場へ導入します。センサ、アクチュエータ、デジタルロジックを活用して生産工程を感知し、操作できるようになり、人間が生産工程に介入する必要がなくなります。次のステップ2は、接続性です。これにより、製造現場全体に分散したコンピュータからではなくても、中央の制御拠点から、機械を制御できるようになります。以上の2つのステップは、ご存知のとおり連続したものであり、インダストリー3.0に位置付けられます。
インダストリー4.0について言えば、成熟度モデルの最初のステップは、製造現場で何が起こっているのかを可視化することです。つまり、すべての機器をモニターにつなげ、現場でデータを利用できるようにします。ただし、そのデータが何を意味するのかについて共通の理解があるわけではないため、必ずしもそれに基づいて行動するわけではありません。成熟度モデルのステップ4は、透明性です。つまり、最終的に、データが何を意味するのかを理解し、それに基づいて行動することができます。
ステップ5は、予測可能性です。つまり、今起こっている情報に反応するだけでなく、将来何が起こるかを予測できるということです。データや先進技術を活用して、機械、生産工程、人間の行動を予測し、起こり得る事態に備えることができます。つまり、何かが起こる前に適応できるということです。そして最後のステップ6は、自己最適化です。完全自動化された「無人工場」が話題に上るようになり、エンジニアたちは、機械が自律的に稼働し、工場に人がいらなくなる世界を思い描くようになりました。機械は収集したデータに基づいて自ら反応し、生産工程全体は自動的に最適化され、調整されます。さて、この次には何が来るのか、もうこれ以上ないだろうと思うかもしれません。しかしこの次に来るのが、インダストリー5.0なのです。
インダストリー5.0は、EU(欧州連合)の取り組みから生まれました。EUは、経済的、政治的な超国家的連合体ですが、ヨーロッパの加盟国全体で価値観を一致させることを重視しています。そこで政策立案者たちは、持続可能な開発目標として、トリプルボトムライン、つまり、「人」、「地球」、「利益」の3つの要素を掲げています。つまり、利益だけに焦点を当てるのではなく、世界にプラスの変化をもたらすことにも目を向けます。コロナ禍で何が起こったかを考えると、今述べたこととの意味がわかると思います。プラスの価値観への転換とコロナ禍で起きたことは、インダストリー5.0の3つの柱に反映されています。インダストリー5.0とは、産業革命に対するアプローチの転換に他なりません。その3つの柱とは、「持続可能性」、「回復力」、「人間中心性」です。
コロナ禍では、「回復力」という言葉を何度も耳にしましたが、これは混乱に対応できる能力を意味します。ここ数年でサプライチェーンに影響を与えた事例は数えきれないほどあります。「人間中心性」という考え方については、コロナ禍によって労働者の健康と福祉への関心が高まったことが背景にあります。コロナ前と同じ条件で職場に戻りたいと思う人はもういないのではないでしょうか。そして、「持続可能性」は、より環境に優しい未来をつくり、地球の資源に対する意識と配慮を高めるという当局の取り組みと一致しています。しかし、テクノロジーに関しては、大きな変化があるわけではありません。ただ、コロナ後に生成AIが登場したことがニュースになり、人工知能に対する関心が高まりました。確かにコロナ後の話題を席巻しましたが、実はアプローチの転換に過ぎないのです。ですから、私はこれを「インダストリー4.1」と呼ぶことがあります。テクノロジーの飛躍的な変化ではなく、アプローチの転換にすぎないからです。しかし、政策立案者たちは私よりもマーケティングに長けており、アプローチの転換の重要性を強調し、誰もが理解できるように、「インダストリー4.1」ではなく「インダストリー5.0」という名称でブランディングを行ったのです。

マーク・パトリック: 
そうですね。興味深い点ですね。先ほどのお話に戻りますが、実現技術について私も同じ考えです。AI ツールが誰にでもアクセスしやすく、利用しやすくなったことで、AI ツールの能力と人間中心性がさらに強化されると思います。この点については後ほど詳しくお話を伺いますが、完全にロボット化された生産工程というユートピア的な夢、つまり、先ほどのお話にあった「無人工場」は、現実というよりもSF映画の中の話なのではないでしょうか。というのも、人間には意味のある仕事や役割がやはり必要だからです。これは、人間がより価値の高い役割へと移行していくという、インダストリー5.0のメリットの1つであるのかもしれません。そこで次の質問に移りたいと思います。ここまで、産業オートメーションとは何か、その歴史と経緯、インダストリー5.0の意味についてご説明いただきましたが、この「人間中心」のアプローチを採用することで、人間や生産工程にどのような利点があるとお考えでしょうか。「持続可能性」と「回復力」については、その概要を説明するのは簡単かもしれませんが、「人間中心性」になると、別の視点が必要になるように思います。では、どのような利点があるのでしょうか。
レオナルド・デントーン:
私もその1人なので言わせてもらえば、エンジニアは一般に他の人と比べて感情的知性が高くありません。ですから、従業員は単なる数字や工数である前に、ひとりの人間であることを思い起こさせてもらう必要があります。
マーク・パトリック:
ええ、数字ではないですね。

レオナルド・デントーン:
先ほどお話したように、無地工場や、アーヘン大学のインダストリー4.0における成熟度レベル6の段階までは、人間が行う仕事はどれもある程度型にはまったものでした。より良い労働環境への関心の高まりは、特に人材の確保、労働意欲の向上、そして魅力度という点で非常に重要です。この問題について、いつか業界のビジネスリーダーたちと話がしたいと思っています。コロナ禍の後、職場の状況が変わったという話をよく耳にします。今では、社員を定時に出勤させることや、そもそも出勤させることが難しくなってきています。人材の確保はさらに難しくなり、特に若い世代の人材を惹きつけるのは非常に困難です。なぜなら、うるさく、汚く、繰り返しの多い仕事にはますます就きたがらなくなっているからです。
マーク・パトリック:
あのような状況から、さまざまな要望が出てきたのでしょうね。私たちのいる流通業界でも、コロナ禍を経て、従業員のニーズを満たすハイブリッド勤務が生まれました。
レオナルド・デントーン:
その通りです。こうした人間中心のアプローチを推進する主な要因の1つは、先進国の労働人口が減少していることです。2040年までにドイツでは130万人の就業者が減少すると予測されています。日本では700万人、中国ではなんと8,100万人が減少します。つまり、労働人口が減少し、流動性が高まっているのです。昨年、私は食品飲料業界の大手メーカーでパッケージ製造に携わっていたのですが、その企業はアリゾナ州フェニックスの大規模工業団地に製造施設を持っていました。そこで目にしたのは、工場の従業員の離職率が年間50%を超えるという状況でした。つまり、その工場は、人材の確保や雇用維持、新しい人材の継続的な育成に大きな問題を抱えていたのです。その理由は、隣に新しい工場ができたことで、そちらの方が労働条件や給与が多少良かったため、従業員が移ってしまったからです。ですから、人間中心性がますます重要になる理由の1つがここにあります。最適化やプロセスの効率化を追求する動きの中で人間中心性は見落とされがちなので、この点を強調する必要があります。
マーク・パトリック:
従来の資産中心のアプローチをしていたのですね。確かに資産だけが重視されていました。もちろん、人間が関与して、創造性、柔軟性、適応性をもって状況に対応しなければ、それも維持できなかったはずです。ですから、資産中心から人間中心への転換が必要だということですね。フェニックスで目にされた状況とは、そういうことでしょうか。
レオナルド・デントーン:
その通りです。製造業は昔から資本投資が高額なのが特徴で、当然のことながら、資産や投資資本を最大限に活用することを重視します。しかし、現在では、次々と人間中心のテクノロジーが登場しており、その顕著な例のひとつが、産業用ソフトウェア市場で最も高い成長率を記録している、新しいコネクテッドワーカーアプリケーション製品です。これは、タブレットやスマートフォンで動作する軽量なアプリケーションで、個人的にスマートフォンでよく使うアプリと似ています。従業員同士、または従業員と機械の間で、知識の取得と共有をより軽快に行うことを目的としており、強力なツールとなります。これは、例えば製造実行システムなどとは対照的な、人間中心のアプリケーションの一例です。特に、これまで市場を支配してきた大規模なシステムでは、機械や資産に重きが置かれ、人間に使いやすいインターフェイスを提供することなどは考慮されていませんでした。

マーク・パトリック:
これは、誰もが日常生活で経験していることですね。人間中心であることによって、働く人は、複雑な先端技術に囲まれた環境でも、より簡単に、より直感的に作業できるようになります。ですから、そのようなインターフェイスを導入することが、お話にあった人間中心性を実現する上で非常に重要になるのだと思います。
レオナルド・デントーン:
その通りです。
マーク・パトリック:
今回の対談を聴いて、インダストリー5.0に興味を持たれた方は、マウザーのEmpowering Innovation Togetherコンテンツシリーズをぜひご覧ください。こちらからアクセスいただけます。 mouser.com/empowering-innovation