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ゾーン・アーキテクチャ パート1

レイモンド・イン:

ここ数年の自動車テクノロジーの進歩を見ますと、1990 年代から語られていることを思い出します。その都市伝説とは、当時のマイクロソフトCEO、ビル・ゲイツ氏が、もしゼネラル・モーターズがコンピューター業界のようにテクノロジーに遅れずについて行ってたら、我々は皆、価格25ドルで1ガロン1000マイル走る車を運転することになるだろうと語ったものです。これに対しGMは、 マイクロソフトのようなテクノロジーをGMが開発したら、皆、次のような特徴の車を運転することになるだろう、と反撃しました。

1. 理由もなしに、1日に2回車がクラッシュする。

2. 高速道路で車が動かなくなる。道路の脇に車を寄せ、すべての窓を閉め、車の電源を切り、再始動して窓を開ける必要がある。これを普通のこととしてみな受け入れるようになる。

3. エアバッグシステムに「よろしいですか?」と導入前に尋ねられる。

リストはまだまだ続く、と言った具合です。

正直なところ、ビル・ゲイツ氏は具体的には言及していませんし、コムデックス見本市での彼の発言は文脈から外れています。しかしその30数年後、平均的な自動車は今や動くコンピューティング・プラットフォームとなっています。

AutoPiによると、現代の自動車には30から100以上の電子制御ユニット (略してECU) が搭載されており、それぞれに一つ以上のマイクロコントローラーユニットがついているので、自動車における高度なコンピュータとなっています。数億行とは言わないまでも数千万行のコードが実行され、電動化や自動運転化が進み、自動車はさらに急速に進化を遂げています。では、これら二つのテクノロジーがより密接に融合するにつれて、開発のどの段階に私たちはいるのでしょう?

自動車業界の今後の進歩をナビゲートいたしますので、ご準備ください。本日は、ドイツのロバートボッシュ社の完全子会社であるETASの最高技術責任者であるクリスチャン・ウーバー氏をお招きしています。

レイモンド・イン:

クリスチャンさん、ようこそお越しくださいました。

クリスチャン・ウーバー:

こんにちは、よろしくお願いいたします

レイモンド・イン:

では、ご自身のことと、ETASについて少しお話しくださいますか。

クリスチャン・ウーバー:

ETAS30年以上前にボッシュから独立した企業です。当時は、自動車開発者が電子制御ユニット(ECU)へのソフトウェアアクセスを必要としていた時代で、走行中にECU内部のパラメータを変更することができました。これは当時まだ新しいビジネスで当社のECUだけでなく競合他社も必要であったので、そこから大企業へと成長していきました。今では数量20億を超える導入実績を持つ自動車用オペレーティング・システムミドルウェアを提供しています。それはとても優れているので、問題もなく、機能性はたしかだと言うのが私の持論です。

それに加え、私たちは、開発ツール、検証、妥当性確認ソリューション、車両内部の高性能記録用の特別なハードウェアを提供しています。実際に道路で走る車をリリースしたいのであれば、必要なものは何でもおまかせください。

レイモンド・イン:

素晴らしいですね。そして、同感です。技術が十分に発達し、どこにでもあるユビキタスなものになれば、その技術は消えてしまう。そして、意識しませんが、知ってか知らずか誰もがそれを使っているのですよね。

クリスチャン・ウーバー:

その通りです。

レイモンド・イン:

では、クリスチャンさん、現在の車は、電子機器的には、基本的に各機能や特徴が、電子制御ユニットよって制御されるように設定され、それが機能していますよね。少なくとも、そうすることでうまくいっているように見えます。それが今後機能しなくなるのはなぜでしょう?また、どのような新機能や新技術が、自動車の電気設計方法に変化をもたらしているのでしょうか?

クリスチャン・ウーバー:

興味深い質問ですね。おっしゃる通り、局所的な機能という観点からは、現在のモデルは非常にうまく作用しています。ごくシンプルな機能である車の窓のアクチュエータを例に取ってみましょう。アクチュエータを流れる電流を測定することで、電流が上がれば、明らかに何かがあるということで動かなくなり、すぐにアクチュエータを停止できます。非常に単純な論理で且つ安全対策も大変容易ですし、長年にわたる経験からコストも最適化されています。それを変える必要はないですよね。

レイモンド・イン:

たしかに。

クリスチャン・ウーバー:

車両では、全体的な観点からみると、更なる要因が関係してきます。たとえば、1 ドルあたりで得られる計算能力の量は、マイクロコントローラー分野での増加よりも、電子機器や新しいテクノロジでの増加の方がはるかに速いという認識があります。しかし、これは時間の経過とともに得られる一種の性能であり、電子機器における性能が放物線を描くようになったという感覚かと思います。これには反論もあることは確かなのですが、また別の要因も考えられます。現在1ドルあたりで得られる純粋な計算能力の量を見るとします。システム開発にかかる総コストを、ソフトウェアにかかるコストで見てみると、ハードウェアのコストと比較してますます高額になるのです。そして、その観点から考えると、戦略的要請が多くあり、これまで非常にうまく機能してきたモデルを、より集中化した、車両における他のトポロジーつまり同じハードウェア上にさらに多くのものをまとめたあげたものへと変更させることになり、両方のモデルでの長所を引き出そうと考えているわけです。

レイモンド・イン:

つまりコンピュート・パワーを追加する費用を、自動車そのもので最適化しようとしているのですね。それが重要な要因なのですね。

クリスチャン・ウーバー:

はい、そう思います。つまり、要因のひとつはコストです。投資家1ドルあたりどれだけの機能を提供できるかです。もうひとつの要因は、非常に多くの機能を提供していることです。特にインフォテインメントの分野では、市場投入までの時間にもよりますが、製造現場以降でも多くの機能が車両に提供されています。人々が自動車に期待するものは変化していますから。ただ電気機械的に動くものを期待してるのでしょうか?それとも、携帯電話のようにアップデートされることを期待しているのでしょうか?ですからそう言ったものが要因になるのです。そして、これはいくつかの新しい設計のタイプにおいて、これまでの完全な分散型モデルよりも、達成しやすくなっているのは確かです。

レイモンド・イン:

そうですね。後部座席では子供たちを楽しませなければなりませんし。では、現在どのような代替案が検討されているのでしょうか?つまり、明らかに設計が変化していますよね。自動車メーカーが真剣に検討している特定の設計があるのでしょうか?

クリスチャン・ウーバー:

はい。全てのモデルが考慮されていると思います。テスラや一部の中国企業は、基本的に一台の大型車載コンピューターにすべてのセンサーが接続された完全集中型モデルの採用で知られています。その一方で、従来のOEMに近いドメイン・アーキテクチャと呼ばれるものがあり、ドライバーアシスタンスなどのすべてが、一つに統合されたデバイスにまとめられています。ここでの課題は例えばデバイスの前面と背面にいくつかのセンサがあり、それらを専用の配線で特別なドメインに接続しなければならないことです。ですがこれはドメインに非常に近いものです。多くの場合、パワートレインのドメインと組織があり、シャシー、ボディ、ドメイン、そして連携して機能する大規模な組織と言ったもので、今でも車両の中にはこのような設計パターンを採用しているのがあります。また、それらの中間にあるもので、ゾーン・アーキテクチャと呼ばれるものがあり、配線を最適化して接続しています。例えば、フロントセンサはフロントのゾーン・コントローラに接続され、右フロント、左、バックは左のゾーン・コントローラーに接続されると言う具合いです。そして、これらのシステムはバックボーンを介して接続されています。多くの場合、イーサネットなどの技術が使用されます。これは、多くの利点を備えた、より多様に最適化された最新の設計パターンですが、課題も数多くあります。

レイモンド・イン:

つまり、右フロント、左フロント、右リア、左リアのというゾーン・アーキテクチャでは、単一のコンピュートプラットフォームが右リアのタイヤ空気圧を測定するだけでなく、右リアウインドウを作動させ、またそのエリアにある他の電子機器も作動させるということですね。つまり、そのエリアのすべての機能が一つのプラットフォームで制御されるということですか?

クリスチャン・ウーバー:

それは状況によりけりです。ですから利点の一つは、車両内にセンサに対する低遅延要件や安全要件を備えた密接な制御ループが依然として多数存在することです。それは確かに利点です。また、これらのゾーン・コントローラー上で実際の制御ループをアクチュエーターやセンサのすぐ近くで実行できるという設計上の利点もあります。特にレガシーと安全性に関して、設計上の利点がありますが、それは実際には、すべての機能がそのゾーン・コントローラー上で正確に実行されなければならないという現在のパターンへの変更を意味しているわけではありません。すべてのシステムがバックボーンに接続され、最も自由に機能を展開できる場所で実行できるようになり、アクチュエーターの近くでリアルタイムのもの、安全上重要なものを実行するのです。

レイモンド・イン:

そうですか。おっしゃったように、もう少しハイブリッドというか、妥協の設計のようなもので、エリアハイレベルコントローラーを持ちながら、リアルタイムで、安全性が重要なものは各ゾーン間で管理されているのですね。

クリスチャン・ウーバー:

はい、実際に私が経験したことをお話ししますが、ETASCTOになる前は、ボッシュで自動運転のソフトウェア設計のチーフとして働いていました。ドライバー・システムの機能をカメラに組み込みそれぞれ携帯電話と連携させていたのですが、その機能を別のコンピューターに移行し、週ごとに実行する機能を統合するセンサーを搭載させる必要がありました。ですがそれが私たちの予想よりも10倍も難しかったのです。というのも、パスワード認証が当然と思われていた多くのものが、突然、認証されなくなるからです。全てがつながるわけなので安全面においての課題も新たに起こります。それぞれの機能はピアツーピア接続がされているわけではありませんし、通信バスなどで、全てが共有されるのです。

干渉をなくす観点から、これまで相互に保護する必要がなかったものを保護しなければならなくなります。そして、より多くの人々と話す必要性が増えます。一元化すれば全てがより簡単になると期待していましたが、人々と話し合ったり調整したりしなければならない事が爆発的に増えるのです。共有リソースを誰がどのくらい取得するかといったことを調整しなければならず、新しい設計に期待していた効率の向上は、実際には当初考えていたほど単純でも簡単でもないことが判明しました。

レイモンド・イン:

おっしゃるように、リソースだけでなく、それぞれの特定のシステムがどのような優先順位を得ているかがより重要なのですね。あなたがおっしゃっていた "人々"とは、エンジン担当者やインフォテインメント担当者など、自動車会社内のさまざまなグループのことですよね?

クリスチャン・ウーバー:

ええ、その通りです。ですから私たちは実際のコストを過小評価しがちなのです。斬新な設計図を描くのは非常に簡単ですが、これらのシステムを道路に導入していくには安全性が脆弱になります。それを機能させ、生産にこぎつけるには、多くの人々の関与があります。そしてもしそれが可能で実際、何らかの方法でこの点に到達することができこの新しい設計パラダイムにおいて人々を一致させられたのなら、実際に以前のものよりも優れた成果が得られるわけです。ですがこれはテクノロジーの変化よりも過小評価されることが往々にしてあります。

レイモンド・イン:

そうですね、おっしゃったように、新しい設計をホワイトボードに描き出すのは簡単で、「これは完璧だ」と思うのですが、実装に入ると、それほど効率的ではなかったという傾向があります。では、これらの新しい設計には効率の向上があるのでしょうか?配線などが減っているとおっしゃっていましたが、現代の自動車には実際にワイヤーハーネスが搭載されており、端から端まで、その間のすべてを配線しようとするとかなりの重量になりますよね

クリスチャン・ウーバー:

それは本当に重要な要素です。また、純粋な材料費だけでなく、新しいトポロジーの柔軟性を高めることも重要です。つまり、すべてが本当に効率的なバックボーンで接続されていれば、多くの柔軟性が得られます。多くのケーブルが必要な代わりに、1本のケーブルで済みますし、設計のトポロジーもずっと簡単になります。これは重要だと思いますが、私はソフトウェア開発出身で、特に非常に大規模な組織でのソフトウェア開発は、複雑さが爆発的に増大するのを目の当たりにしてきました。問題の大きさだけを比較すれば、銅の原材料費を1台あたり1ユーロ節約するのと、それに対し、業界のトップである大企業がソフトウェアを開発することなのです。大企業が開発失敗するの対し、新しい競合他者が顧客にソフトウェアを提供でき、それへのコストが原材料費なのです。やや偏見があるでしょうが。ですから、これは本当にコスト面でメリットがあると思われます。これらの新しい設計によって得られる実際の利点は柔軟性にありますが、私は少し偏った見方をしていて、どうすればこういった大企業が、ソフトウェア会社のような運営をするようになり、顧客に高品質で安全な追加提供を何度もできるようになるのか、そしてそれを実際に実現するために設計的に何を変える必要があるのか、そういったことに関心があるのです。

レイモンド・イン:

ここで一息ついて、ソフトウェア・デファインド・ビークルに関する記事をご紹介します。「ソフトウェア・デファインド車両の紹介」という記事では、集中型ECU設計とゾーン型ECU設計が、従来の設計に代わる次世代の選択肢としてどう有望であるかを掘り下げています。記事全文またその他の記事も、mouser.com/empowering-innovationにてご一読いただけます。それでは、ゾーン・アーキテクチャの将来についての議論に戻りましょう。

何十年も自動車業界に携わってらっしゃいますが、一番お好きな車はどちらでしょう。どのメーカーの、どのモデル、どの年式でも構いません。

クリスチャン・ウーバー:

そうですね、BMWの次世代のEV車が実に楽しみですね。

レイモンド・イン:

あなたの初めてのコンピュータは何でしたか?そのコンピュータのスペックを教えてください

クリスチャン・ウーバー:

ドイツモデルのシュナイダーユーロPCです。286の前身で、640キロバイトのRAM3 1/2インチのディスクドライブがありました。そのPC を持っていたのは一人の友人だけでした。他は皆C64でしたので、お互いにゲームを交換していましたが私には交換する人がいませんでしたね。

レイモンド・イン:

世界中を巡られて講演や会議に参加されてらっしゃいますが、今までおとづれた中で最も心に残った場所はどちらでしょうか。ビジネスでも休暇でもかまいません

クリスチャン・ウーバー:

日本は本当によかったですね。食文化に込められた意味合いや私が日本でいただいた食べ物は非常に素晴らしく、大変気に入りました。

レイモンド・イン:

本日のエピソードはここまでです。パート2ではクリスチャン・ウーバー氏が車両のハードウェアとソフトウェア間のインターフェイスについて、また数百万行のコードを完全に書き直す必要があるかどうかについてお話しされていますので、ぜひお聞き逃しなく。またMouser.com/empowering-innovation では Empowering Innovation Together シリーズ全体や記事、使用事例など存分にご覧いただけます。