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先進ロボティクス製造研究所(ARM) ラリー・スウィート氏との対談

先進ロボティクス製造研究所(ARM)
ラリー・スウィート氏との対談

マーク・パトリック:
In Between the Techへようこそ。本日は、マウザーの「インダストリー5.0」特集のまとめとして、先進ロボティクス製造研究所、通称ARM [A-R-M] のエンジニアリングディレクター、ラリー・スウィートさんをお招きし、この新たな産業革命がもたらす今後の影響についてお話を伺います。この分野でエンジニアが活躍できる機会について、また、インダストリー5.0が人間とロボットの協働のあり方をどのように変えていくのかについて、お話しいただきます。
司会:
ラリーさん、本日はお越しいただきありがとうございます。まずは、ご自身について、また、先進ロボティクス製造研究所について少しお話しいただけますか。
ラリー・スウィート:
はじめまして、ラリー・スウィートと申します。先進ロボティクス製造研究所(ARM)のエンジニアリング担当ディレクターを務めています。ARMは7年ほど前に設立されました。約12年前に設立が計画された17の製造イノベーション研究所(MMI)の中の1つす。その最初の研究所は、アメリカ・メイクスという名称で、積層製造技術を専門としたものでした。そのほかの研究所もそれぞれ異なる分野を専門としています。ARMの専門は、言うまでもなくロボット製造ですが、実際に携わることができて、非常に面白い分野だと思っています。その対象は、自動車から繊維オートメーション、さらには国防総省や防衛、航空宇宙関連のものまで、幅広い範囲にわたります。
ARMは、基本的に2つのことを行っています。1つは、ロボットによる製造自動化の最先端技術を市場にはないレベルに引き上げる技術プロジェクトを、現在100件以上支援しています。つまり、新しい製造プロセスという視点で新しい領域を開拓しているのです。例えば極超音速技術を使えば、これまで存在しなかった全く新しい素材の製造が可能になります。新しい素材、新しい製品、新しい製造プロセスは、密接に関連しているのです。私たちは基礎研究を行っているわけではありません。研究室で実証済みの技術を、どのように製造業用に実用化し、大企業にも中小企業にも利用できるものにするかに取り組んでいます。
2つ目は、非常に重要な点ですが、労働力の開発です。私は6年ほど前、米国技術者協会が後援する連邦議会議員向けのプレゼンテーションに携わっていました。当時の主な話題は「ロボットが人間の仕事を奪うのではないか?」というものでした。現在、米国では約60万件もの製造業の求人が埋まっていない状態です。今では誰も本気でそんな質問をする人はいませんし、いたとしても少なくなりました。
中小企業から大手メーカーまで、どの企業と話しても、今一番の優先事項は労働力だと言っています。労働力需要に対応できていないのです。実際に今、解決すべき問題であると言えるでしょう。ですから、ARMは労働力開発の分野でアメリカ国内を牽引する役割を担っています。
司会:
以前、Frito-Lay(フリトレー)社のエンジニアリング部門の責任者をされていましたが、テクノロジーの進歩に従業員はどのように適応していったのでしょうか。
ラリー・スウィート:
私は異業界からこの食品メーカーに採用されました。ですから、1,800ものジャガイモの品種があるなかで、ポテトチップスなどの均一な製品をどのようにして作るのか、また、製品をどのようにして均一にするのかについて学ぶのは非常に興味深いことでした。私たちは新技術を開発し、工場の生産能力を伸ばすことに成功しました。生産性を飛躍的に向上させる3つの新技術を開発することによって、システムの生産能力を8億ポンド増やすことができたのです。そこでは自動化技術が十分に活用されていなかったため、まず、その理由を解明し、どうすべきかを検討しました。それから開発、試験運用へと進み、本番稼働に近づくにつれ、多くの作業員に参加してもらったのですが、そのことがプロジェクトに大きく貢献しました。
ある程度技術が機能するようになった段階で、本番さながらに作業員に機器の操作を行ってもらいました。すると、ユーザーインターフェイスについて、作業員が理解しやすい設定方法など、非常に貴重な意見が得られました。また、どの製造工程にも多くの作業ノウハウがあるものですが、文書化されておらず、現場でなければわからないことがあります。現場の作業員の間で世代から世代へと受け継がれるものだからです。彼らはそんなノウハウも教えてくれました。ですから、工場に導入する頃には、技術はより成熟し、より導入しやすくなっていました。また、彼らがプロジェクトに参加したことで、他の現場作業員たちに対して「このシステムは大丈夫、何も恐れることはない」と私たちに代わって伝える役目も果たしてくれたのです。このように熟練労働者たちに受け入れられたことは非常に大きいことでした。業務の生産性が向上しただけでなく、利益率も向上しました。予想外のメリットをもたらしたのです。このように、現場作業員はプロジェクトにとって非常に有益な存在でした。
司会:
インダストリー4.0は、企業の経営や製造にどのような影響を与えたのでしょうか。
ラリー・スウィート:
マニュファクチャリング4.0は実際に導入され、大きな成果を上げています。特に大企業で成功を収めています。昨年の秋、ある会議でP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)社の機械学習アプリケーションの責任者から聞いた事例を紹介しましょう。P&G社では世界中で90ほどの導入事例があり、画像認識と機械学習によるマシンビジョンを使用して、製品の欠陥を検出しているそうです。これは、消費者の手に渡る前に欠陥を検出する上で信頼性の高い方法です。
簡単な例を挙げると、ウィスキーのボトルの裏のラベルが適切に貼られていなかったとします。しわがあってバーコードが読み込めなかったり、文字が小さすぎて、消費者には注意事項や記載情報が読みにくいことがあります。そこで、その欠陥を認識するようシステムに学習させて、欠陥を排除し、そのような製品が消費者に発送されることがないようにしました。P&G社がこのテクノロジーに投資をし、これほど多くのアプリケーションを開発していたことには驚きました。これがインダストリー4.0の事例です。では、実際にこのようなアプリケーションを導入している企業はどれくらいあるのでしょうか。実は、ごくわずかなのです。機能性を謳う企業は数多くあります。しかし、そうした企業にとっても現在大きな課題になっているのが、機械学習モデルのトレーニングに使用できるデータが限られているという問題です。通常、機械学習は、トレーニングセットと呼ばれるデータから始めます。トレーニング用のデータを一定量用意したら、次に検証セットと呼ばれる別のデータセットを用意します。考え方としては、トレーニングで検証したモデルを、別のデータセットで試して、実際にどの程度うまく機能するのかを確認するのです。つまり、ブラインドテストのようなものです。これをある機械学習アルゴリズムで最初にテストすると、うまくいかないことがよくあります。そのため、信頼度が十分に高くなるまで、トレーニングアルゴリズムを修正する必要があります。これはわかりやすい例だと思います。
ですから、十分なデータを集められなければ、アルゴリズムが機能するかどうかを確かめることはできません。現在、さまざまな会議で、機械学習を活用する上での最大の制約の1つはデータであると言われています。P&Gのように何百万もの製品をもつ企業であれば、生産量も何百万単位に上り、膨大な量のデータを確保できます。しかし、製品を少量しか製造していない企業は、データが十分に確保できないかもしれません。また、製造している製品すべてのデータを使用したとしても、生産量が少なければ、データは十分ではありません。
ARM研究所で支援したプロジェクトの1つに、AIデータファウンドリと呼ばれるものがあります。これは、さまざまなソースからデータを収集し、小規模企業にも利用できるようにして、機械学習のメリットを享受できるようにしようという取り組みです。
司会:
インダストリー4.0はまだ導入段階ですが、4.0を飛ばして5.0を導入しようとする企業が出てくるでしょうか。
ラリー・スウィート:
危険だと思います。実際、4.0レベルでも、自動化ロボットや自動化の実装実績が豊富な経験者なら、工場でまず最初にすべきことは、問題のあるエリアがあれば、リーン原則やシックスシグマのような手法を活用して、そこを改善することだと言うでしょう。自動化する前にまずプロセスを整理することです。混乱しているプロセスを自動化しようとすると、かえって状況が悪化する可能性があります。ですから、自動化を急ぎたいかもしれませんが、システムインテグレーターやロボット会社、あるいはどの講演会でも、そのようなアドバイスをしているはずです。
4.0は、5.0に移行する際にデータを効果的に利用し、プロセスを適切に自動化する方法の基礎を築きます。この2つの大きな違いは、人間とのインタラクションが増えることです。双方向のインタラクションと言ってもいいでしょう。例を挙げてみましょう。例えば、アマゾンはバーコードに大きく依存しています。私がアマゾンに入社した当時、注文品のピッキングでは、作業員が「ポッド」と呼ばれる黄色い棚から注文品をピッキングしていましたが、彼らはその注文品に関する情報は何も持っていませんでした。クラウドソフトウェアが、3つの異なる商品をその建物のどこかからピッキングしたと伝えているのです。商品の種類や製品の種類は、おそらく数百万に上るでしょう。
そして、その建物全体にある商品の数は、数千万から数億に上るはずです。そのため、ソフトウェアが、3つの注文商品がどこにあるかをすべて把握し、それぞれがどのポッドにあるかを判別するのです。3台のロボットが同時に該当するポッドを見つけ、3つのピッキングステーションに搬送します。そこで3人の作業員がほぼ同時に3つの商品をピッキングします。商品は黄色い箱に入れられ、梱包エリアに送られると、1つの荷物にまとめられます。これが基本的なプロセスです。すべてのステップはバーコード化されています。そして、ステーションにいる作業員には、次のパレットやポッドが来ることがコンピュータの画面上に表示されます。
今、プロセスについて説明しましたが、そこでの課題は、バーコード化が多すぎるということでした。そこで、バーコードをすべて排除する方法があるかどうかを検討し、システムを開発しました。その仕組みについては、企業機密に関わるのでお話しできませんが、基本的にはインダストリー5.0のアプローチを採用し、作業員の動きを観察することによって、すべてのバーコードではなく、一部のバーコードだけを削除することで、信頼性を高められる方法を考えました。その結果、作業員の動きが少なくなったのです。時間も短縮され、作業も楽になりました。開発と検証には長い時間がかかりましたが、時間を節約できたことで、作業員の1時間あたりのピッキング件数が増加しました。つまり、生産性のメリットが得られ、作業員にとって人間工学的なメリットも得られたということです。これは、もはや単なる機械ではありません。作業員は人間と機械が融合したインタラクティブシステムの一部なのです。これはインダストリー5.0の素晴らしい事例です。
ホスト:
インダストリー5.0の先には何があるのでしょうか。
ラリー・スウィート:
もっと直感的で使いやすく、教えやすいロボットだと思います。コボットは、人間が近くにいると、力と速度が制限されます。また、実際にコボットを掴んで物理的に誘導できるモードにすることができます。例えば、「あそこに行ってあれを取ってきてほしい」とか、「それを持ってきて、ここに置いてほしい」とか、あるいは「これを溶接してほしい、だから、この経路をたどってほしい」などと指示できます。つまり、コボットの利点は、ロボットプログラミングの経験がない人でも直感的に操作できることです。
もう1つは、ロボットを囲いに入れなくれも操作できることです。従来型ロボットでは、ロボットが何らかのトラブルを起こした場合、例えば、掴んだ物を落としてしまった場合、作業員が安全に作業できるようロックアウト・タグアウトの手順を踏む必要がありました。人間が囲いの中に入って、問題を修正し、戻ってきてロボットに指示を出すというプロセスには、1~2分かかります。その間、生産が止まってしまうのです。しかし、力制限や速度制限の機能を備えた、いわゆるコボットであれば、このような問題を解消することができます。そこで、既存のロボット業界では、産業用ロボットの主要大手メーカーが、LIDARやバーコード、あるいはレーザーセンサーを搭載すれば人間の接近を感知できると言って、これに対抗していました。
"ですから、人間が近くにいないときは高速で動作し、人間が近づくと、速度を落とします。さらに、人間が文字通りロボットの手の届く範囲に近づくと、ロボットは停止します。業界は今まさに転換期を迎えており、米国の自動化推進協会(通称A3)のような業界団体が、ロボット業界、モーション制御、コンピュータビジョン業界を監督しています。

A3は、ISO(国際標準化機構)と提携しており、基本的には「コボット」という言葉の使用をなくしたいと考えています。ここで言うロボットとは、力制限や速度制限の機能を備えたロボットのことで、汎用ロボットの原型のようなものですが、これには、近接センサを搭載したロボットも含まれます。A3が言っているのは、ロボットに先端ツールを組み合わせれば、もはや単なるロボットではなく、溶接機やグリッパーであるということです。そこで、システムを構築し、それをロボットセルのある工場に導入すれば、それがアプリケーションになります。つまり、これが協働アプリケーションとでも呼ぶべきもので、従来とは異なる方法で実装することができると言うのです。
ここで最も重要なのは、安全性の確保に責任を負う主体がそれぞれ異なるということです。つまり、ロボット、ロボットシステム、ロボットアプリケーションがあります。ロボットメーカーは、ロボットが動く際の力や速度に責任を負います。システムインテグレーターは、ロボットアームにツールを取り付ける作業を担当します。ロボットではなくツールが人にぶつかる可能性もありますし、ツールに鋭利な部分があるかもしれないので、注意が必要です。従って、システムインテグレーターは、その点について責任を負います。さらに、エンドユーザーであるメーカーは、リスク評価を行う必要があります。これは、作業環境全体、スペースの構成、労働者のスキルや経験などを評価します。
では、インダスリー5.0では何が起こるのでしょうか。これまでのところ、コボットが使われてきたのは、基本的に、産業用ロボットが担っていた仕事をコボットにさせるというものでした。人間は後ろに立って部品を供給し、ロボットがそれを取り出していました。しかし、協働ロボットと呼ばれていたにもかかわらず、実際には協働はほとんどありませんでした。連携していなかったのです。そして、ここからがインダストリー6.0だと言えるでしょう。そこでは人間とロボットが、どちらも単独では成し得ない作業を分担し合うのです。人間はロボットの意図を理解し、ロボットも人間の意図を理解できるようになります。
ロボットとやりとりしていて、ロボットが何をしようとしているのかを正確に理解していれば、ロボットを信頼することができるはずです。しかし、今度は逆の立場に立って、ロボットが人間のやろうとしていることを理解しようとしているとします。その場合、ロボットが本当に理解しているとどれだけ信頼できるでしょうか。つまり、これがインダストリー5.0の先にあるものだと思います。
マーク・パトリック:
今回の「In Between the Tech」、お楽しみいただけたでしょうか。このポッドキャストは、「インダストリー5.0」を取り上げ、人間とロボットのより効果的な協働のあり方について考察するマウザーの特集コンテンツの一部です。さらにこのテーマについてEmpowering Innovation Togetherシリーズの記事、動画など、全コンテンツをご覧になるには、mouser.com/empowering-innovationにアクセスしてください。