ポッドキャスト: In Between the Tech
EIT 2024 | Topic 3 | HMI | IBTT
ポッドキャスト:
In Between the Tech
UXとHMI
デザインの先駆者
ニコール・ジョンソン氏
との対談
レイモンド・イン:
In Between the Techへようこそ。本日は、マウザーによるヒューマンマシンインターフェースの徹底考察をまとめます。今回は、Icon Group社やRivian社といった企業でご活躍するUXおよびHMIデザインにおけるリーダーである、ニコール・ジョンソン氏にお話を伺います。この技術の進化についての考えと、ユーザーを念頭に置いてエンジニアがデザインを改善する方法についての視点をご紹介していただきます。
ホスト:
ニコールさん、ご参加くださいましてありがとうございます。まずはじめに、ご自身のこと、そしてどのようなキャリアを経てHMIにたずさわるようになったのかを少しお聞かせください。
ニコール・ジョンソン:
これまでの経験は険しい道のりでしたが、楽しい道のりでもありました。最初は経営学の学校に通いながら、メルセデスベンツの整備士として働きました。ですがその後、自分がビジネスで何をしたいのかよくわからなくなったのです。ビジネスというのは大枠のアイデアのようなもので、最終的に起業を思いつきました。フリーの契約社員として働いていたコンサルティング会社で、同僚だった友人に相談したところ、Music Boxというスタートアップで一緒に仕事をすることになりました。結果的にはうまくいきませんでしたが、それが私の挑戦でした。ユーザー体験についてイベントに参加したりしてさらに深く学ぶようになりました。そしてホセ・カバラーさんとクリス・ドウさんという2人の素晴らしいメンターを見つけることができました。彼らは 「The Futur 」という素晴らしいYouTubeチャンネルを持っています。そこで私は多くのユーザー体験プロジェクトを学んだのです。
その後、Icon Mobile社というコンサルティング会社に転職しました。その企業はドイツのイノベーション企業でIoTを専門としており、P&Gのような企業向けの製品を作っていました。Oral BやOlayなど、あらゆる種類の面白い製品やさまざまな種類のデバイスを扱っています。また、社内にはIcon In-Carと呼ばれる、自動車のユーザー体験を提供する事業もありました。私はそこに6年ほどおり、様々な自動車プロジェクトを手掛けました。セミトラックであるPACCAR向けの初の15インチ・インストルメントパネル・ディスプレイにも取り組みました。車内の物理的なものである30個のゲージ類を、スクリーン上のユーザー体験にどう適合させるかに励んでいたのですが、その後、Rivian社のヒューマン マシン インターフェイスチーム、つまりHMIチームで働く機会が巡ってきたのです。その後チームを率いることになり、3年半が経ちます。これがHMIの世界に入ったきっかけですね。
ホスト:
HMI が初期の頃からどのように進化してきたかあなたの見解をお聞かせくださいますか?
ニコール・ジョンソン:
はい。すべての責任を負えないので言っておきますが、私はすべての業界で働いたわけではないので、あらゆる業界のHMIについて話しているわけではありません。いくつかの分野で働いてきましたが、自動車が私の専門分野の中核です。ですからこれは実に楽しい話題です。この20~30年で自動車は大きく進化しました。まず、従来のヒューマン マシン インターフェイスは、伝統的な工学の機能であり、自動車の別の分野でした。ヒューマンファクターと呼ばれ、人間工学や認知工学でした。20年前、30年前にHMIと言ったら、誰もがそう思ったでしょう。しかし、時が経ち、自動車が進化し、よりソフトウェアデファインドになるにつれ、HMIデザイナーと呼ばれる人たちが現れました。彼らの中には、エンジニアリングに堪能な者もいれば、デザインの才覚を持つエンジニアもいます。エンジニアリングに関して会話ができるデザイナーもいますが、必ずしも流暢に話せるわけではありません。
HMIデザイナーは、少し新しいカテゴリーなので、少なくとも私の視点からは興味深い存在です。おそらくその歴史は5年か10年といったところでしょう。HMIデザイナーは、ちょっとしたハイブリッドで、エンジニアリングとデザインの橋渡しをしています。今ではシステムデザイナーという言葉が流行っていて、HMIデザイナーが行っていることをうまく表現していると思います。彼らは、ユーザー体験を、必ずしも相互作用の観点からだけでなく、車両の物理的な性質にどのように作用するかも見ています。それは照明かもしれませんし、ドアハンドルや、ドアそのものかもしれませんし、それはなんでもあり得るのです。つまり、従来のユーザー体験と、よりエンジニアリング的な機能であった従来のHMIの、物理的な側面とデジタル的な側面の融合なのです。
ホスト:
IoTのご経験について言及されましたが、IoTとインダストリー4.0の統合はHMIにどのような影響を与えると思われますか。
ニコール・ジョンソン:
自動車がコンピュータ制御されるようになったのは、1970年代後半から1980年代前半のことです。車載用の最初のコンピュータチップは1969年だったと思いますが、自動車にコンピュータが実際に搭載されるようになったのは、70年代後半から80年代初頭になってからです。その後コンピュータの出現が本格的に始まり、現在、自動車はコンピュータ制御からソフトウェアデファインドへと移行しています。つまり、単に賢くなって整備士やエンジニアにトラブルコードを伝えることができるようになっただけでなく、センサやカメラ、データの統合やクラウド・コネクティビティを通じて、タッチスクリーンなど、もちろん体験全体の質が向上し、レイヤー化され、ドライバーにとって、目に見えるように明らかになり、本当に融通が利くようになったことです。また、それが今日のHMI設計の面白さの一部でもあります。
そして、その影響は実に大きなものです。ソフトウェアの観点からは、まったく別の車、まったく別のユーザー体験を手に入れることができるのです。というのも、もっと良い言い方があるかと思いますが、ソフトウェアはいつでも変更することができるからです。自動車業界で働く方なら「いつでもというのは不可能」とおっしゃるかもしれませんが、TeslaやRivian社のような企業は車を所有して何カ月も何年も経ってから、それまで存在しなかった新しい機能を作り出すことができるからです。そう言った企業は統合ソフトウェア開発と呼ばれるものを行っており、ソフトウェア機能をすべて自社で所有しているため、より早く機能を提供し、調整し、顧客からフィードバックを得て、非常に迅速に調整を行うことができます。データやコネクティビティ、そして購入後に統合される可能性のあるものを考えると、これは本当に驚くべきことです。ですから、新機能が登場する2、3カ月ごとに車が新しくエキサイティングなものになるということなので、私はとても興味深いことだと思います。
しかし、もう 1 つの側面があり、自動車業界の進歩とその業界にどのような影響を与えるかということになると、複雑なトピックです。ここでは深く掘り下げるつもりはありませんが、データや、プライバシー、コネクティビティについて考えると、今はまだ発展途上です。理由としては、必ずしも携帯電話から自動車に一対一で変換されるわけではないからです。もちろん、GPSのように、そうなっているものもたくさんありますが、自動車でできることで、必ずしも携帯電話には反映されないこともあります。ですが、今はまだその初期段階にあるわけです。ですので、これからですね。今後、ワクワクするようなエキサイティングなことが起こるのはこれからです。
ホスト:
自動車業界では、デザインアップデートがたくさん行われるようで楽しみですね。HMI 設計を業界の広い観点から見ると、HMIデザインは人間と機械の間における使いやすさにどのような影響を与えるのでしょうか?
ニコール・ジョンソン:
それは単に使いやすさに影響するだけでなく、むしろ使う喜びにも影響します。優れたHMI体験は、まさにユーザビリティの基礎であり、製品が何であれ、特定の顧客層のニーズを理解することから生まれます。それから顧客の立場に立って考えることが本当に重要です。白黒はっきりさせるという意味ではなく、文字通り宇宙飛行士やサッカー・ママになりきってみるということです。しかし、私が本当に言っているのは、共感であり、顧客が日々の生活で何をしているのかを想像しようとすることです。それは、デザインの分野ではしばしば背景にあるものです。その結果は見えても、それを考えるための作業はあまり見えてきません。そして、それは推測のゲームではなく、ちょっとした芸術と科学の混ぜ合わせです。調査をして、そこから洞察し、使用例やユーザーの立場に立ってみるのです。それがなければ、本当に美しいもので、機能的なものを作ることができません。その人の一日はどんな感じなのか、チャイルドシートを見えない場所に置けるようにしたい、どうすればいいのか、どうすれば簡単にできるのか、表面を簡単に掃除するにはどうすればいいのか、など、優れた HMI とはまさに人間中心であるのです。それは必ずしも使いやすさに関するものではありません。使いやすさは当然の結論であるべきであり、本当に顧客のことだけを考えていくのが優れたHMIなのです。
そうすれば、使いやすさの部分は自然に見えてきます。使用例やユーザーの立場にたつ話に戻りますが、これは本当に役に立つ方法です。私の同僚で綺麗なストーリーボードを描くのが得意な人がいるのですが、顧客の立場に立つだけでなく、経営幹部にもそれを伝えてくれることに関しても助かりました。機能していないものを使用しようとしている人々のビデオや、デザイナーやリーダーが考えもしなかったユーザー経験に関するビデオもあるのですが、そのユーザー調査をするのにおいても助かりました。これは、チームの共同作業に役立つストーリーテリングツールなわけです。
ホスト:
「使う喜び 」というのは素晴らしい言葉ですね。それについてもう少し詳しくお話しくださいますか?プロジェクトに取り組まれている時、あなたにとってそれは何を意味するのでしょう。また、ユーザーや消費者にとってはどう解釈されるのでしょうか。
ニコール・ジョンソン:
楽しいユーザー体験をするということであり、車の中で紙吹雪が舞う楽しさという意味ではありません。でも、デザイナーとして、自分の取り組んでいる仕事にワクワクできるということは、人々が好んで使うような体験をデザインできるということにつながっています。本当に小さなことであっても刺激になります。笑顔になってもらえたり、「わぁ、簡単だった 」と言ってもらえたり。また、ユーザビリティという言葉が常に飛び交っています。もちろん、使いやすさは簡単であるべきですが、製品やサービス、あるいはどんな機能をデザインするにしても、その結果に対して喜びを与えるものであれば、より優れていると言うことでしょうね。
ホスト:
「そうか」と感じた瞬間のようにも聞こえます。あなたの そのような瞬間や、製品につながった特に印象的な瞬間を教えていただけますか?
ニコール・ジョンソン:
もちろんです。すでにリリースされている機能があるので、それについてお話ししましょう。Rivian社のドライブモードについてです。私自身、オフロードを走ったり、他のエキスパートたちと共にオフロードで多くの時間を過ごしました。そして顧客がアクセスするのに役立つデータや情報があることがわかったのです。ソフトウェアデファインドビークルでは、非常に多くのデータが利用可能なのですが、当時はまだ日が浅かったこともあり、私たちはそれを顧客に公開していませんでした。後に私たちは、その一部を見せ始めるべきだということに同意しました。タイヤの空気圧や、以前はなかった方位表示とか、気温などです。現在、クルマには温度が表示されています。オフロードを走ったり、クルマを運転したりするときのドライブモードとの関連もあるのですが、今はまとめているのです。この機能を発表した後に私はRedditを読んだのですが、顧客全員と言うわけではありませんが、オフロードを走る人たちや、そういった情報に関心のある人たちは、それらの機能に本当に夢中なようでした。機能に対する信頼感も得られましたし、見た目もとても良かったのです。そして、より多くの情報、より多くの文脈も得られ美的にも優れており、一種のベン図のようでした。
ホスト:
HMIプロジェクトでエンジニアとデザイナーの共同作業の際、どのような要素を考慮することをお勧めしますか?
ニコール・ジョンソン:
これは、顧客に共感すると言う前の質問にもつながっていますね。プロジェクトの真っ最中や納期が迫っているときには、顧客のことを忘れてしまうということではないのですが、パニックモードにいるわけです。トンネルで例えますと、トンネルの先にある終点の光にたどり着かなければならない状況の時です。しかし、そういう時にこそ顧客のことを考えるのが、共同作業をする上で大事なのだと思います。そして、もう一つは本当に重要なことなのですが、必ずしも顧客のことではなく、あなたが解決しようとしている問題について、合意することです。もし私たち二人がある機能に取り組んでいるとして、あなたが目指すのはその機能を早くリリースすることで、私はそれを楽しむことだと考えるなら、私たちは異なる目標を持っていることになります。
私たちはその機能を作り上げるという同じ目標を持っているのに、それをどのように行うかは、十分に語られてないのです。このことは、私のデザイン経験の中で、エンジニアや開発者と協力する際にとても役に立ちました。何かを世に送り出そうという情熱は皆同じでも、その目的や進め方が違うということを何度も目にしました。なので、デザイナーとエンジニアは必ずしも同じ言語を話すわけではないということを先に述べたのです。ですから私は、「質問することを恐れないこと、質問を明らかにすること。」
それが、デザイナーとエンジニアの共同作業における私の重要要素ですね。特にパンデミックの時は、Zoomを使ったり、Slackを使ったり、電話番号を聞いてかけたりしました。45分もSlackでだらだらとやり取りするよりも、30分の電話で話が変わることもありますので、このことを言っておきたいと思います。
ホスト:
ユーザー体験デザインとの関連で、HMIをどのようにとらえてらっしゃいますか?
ニコール・ジョンソン:
特に自動車の場合、両者は互いに依存し合っており、紙一重だと言う人もいるでしょう。車のような多次元的なものをデザインする場合、ズームインとズームアウトの両方が必要です。HMIはどちらかというとズームインの傾向が強く、物理的なもの、それはサスペンションかもしれませんし、照明やドアハンドルかもしれませんが、どのように機能しているのかという細部に焦点を当てます。そして、UXの要素は、ズームアウトして、細部が全体像と一致しているかを確認することです。この機能で顧客のために何ができるのか、この機能で何が解決できるのか、などとと考えます。ですから、特にソフトウェアデファインドビークルでは、UXとHMIは完全に分離されたものではないと思うのです。
ホスト:
タッチUIが標準になり、音声起動はもはや当たり前の技術となっていますが、HMIの次の飛躍は何だと思いますか?
ニコール・ジョンソン:
これは不人気な意見ですが、特に自動車業界では、音声をめぐるOEM間の標準化やガバナンスのようなものが確立されない限り、業界が目指しているような採用レベルに到達するのは非常に難しいと思います。現在、携帯電話や家庭では、GoogleやAlexaの音声アシスタントが主流となっていますが自動車における音声起動は不透明で、ほとんどの顧客にとっては、少し不透明な感じになっています。時間や天気などの基本的なことはGoogleやAlexaに尋ねられますが、車の物理的な側面であるドア、トランク、リフトゲートなどになると、「これでいいですか。他に何かありますか」という反応だけです。
少し前ですが、Rivian社のお客さんが 「あ、ゲームができるって知ってます?」と言うのです。その場にいた全員が、え?という感じでした。そうです、アレクサは音声ですから視覚的にはわかりません。プロンプトが的確でないといけないのです。スマートフォンでの指操作がとても良い比較対象になると思いますが、私たちは今、スマホの上スワイプ、下スワイプ、左スワイプ、長押しを使いこなしています。これらは普通ですよね。統制されているとは言いませんが、標準的なものです。タブレットやスマートフォンを持っている場合、その操作ができます。音声はまだそこまで到達していないということです。車内では、一般的に理解しやすいプロンプトが標準になるまで、音声起動は本当に限られたものでしょう。というのも、まだ初期段階ですので。将来的に取り入れられると思いますが、そこまでにはまだまだです。
ホスト:
これまでお話しされてないことで、エンジニア関係の方々に伝えておきたいことは何かありますか?
ニコール・ジョンソン:
特にHMI、さらにはユーザー体験に関して言えば、この二つのカテゴリーはデザイナーの能力という枠に入れられがちだと思います。しかし、UXデザイナーやHMIの本当に素晴らしいところは、彼らがさまざまなバックグラウンドを持っているということです。ですから例えば「デザインが必要だと言っても、それはどういう意味なのか?」と言うのだと思います。そこで、あなたが創作しているものが何であれ、デザインに携わる人たちを巻き込むということなのです。エンジニアは姿を消して何かを作って戻って来た時、まわりからフィードバックを受けるとイライラしていますよね。それに対しデザイナーは共同作業を試みるのです。彼らは隠れて何かを作って「ジャジャーン」みたいなことはあまりしないですし、共同作業が普通なのです。試行錯誤を繰り返し、アイデアを出し合い、他の人が別のアイデアを思いついたら「これはどう?」「いいね、やってみよう」、「こっちはどうだろう」など言い合うのです。それは必ずしも簡単なことではないと思います。誰かが指をパチンと鳴らしたらでき上がるなんては言いませんし、突然たくさんのアイデアの出し合いができるようになるとも言いません。私が見てきた出し合いセッションは、ただ漠然と考えたもので、必ずしも解決策に辿り着いてはいないものもあり、そういうことを言っているのではないのです。ただ、別のアイデアにもある程度オープンな姿勢でいることが問題を解決する方法において大事だということです。申し上げたいのはその点ですね。
レイモンド・イン:
今回の「In Between the Tech」のエピソードはいかがでしたでしょうか。こちらのポッドキャストは、人間がいかに機械と容易に相互作用するかをHMIの増大する影響についてマウザーが考察した内容のごく一部にすぎません。このテーマに関する様々な記事や動画などは全て、mouser.com/empowering-innovationのEmpowering Innovation Togetherにてご覧いただけます。