The Tech Between Us パート2
レイモンド・イン:The Tech Between Usを再びご視聴いただきありがとうございます。今回も、前回に引き続き、米国エネルギー省・エネルギー貯蔵研究ディレクターであるイムル・ギョク博士から、再生可能エネルギー貯蔵システムについてお話を伺いたいと思います。今回は本シリーズの第2部になります。再生可能エネルギー貯蔵システムについて前回の番組を聴き逃した方は、The Tech Between Us番組ページにアクセスし、第1部をご視聴ください。
レイモンド・イン:それでは、技術的な話に移りますが、マウザーの半導体部品の世界でも比較的新しいイノベーション、ワイドバンドギャップ半導体についてお話ししましょう。エネルギー省が研究してきた分野でもあると思うのですが、このデバイスがエネルギー貯蔵システムにどのような影響を及ぼすとお考えでしょうか?
イムル・ギョク:私たちはかなり早い段階でワイドバンドギャップ半導体を意識するようになりました。エネルギー貯蔵の研究を始めたのとほぼ同じ時期です。
レイモンド・イン:では、もう20年、30年になるのですね。
イムル・ギョク:ええ、その通りです。最初に取り組んだのは炭化ケイ素で、今はガリウムに取り組んでいます。私たちは基本的にスイッチに取り組み、そのスイッチをより大きなデバイスに組み込んでいきました。そして、そこにはさまざまな選択肢があります。そのひとつが、電子の通り道をできるだけ短くした集積デバイスです。そうすれば、非常に高速で、不具合も少ないものができるはずです。
レイモンド・イン:そうですね。その過程で発生するすべての寄生を最小限に抑えることができます。
イムル・ギョク:そうなんです。私たちは、少なくともこれらの試作品を作ることに非常に成功しています。そして、私たちがこれらのデバイスの開発で協力した多くの小さな会社は、その後大きくなり、最終的には大企業に育てられることになりました。そして、今では業界の一翼を担っています。
レイモンド・イン:ワイドバンドギャップ、炭化ケイ素、窒化ガリウムは、電気自動車とグリーンエネルギーの両方のアプリケーションをターゲットにする多くのサプライヤーにとって、極めて重要ですね。特に、大型のインバーターなどは。
イムル・ギョク:非常に小さいからです。特に、何千個ものバッテリーを搭載した大きな施設を建設する場合、設置面積を約10分の1にすることができます。バッテリーと外部との接続に大きな装置を使うわけにはいかないでしょう。
レイモンド・イン:そうですね。これは、先ほどのインフラについてのお話にもつながります。空間と熱のインフラを最小限に抑えることができればできるほど、システム全体の機能が向上しますね。
イムル・ギョク: そうです。
レイモンド・イン:シリコンは依然として主にエネルギー貯蔵に使用されていますが、ワイドバンドギャップはこの状況を大きく変えるでしょうか?
イムル・ギョク:まあ、中身は変わりますね。蓄電業界を動かすとは言いません。ただ、合わない靴を履いて歩くようなものですから、必要なことの1つです。
イムル・ギョク:私たちは、トランス用のソフトマグネティックスや、アルミニウムや窒化ホウ素、そして最終的にはダイヤモンドなどの新しいバンドギャップ技術など、他のデバイスも検討しています。
レイモンド・イン:ええ、それについては読みました。興味深いですね。
イムル・ギョク: そうですね。
レイモンド・イン:どれぐらい期待できるのでしょうか。また、このような新しい技術、つまりホウ素技術や特にダイヤモンドは、どれぐらい先のことになるのでしょうか。
イムル・ギョク:ダイヤモンドはまだ先の話ですが、ホウ素はこれから始まります。
レイモンド・イン:炭化ケイ素の研究を始めた時の期間と同じだと考えると、あと10年か20年ということでしょうか。
イムル・ギョク:ええ、そうかもしれません。しかし、電気自動車や蓄電の普及が進むにつれて、これらの市場は大きくなっています。
レイモンド・イン:そうですね。特に電気自動車市場は爆発的に拡大しています。もし私たちが本当に脱炭素社会、カーボンニュートラルを目指すのであれば、再生可能エネルギー、グリーンエネルギーは継続しなければなりませんね。
イムル・ギョク:その通りです。
レイモンド・イン:そして、おそらく2倍、3倍、4倍の規模になるのでしょうね。
イムル・ギョク:そうです。飛躍的に拡大するでしょう。
レイモンド・イン:そうですよね。他に注目すべきデバイス技術はありますか?ソフト・マグネティックスの話が出ましたが、ゲームチェンジャーになる可能性を秘めたもので、他に注目しているものはありますか?
イムル・ギョク:そうですね、先ほどお話したように、アルミニウムと窒化ホウ素ですね。私たちはパワーエレクトロニクスについて段階的に進めています。基本的に資金がエネルギー貯蔵の資金よりもかなり少ないからです。実は、私はパワーエレクトロニクスが好きで、その開発のために資金を少し確保できるため、これまで支援してきました。
レイモンド・イン:マウザーは電子部品代理店として、パワー エレクトロニクスの分野では、サプライヤーと協力して、炭化ケイ素、窒化ガリウムの最新製品を市場に投入し、お客様やエンジニアがすぐに設計できるようにすることに力を入れています。
イムル・ギョク:ええ、それは大切なことです。
レイモンド・イン:いずれにせよ、この分野について、研究から何が出てくるか楽しみですね。これらの技術について少し読んだことがありますが、前進し始めたと聞いてうれしく思います。
イムル・ギョク:そうですね。
レイモンド・イン:これまでエネルギー貯蔵システムの背後にある技術について多くのことを話してきましたが、当然ながら、エネルギー貯蔵は実世界への展開と応用が必要です。全体的な観点から、エネルギー省では、技術研究から実世界への展開まで、どのような優先順位をつけているのでしょうか?
イムル・ギョク:私たちは、新しい材料技術を開発し、あるいは他の人たちが技術を成功させたことを知ると、実際に何かを作るために、誰とでも提携し、彼らをサポートします。そして、私たちのガイドラインは、何かを作るためにパートナーシップを組むときは、必ず革新的で新しいものでなければならない、というものです。また別のリチウムイオン施設を支援しても意味がありません。新しいものでなければならないのです。材料が新しいか、財務構造が新しいか、アプリケーションが新しいか、そのいずれかが必要なのです。
レイモンド・イン:つまり、材料やデバイス、あるいは規制、資金、インフラなど、常に何らかのイノベーションを起こそうとしているわけですね。
イムル・ギョク:そうですね。
レイモンド・イン: つまり、物事は常に前進しなければならないのですね。
イムル・ギョク:実は、私たちが最初に取り組んだのは、変電所のアップグレードでした。
レイモンド・イン:なるほど。
イムル・ギョク:負荷が大きくなり、変電所の容量が足りなくなった場合、変電所をアップグ
レードしなければなりません。
レイモンド・イン:そうですね。
イムル・ギョク:しかし、より大きなものを構築する必要があるため、アップグレードには非常にコストがかかります。
レイモンド・イン:そうですね。また、変電所の多くは都市の真ん中にあり、近隣住民や開発、規制に囲まれています。
イムル・ギョク:しかし、変電所と蓄電を組み合わせて余分な負荷を処理するのであれば、モジュラー方式で行うことができます。負荷が少なくなれば、蓄電池を追加したり、取り除いたりすることができるのです。実際、そのようなことはあります。そのため、変電所のアップグレードや開発において、より柔軟な対応が可能になるのです。しかし、エネルギー貯蔵の本格的な応用はこれが初めてではありません。私たちもいくつか作ったのですが、費用対効果があまりよくありませんでした。
レイモンド・イン:なるほど。
イムル・ギョク:そこで、新しいことを思いつきました。それが周波数調整でした。
レイモンド・イン:そうなんですか。それは何ですか?
イムル・ギョク:周波数調整とは、基本的に、送電網が絶えず揺れ動くことです。
レイモンド・イン:ええ。
イムル・ギョク:オンとオフ、オンとオフの切り替えのようなものだと思います。
レイモンド・イン:そうですね。負荷は常に変化していますね。
イムル・ギョク:ええ。ですから滑らかにする必要があるのです。
レイモンド・イン:なるほど。
イムル・ギョク:あるいは、太陽光発電がたくさんある場合や、雲が通り過ぎる場合は、それを超えなければなりません。
レイモンド・イン:そうですね。
イムル・ギョク: それは周波数を変えることで実現できるのですが、その話は省きます。でも、要するに、これはやらなければならないことなのです。従来は、発電量の10%など、少し余分なエネルギーを蓄えておき、発電量を上下させるという方法がとられていました。しかし、蓄電があれば、そのようなことは必要ありません。蓄電池は、送電網の変動、15分~30分程度の短期的な変動に対応します。
レイモンド・イン:つまり、電子的な用語で言えば、蓄電施設がコンデンサになるようなものですね。
イムル・ギョク: そうです。そして、これが当たりだったのです。この技術は成功し、利益も生まれました。エネルギー貯蔵アプリケーションとして、経済的に実現可能な最初の技術でした。そのことがわかるとすぐに、カリフォルニア州エネルギー委員会とニューヨーク州エネルギー開発局と共同で実証しました。どちらも私たちのパートナーだったのですが、これが利益を生むことを共同で発表したのです。その結果、周波数調整プラントがキノコのように増えました。十分な周波数制御が行われるようになり、新しい周波数制御を導入してもあまり儲からないようになるまで、誰もが1つは導入していました。
レイモンド・イン:つまり、周波数調整設備は飽和状態になったということですね。
イムル・ギョク: そうですね。しかしその結果、電力会社には蓄電が必要だとわかったのです。将来、蓄電池が送電網の一部として機能することになるのです。そして次は、太陽光発電と蓄電池の組み合わせです。太陽光発電と蓄電池を組み合わせた方が、太陽光発電のみの場合よりもはるかに効果的であることを示しました。太陽光発電だけでは、安全なのは20%程度です。つまり、分散型ではないのです。しかし、蓄電があれば、太陽光発電は分散型となり、商業的に成り立つようになります。
レイモンド・イン:それは現在、標準的な導入方法なのでしょうか。太陽光発電施設の新設や増設には、対応する蓄電システムがないと展開しないのですか?
イムル・ギョク: ほぼ標準になりつつあります。
レイモンド・イン:そうですか。確かに、そうでしょうね。論理的に考えてみても、おっしゃる通り、太陽はいつも輝いているわけではないのに、私たちにはいつも電力が必要なのですから。
イムル・ギョク:それと、太陽光発電の数が多ければ多いほど、より多くの蓄電が必要になります。
レイモンド・イン:それで、どんどん増えてゆくのですね。
イムル・ギョク:そうですね。そして同時に、規制の仕組みも作らなければなりません。今のところ、実際に規制体制が整っているのは、州の半分程度です。
レイモンド・イン:興味深いですね。想像もしていませんでした。もうビジネスの一部だと考えていましたから。
イムル・ギョク:そうですね。この国の中央部の大半は、これまで通りのビジネスを行っており、蓄電という新しい要素を受け入れることができるような規制構造を構築するまでには至っていないのです。しかし、賢明な電力会社であれば、必要になったときに対応できるように、蓄電に取り組むはずです。
レイモンド・イン:エネルギー源はただなので、簡単だと思うのでしょう。再生可能エネルギーは、貯蔵システムとともに、送電網や社会全般のあり方を大きく変えようとしています。長期的には、再生可能エネルギーが社会に大きな利益をもたらすとお考えですか?
イムル・ギョク:まず、蓄電の観点から、私たちはより多くの再生可能エネルギーに対応する準備をしなければならないでしょう。そして、それは完全な脱炭素化を意味します。つまり、自動車用、農業用、建物用など、再生可能エネルギーが使用されるあらゆる場所でエネルギーを貯蔵しなければならないのです。これはかなりの負担です。つまり、短期間の蓄電だけでなく、周波数調整も必要なのです...周波数調整なら1~2時間で済みますが、太陽光発電と蓄電を合わせると4時間程度になるものがほとんどです。しかし、本格的な太陽光発電を導入するとなると、一晩中かかり、12時間必要です。
レイモンド・イン:なるほど、12時間分の潜在的な保存能力があるのですね。
イムル・ギョク:その通りです。
レイモンド・イン:わかりました。
イムル・ギョク:でも、もし1日か2日、太陽が照らなかったら、バックアップが必要です。その場合、3日ほど必要です。リチウムイオンは4時間しか使えないので、今のところ、長時間使える蓄電を開発することが大きな目標です。まだ本当に必要ではないのですが、いずれは必要になるのがわかっているので、長時間使える蓄電を開発しなければならないのです。
イムル・ギョク: もう1つは、もちろん、電気を簡単に利用できない人口層に注目することです。不利な立場にある人々、つまり十分なサービスを受けていない人々です。人口の半数、あるいはどの国民にも十分なサービスが行き届かないままでは、この先やっていけないことに気づき、今日大きな問題になっています。ですから、私たちはこの問題に取り組んでいます。
レイモンド・イン: サービスを受けていない人々を特にターゲットにして支援し、送電網に入れるプロジェクトを行ったことはありますか?
イムル・ギョク:はい、あります。実は、私たちはかなり以前から、後進地域とのプロジェクトを行ってきました。コミュニティと一緒に仕事をしています。アルバカーキの高校では、ヒスパニック系の生徒が多く、太陽光発電のための蓄電池を設置しました。要は、高校をもっと自立させれば、その場所は緊急時に住民の役に立ちますし、人々が安心して避難できるセンターになります。
レイモンド・イン:それは興味深いですね。
イムル・ギョク:ええ、電気もありますしね。
レイモンド・イン: そうですね。私は都心に住んでいるので、それが当たり前だと思っていますが、特に地方では、そうではないかもしれません。
イムル・ギョク:ええ。ですから、農村部の人々、都市部の不利な立場にある人々、コミュニティーがあるのです。このようなニーズを受け、私たちは「社会的公平のためのエネルギー貯蔵」というプロジェクトを立ち上げました。
レイモンド・イン:それは、素晴らしいですね。
イムル・ギョク:私たちが行ったのは、提案依頼書を提出したことで、最初は60件の提案でした。その中から14の地域を選び、1年間集中的にトレーニングを行い、エネルギー貯蔵が地域にとってどのように役立つかを探りました。地域が自分たちだけではできないこともたくさんあります。電力会社との相互接続や、自治体とのやりとり、湿地帯に建物を建てて法令違反にならないかの確認などです。ですから、私たちは彼らと協力し、そうしたことをすべてクリアした上で、エネルギー貯蔵がどのように役立つかを探っているのです。そして、パシフィック・ノースウェスト研究所で1年間準備したものを、サンディアの私のチームが引き継ぎ、実際にパートナーとなり、彼らのニーズに合った貯蔵施設を建設する予定です。
レイモンド・イン:つまり、自治体や規制に対する教育や支援だけでなく、先生のチーム、つまり国立研究所の1つが実際に出向いて施設を建設し、彼らのために設置するのですね。
イムル・ギョク:私たちが実際に設置するわけではありません。建設業者を雇うのを手伝い、仕様書の作成も手伝い、建設後、その費用に見合うだけの効果があるかどうかを確認するのも私たちの仕事です。
レイモンド・イン:素晴らしい。本当にありとあらゆることを、最初から最後まで行っているんですね。エネルギー砂漠に住む人がいなくなるように、コミュニティを支援しておられます。
イムル・ギョク:ええ、その通りです。エネルギー砂漠とは、貧困層が豊かな地域よりも停電しやすく、停電を緩和するのに時間がかかることを意味します。プエルトリコの中央山岳地帯では、3つの大きなハリケーンの後、いまだに停電している人たちがいます。
レイモンド・イン:最近のハリケーンの後で読んだのですが、彼らはその前のハリケーンからの復興すらできていなかったそうですね。
イムル・ギョク: そうです。
レイモンド・イン:恐ろしいことですね。そんなに長い間、信頼できる電気がないなんて、想像もできません。
イムル・ギョク:ですから、プエルトリコでもプロジェクトを行っています。
レイモンド・イン:素晴らしいことです。技術やエネルギー貯蔵、再生可能エネルギーによって、社会が本当に変わっていくのですね。
レイモンド・イン:さて、注目のイノベーションについて次の質問は、番組共催パートナーであるパナソニックからのものです。パナソニックは世界中のエンジニアリング・ソリューションに最先端のコンポーネントを提供しています。同社の製品について詳しくは、mouser.com/panasonic をご覧ください。
レイモンド・イン:ご存知のように、ローレンス・リバモア国立研究所の核融合研究チームが、最近、核融合プロセスによるエネルギーの純増に成功したと発表しました。商業化には何十年もかかるし、おそらく何百億ドルもかかると思いますが、核融合と再生可能エネルギーの共存を将来的にどのように考えているのでしょうか?地球全体にクリーンで比較的安価なエネルギーを提供するためにも。
イムル・ギョク:核融合を制御できるという証明は、長い間、非常に困難なものでした。
レイモンド・イン:その通りです。
イムル・ギョク:いつも10年後と言われていましたが、今、その証明ができたわけです。素晴らしい成果です。短時間であれば、核融合によって正味のエネルギーを生み出すことができることができるのです。
レイモンド・イン:そうですね。
イムル・ギョク:ただ、これがどのくらいで実用的なエネルギー源になるのか、私にはわかりません。しかし、適切な資金調達と知恵を活用すれば、そう遠い未来ではないはずです。私は、実現することを期待しています。
レイモンド・イン:今日は本当に面白い議論になりました。お話のトピックは、導入からテクノロジー、そして社会的利益へと移ってきました。今日は、本当にありがとうございました。
イムル・ギョク:こちらこそ、ありがとうございます。
レイモンド・イン:ギュク博士との対談の第2部をお楽しみいただけたでしょうか。第3部は、これまでの議論を締めくくる最終回です。どうぞ引き続きお聴きください。The Tech Between Us Podcastは、グリーンエネルギー貯蔵システムについて取り上げたマウザーの特集コンテンツの一部です。さらに詳しく知りたい方は、mouser.com/empowering-innovationにアクセスください。Empowering Innovation Together全シリーズの記事、動画、ユースケースなどのコンテンツがご覧いただけます。
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