Wi-Fi 7がゲームの世界を変える
Jens Hilgendag(マウザー・エレクトロニクスへの寄稿)
ゲーム体験は年々、より豊かでより複雑になり、驚くほどリアルに進化していますが、間近に迫るWi-Fi 7の導入により、技術的に大きな飛躍が見込まれています。それはオンラインゲームの環境はもちろん、ゲームそのものに革命を起こすでしょう。想像してみてください、遅延がなく接続も途切れず、リアルとバーチャルの境界線が曖昧になるなか、大規模なマルチプレイヤー体験が実現できるゲームの世界を。Wi-Fi 7は、前例のない速度、遅延、容量、信頼性を実現し、オンラインゲームの境界を新たな高みに押し上げる接続性の時代を切り開くことになるでしょう。
Wi-Fi 7の驚異的な飛躍
Wi-Fi 7がゲーム環境をどのように変えるかについて十分に理解するには、まずWi-Fi規格の進化を理解しなければなりません。最初のWi-Fi 4(Nプロトコル)では、マルチ入力・マルチ出力(MIMO)技術を採用し、スループットの向上が図られました。続いてWi-Fi 5(ACプロトコル)では、Wi-Fi技術をさらに大きく前進させました。チャンネル帯域幅の拡張やより高度なMIMO機能などによって、一層の高速化と容量拡大、性能アップが図られました。次のWi-Fi 6(AXプロトコル)では、直交周波数分割多元接続(OFDMA)などの技術を採用し、ネットワーク上のマルチデバイス管理の改善、遅延の短縮、ネットワーク全体の効率化を図ることで、速度、容量、効率を飛躍的に向上させました。さらに最近では、Wi-Fi 6を拡張したWi-Fi 6E規格が登場し、アンライセンス6GHz周波数帯を使用することで新たな次元をもたらしました。この追加スペクトルによって、干渉と渋滞はさらに軽減され、いっそうの高速化と性能アップが実現されました。
Wi-Fi 6Eでは、データレートが大幅に向上し、同時に許容できるデバイス数が増えました。これは仮想現実、4Kストリーミング、ゲームなど、多くの帯域幅を必要とするアプリケーションには特に魅力的です。でもこれはまだ序の口です。今度のWi-Fi 7規格では、1台のデバイスを3つすべての帯域(2.4GHz、5GHz、6GHz)に同時接続し、利用可能なスペクトルをフル活用します。ですから驚異の高速化、効率化を実現できるのです。この新規格はWi-Fi 6の4.8倍、Wi-Fi 5の13倍の速度を誇り、速度、遅延、信頼性においても以前のすべての規格を遥かに凌駕します。まさに信じられないほどの飛躍的技術進歩です。これからかつてないほど多くのゲームシナリオが生まれることでしょう。
Wi-Fi 7のゲームへの恩恵
先に述べたとおり、Wi-Fi 7は速度、遅延、信頼性において以前の規格を凌駕します。6GHz帯のチャンネル幅は最大320MHzに拡張され、帯域幅が広がります。Wi-Fi 6Eより4倍速くなり、256GBを25秒でダウンロードできます。これがデータレートの高速化と渋滞の緩和につながり、最終的には最適な速度で同時通信が可能になります。Wi-Fi 7でバッファリング問題は終焉するでしょう。これはゲーム業界にとって極めて大きなニュースです。
マルチユーザーMIMO(MU-MIMO)は、ネットワークデバイスが複数の入力・出力を持つ複数のユーザーを同時に管理する機能です。Wi-Fi 7ではこのユーザー数が8から16に増え、マルチユーザーレベルが2倍になります。Wi-Fi 7はMU-MIMOやOFDMAのような先進技術によって、より適切に複数のデバイスを同時に管理し、混雑したゲーム環境でもシームレスな接続を保証します。
伝送速度と伝送効率の向上もWi-Fi 7の利点です。これによって遅延に大きく左右されるゲームタスクの接続性が改善されます。8KのスマートTVでも、Wi-Fi 7はストリーミングプラットフォームとシームレスに連動します。つまり、グラフィック性能でいえば、ただゲームを見るのではなくゲームの中に入り込むような感覚になります。遅延は一切発生せず、ユーザーの動作がリアルタイムで反映されます。さらにWi-Fi 7では、パンクチャリングで渋滞を避けながら、複数のリソースユニットを使用できます。そうすることで干渉を実質ゼロまで抑えられるので、ゲームに最適です。Wi-Fi 7規格ではあらゆる性能を向上させて、理想的な条件下で40GB/sを超える速度性能を実現します。現行のWi-Fi 6E規格の理論速度が、全周波数帯を合わせてもせいぜい9.6GB/sであることを考えれば、これは非常に大きな飛躍です。さらにWi-Fi 7ではマルチリンクオペレーションにより、デバイスは異なるチャンネルを同時に使って情報を送受信できるようになるので、遅延と渋滞が緩和され、信頼性向上と超低遅延がもたらされます。これらすべてが結集され、かつてないほど多くのゲームシナリオが生まれるでしょう。
Wi-Fi 7が実現する新しいゲーム体験
Wi-Fi 7を使用すれば、干渉、渋滞、バッファリングが遥かに少ないオンラインゲームを体験できます。ゲーマーはゲームの中に入り込み、心から没入感を味わえるでしょう。この新規格は驚異的なグラフィック体験をもたらします。業界は視覚体験をアップデートしてフルHDの高度なグラフィック要素を実現できるようになるでしょう。Wi-Fi 7がゲームにもたらす一番顕著な改善点は遅延の短縮です。これによって実世界の動作がかつてない精度で仮想領域に反映されます。さらに一つの空間でマルチモード・マルチプレイヤーのイベントをリアルタイムで開催するなど、ゲーム界に新たなシナリオが広がります。ゲーマーは自宅のゲーム機に束縛されなくなるでしょう。複数のゲーマーが同じWi-Fiネットワークを使って、互いに速度を落とすことなくゲームパーティーをできるようになります。
もう一つ、近い将来やってくる大きな展開がメタバースです。メタバースは没入感のあるゲーム、空想、アバターの世界を実現します。Wi-Fi 7はグラフィックを多用するオンラインVRセッションにおいて遅延を減らすことで、より強く引き込まれる没入体験を生み出します。つまりゲームだけでなく、エンターテインメントです。マルチチャンネルの同時ストリーミングによって、滞りなくバーチャルパーティーを楽しめるようになります。人々は仮想現実の世界で会い、共に遊び、遊びながら好きなものをリアルタイムでシェアし、追加し、購入するでしょう。このような、よりシームレスでインタラクティブな体験は、ゲームとエンターテインメントの融合をもたらし、ゲーム産業の裾野をはるかに広げるでしょう。
ゲームの力を高めるWi-Fi 7技術
Wi-Fi 7の開発は、大手チップセット企業によって推進されます。こうした企業の多くはすでにWi-Fi 7技術へのアップデートを行い、今後の開発をリードしています。KYOCERA AVX 2.4GHz / 5GHz やWi-Fi® 6GHzアンテナのような製品もWi-Fi 7対応技術を強化するための基礎となります。KYOCERA AVXのWXアンテナファミリーやX9003019シリーズなど、KYOCERA AVXのアンテナは、調整可能な放射パターンが傑出しており、全方位で信号強度を最適化し、次世代のゲームとVRアプリケーションの遅延を短縮します。すでに大手企業は、Wi-Fi 7の利点を活かした未来のゲーム体験を実現するシステム、ルータ、アクセスポイントの構築に着手しています。もちろん、Wi-Fi 7対応製品の開発はまだ非常に少なく、仕様も明確ではありません。現実環境で動作するWi-Fi 7ルータの速度と容量はこれから定義されます。
まとめ
仮想現実とメタバースの空間では、Wi-Fi 7によって向上した帯域幅をフル活用し、没入感のある世界をストリーミングできるようになります。リアルタイムのマルチプレイヤーイベントではラグがなくなり、同じネットワーク上で複数のユーザーが帯域幅に制約されることなくゲームやライブストリームを同時に楽しめます。重いインストール/更新ファイルも一瞬でダウンロードできます。ゲームストリーミングもダウンロード版のようになめらかに動作します。最終的にゲーム界はオンラインとオフラインの性能の差を埋め、グラフィックを多用したラグのないマルチプレイヤーゲームやストリーミングゲームを提供するようになるでしょう。
間近に迫るハードウェアのアップグレードは、業界にとって新しいVR体験を家庭にもたらすチャンスになるでしょう。Wi-Fi 7技術はノートPC、デスクトップPC、スマートフォン、スマートTV、モノのインターネット(IoT)機器に浸透し、ニッチ市場にとどまらず、膨大な数のオーディエンスに没入体験を提供できるようになります。もちろん、これには時間がかかります。最初のルータは高価なハイテク製品になるかもしれませんが、1~2年経てば、価格が下がり、Wi-Fi 7製品の品揃えも充実するでしょう。
さらに将来に目を向けると、すでにWi-Fi 8の開発が進められています。Wi-Fi 8はモノのインターネットと人工知能、そしてWi-Fi 7と5Gの融合にに重点を置いています。これによって、たとえば安全な自動運転体験など、ハイテク業界に別次元の接続性を実現しようとしています。これらの性能強化はゲームには直接関係していませんが、次の規格が私たちに何をもたらすかは誰にもわかりません。バーチャルとリアルの体験をリアルタイムで一つの場所で実現できるようになれば、無限の可能性が広がるかもしれません。