Skip to main content

Wi-Fi 7への道のり

Wi-Fi FEMテクノロジーの最前線に立つQorvo

Steve Taranovich(マウザー・エレクトロニクスへの寄稿)

はじめに


Wi-Fi® 5からWi-Fi 6への移行は効率性と容量の大幅な進歩をもたらしました。その後、Wi-Fi 6Eの登場で新たに6GHz帯が開放され、効率性、容量、速度、スペクトルの飛躍的向上への道が開かれ、Wi-Fi 7の基盤が築かれました。そして今、Wi-Fi 7規格が到来しようとしています。IEEE P802.11beの修正案の機能をベースにしたこの新規格は、Wi-Fi 6(802.11ax)の4倍の速度を実現すると期待されています。

そもそもこれほど一気に無線通信速度を向上させ、次世代ルータをもたらした背景には何があるのでしょう。それを理解するには、Wi-Fi 6/6Eからの進化を考えなければなりません。Wi-Fi 6/6Eの最大速度は10Gbps足らず、それに対し、Wi-Fi 7では46Gbpsが見込まれており、その差は歴然です。この新時代の接続技術として、Wi-Fi 7は2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯をすべて利用し、EHT(Extremely High Throughput)無線通信とも呼ばれています。

こうした背景に欠かせないのは、Wi-Fi 7の実現に取り組んできたQorvo®のような企業の貢献です。Qorvoの最先端技術、とりわけフロントエンドモジュール(FEM)は、Wi-Fi 7 に代表される新たな無線通信領域を実現するうえで重要な役割を果たしています。

本記事ではこの無線技術の刺激的な進歩をより深く掘り下げながら、将来の展望に注目します。画期的な機能と変革を起こす能力を秘めたWi-Fi 7、その時代はもうすぐそこまで来ています。

Wi-Fi 7、到来間近


Wi-Fi 7ではチャンネルサイズが増加し、Wi-Fi 6/Wi-Fi 6Eでは160MHzだった帯域幅が320MHzになります。チャンネル帯域が倍増することでスループットが2倍になり、アップリンク速度は5Gbps以上、ダウンリンク速度は約2.4Gpbsになると予想されています。Wi-Fi 7には効率性強化に欠かせない進歩もあります。チャンネルと周波数帯の共有が可能になるため、超低遅延、信頼性の向上、高度なセキュリティ機能が実現します。

新しいWi-Fi 7プロトコルではチャンネル幅が2倍になるため、ルータをはじめとするデバイスはWi-Fi 6よりも多くのユーザーを処理できるようになります。さらにWi-Fi 6よりも遅延が少なく、ゲームやオンライン会議に最適です。チャンネルサイズとスループットの向上で、先進的な拡張現実(AR)と仮想現実(VR)のアプリケーションも実現できるでしょう。

Wi-Fi 7がユーザーにもたらす利点


Wi-Fi 7によって、ユーザーはプライバシーとセキュリティの向上、容量強化による接続デバイス数の増加、有線デバイスと同等の応答性など、これまでの規格を上回る利点を享受できるでしょう。そのほかにも次のような利点があります。

  • 接続性の向上:5Gbpsを超える通信速度と一貫した超低遅延により、分単位ではなく、秒単位でファイルを共有できます。複数のデバイスが同時に最適なWi-Fi接続を確立し、維持することができます。
  • 遅延と応答時間の向上:Wi-Fi 7では、直交周波数分割多元接続(OFDMA)の強化とスマートデバイスの最適化によってこれらの機能強化が図られます。
  • 容量とスペクトル効率の強化:これによって公共の場や密集した環境での性能が向上します。
  • マルチリンクオペレーション(MLO):Wi-Fi 7デバイスは2つの帯域への同時接続が可能です。これにより、アグリゲーションによる高速化が可能になります(つまり、2つの帯域を同時に使用して、冗長データ/一意のデータを共有し、正確な超低遅延により信頼性を向上させることができます)。
  • 帯域幅の向上:Wi-Fi 7では帯域幅が最大320MHz(Wi-Fi 6は160MHz)になり、両方の帯域幅に対応します。
  • 下位互換性:Wi-Fi 7は下位互換性を備え、2.4GHz、5GHz、6GHzの周波数帯域のレガシーデバイスと共存できます。
  • MACとPHYの向上:これらの向上で最大スループット30Gbps(最大46Gbps)が実現し、システム性能アップ、ユースケースの拡大、Wi-Fiのイノベーションがもたらされます。
  • スループットとデータレートの向上:320MHzチャンネルと4096QAM(直交振幅変調)を使用して、ユーザーは最大5.8Gbpsを利用できます。


Wi-Fi 7のQAMの利点


Wi-Fi 7の主要強化に4K-QAM(4096-QAM)があります。そもそもQAMとは何なのでしょう。

QAMとは、データを無線伝送するためにデジタルパケットをアナログ信号に変調する方式のことで、Wi-Fi規格に当初から規定されてきました。QAMは2つの振幅変調(AM)信号を組み合わせて一つのチャンネルとし、有効帯域幅を2倍にします。そうすることで各伝送により多くのデータを取り込み、スペクトル効率を改善します。

4K-QAM(4096-QAM)は、正方形に配置された4096(212)のコンスタレーションポイントを使用し、1符号あたり12ビットを伝送するQAMと定義されています。Wi-Fi 7の4K-QAMはより多くのデータを圧縮して、Wi-Fi 6の1024-QAMよりもデータレートを20%向上させます。

4K-QAMは、スペクトル効率の向上でデータ転送速度を高めることができます。これは多数のクライアントに安定的にサービスを提供するうえで最も重要なことで、これによって高密度の展開でも高速で信頼性の高いWi-Fiカバレッジが保証されます。


Wi-Fi 7アプリケーション


Wi-Fi 7が到来すれば、さまざまな既存のWi-Fiアプリケーションが強化され、更なる利点を活用した新しいアプリケーションが生まれるでしょう。

スマートホーム
スマートホームでは、スループットの向上、遅延の短縮、マルチリンクオペレーション(MLO)によって、新しいデータ中心のアプリケーションが登場するでしょう。たとえばVRゲーミングリンクは、遅延をごく僅かに抑えながら大量のデータを処理する必要があります。ヘッドセットを付けて振り返れば、ヘッドセット内の映像も頭の動きに合わせてリアルタイムで変化しなければなりません。MLOによってWi-Fi管理システムは、共通のクライアントに異なる無線を使用し、異なる周波数帯とチャンネルでデータを同時に送受信する機能を獲得します。

カスタマ構内設備(CPE)
Wi-Fi 7のルータ技術はホームネットワークに46Gbpsという最高レベルの速度をもたらし、上り、下りの高速化を実現する見込みです。

MIMO
マルチ入力・マルチ出力(MIMO)通信によって、ルータは異なる周波数のさまざまな搬送波信号を用いて信号を伝送できるようになり、シリアル伝送ではなく並列データ転送を行えるようになります。たとえば、5GHzのWi-Fiアンテナが2本あるルータは2×2のマルチ入力・マルチ出力(MIMO)をサポートし、アンテナが3本なら3×3 MIMO、4本なら4×4 MIMOと、16×16 MIMOまでサポートできます。

MIMOの数が多いほど、ネットワークのスループットは大きくなります。n×n MIMOは、例えるなら高速道路、「n」はその車線数のようなものです。レーンのスループットは、1レーンの容量をn倍したものです。たとえば、80MHzのWi-Fi 6の1レーン(アンテナ)レートは、速度が約600Mbpsです。したがって、2×2 MIMOはほぼ1200Mbps、3×3は1800Mbpsになります。

MU-MIMO
これまでのWi-Fiでは複数のデバイスが1つのルータネットワークを使用していました。デバイスは同時接続せず、順番を待って通信していました。Wi-Fi 7のマルチユーザーMIMO(MU-MIMO)機能では、こうした送受信を1対1から1対複数にすることで、複数のデバイスが待ち時間なくネットワークにアクセスできるようになりました。

MU-MIMO技術は、多数のデバイスが存在するネットワークで、スループットを大幅に向上させ、渋滞と遅延を低減します。各デバイスに高い優先順位を付けられるようになり、旧型の低速デバイスを接続しても、ネットワーク全体で安定した高速性能を確保できます。

Wi-Fi 7は16×16 MU-MIMOによって通信を大きく進化させます。データレーン数は最大16になり、空間ストリームは前世代の2倍になります。そのため、ストリームごとに最大16台のデバイスの通信が可能になります。Wi-Fi 7のスループットレートがWi-Fi 6より大幅に向上するのはこのためです。さらに16×16 MU-MIMOはWi-Fiのカバレッジを拡大するだけでなく、各デバイスのデータスループットも劇的に改善します。


Wi-Fiルータに不可欠なフロントエンドモジュール


Wi-Fi FEMは、Wi-FiシステムのRF機能を管理・最適化するコンパクトな統合モジュールです。パワーアンプ(PA)、スイッチ、低ノイズアンプ(LNA)といったディスクリート部品を一つのパッケージに組み込むことで、設計プロセスの簡易化を支援し、性能、サイズ、費用上のメリットを提供します。

Qorvo QM45500 FEM
Qorvo QM45500は、Wi-Fi 7システム用に設計された2.0mm×2.0mm、5Ghz~7GHzのWi-Fiフロントエンドモジュール(FEM)です。最適化されたPA、単極三投(SP3T)アンテナスイッチ、バイパス対応LNAを搭載し、小型フォームファクタと統合マッチングを両立、回路基板フットプリントを最小化します。さらに複数のWi-Fi TXモードで、電力損失を伴う直線性と出力電力を最適化し、消費電力を抑制。最先端のスループットで最高水準の線形電力出力を達成します。

受信経路は選択したテクノロジーに容易に適合し、優れた雑音指数性能をあらゆる条件下で一定に保つことで受信感度を最大化します。2次および3次高調波用のオンボード・ダイレベル・フィルタリングを搭載し、デュアルバンドデュアルコンカレント(DBDC)動作用の2.4GHz除去機能も備えています。組み込みパワーカプラーが閉ループ電力制御とデジタル・プリディストーション(DPD)を最適化し、オンチップDPDが優れたPA線形化手法を提供し、効率化します。

Qorvo QPF7250 iFEM
Qorvo QPF7250は、Wi-Fi 7とWi-Fi 6/6Eアプリケーションに最適化された2.4GHz Wi-Fi統合フロントエンドモジュール(iFEM)です。アクティブコンポーネントの利点とedgeBoost™フィルタ技術を兼ね備え、DC/RFパワー検出器を備えた2.4GHz PA、FCC edgeBoost BAWフィルタ、送受信スイッチ、バイパス機能付きLNAを1つのデバイスに統合しています(図1)。

 
図1:Qorvo QPF7250 Wi-Fi 7 edgeBoost iFEMのブロック図(画像提供:Qorvo)

まとめ


Wi-Fi 7の到来は、無線技術の進化のなかでも画期的な出来事となるでしょう。さまざまな技術的進歩が革新的な技術をもたらし、Wi-Fi 7はチャンネルの幅、QAM、MLOなどでWi-Fi 6とWi-Fi 6Eを遥かに凌駕しようとしています。

Wi-Fi 7が徐々に導入されても、Wi-Fi 6が使えなくなるわけではありません。数年は相補的技術が共存し、さまざまなユーザー要件とアプリケーションのシナリオに対応する多様な無線エコシステムが生まれるでしょう。

こうした開発の中心で、Qorvoのような主要企業がWi-Fi 7を概念から現実に変える上で重要な役割を果たしています。16×16 MU-MIMOやedgeBoostフィルタ技術などの優れた機能を統合した、同社の先進的なFEMコンポーネントは、未来の無線通信の実現に貢献し、ユーザー体験を向上させることになるでしょう。

Wi-Fi 7は2024年に導入される予定です。そのとき、私たちが周りの世界とつながり、コミュニケーションをとり、交流する方法は間違いなく変わるでしょう。この変革の衝撃を体験できる日を心待ちにしています。