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デジタル治療を設計する

信頼できるコネクティビティを実現:デジタル治療用ウェアラブルの設計

David Pike(マウザー・エレクトロニクス)

医療が進化し続けるなか、医師が「その治療用のアプリがあります」と言ってデジタル治療を勧める話も珍しくなくなりました。デジタル治療は、ソフトウェアプログラム、アプリ、デジタルプラットフォームで管理される治療法です。その目的は、遠隔医療でさまざまな病状と病気を改善し、治療することにあります。

こうしたデジタル技術を使って処置または介入を行う画期的システムは、多くの医療分野に適用されています。認知行動療法、マインドフルネストレーニング、薬物療法管理、および身体のリハビリテーションは、すべてこの新しい治療法の恩恵を受けています。

デジタル治療の中心は、無線接続された各種デバイスで測定、追跡、処置を行うことです。双方向型ツール、センサ、ウェアラブルを使用し、患者の進捗状況をモニタリングし、個別のフィードバックを提供して、健康状態を効果的に管理できるように支援します。

こうした新世代の接続デバイスを実現するのは、モノのインターネット(IoT)の中核技術、マシン・ツー・マシン(M2M)通信です。デバイスはIoTによってデータを共有し、そのデータは分析されて、診断と治療に活用されます。

5G無線ネットワークの導入も追い風となり、さらに吸入器やインスリン送達システムのような治療技術も発達して、患者は自宅にいながらにして完全な医療を受けられるようになりました。

こうしたデバイスと病院の煩雑な大型医療機器には、ほとんど共通点はありません。超小型化電子設計によって、新世代のウェアラブルが生まれ、患者は日常生活を送りながら、モニタリングと治療を受けられます。

デジタル治療は単独でも行えますが、従来の治療や投薬と組み合わせれば、患者の転帰を改善し、医療費を削減し、便利でアクセスしやすい治療を提供することができます。この方法は、糖尿病、高血圧、うつ病などの症状の管理に、また不安障害、薬物乱用、慢性疼痛に悩む患者の支援に効果的であることが証明されています。

利点


デジタル治療は従来の治療法に比べて多くの利点があるため、医療関係者は積極的にその可能性を活用しようとしています。おそらく最もわかりやすい第一の利点はアクセス性です。デジタル治療は本質的にオンラインで提供されるため、ネット接続さえあればどこからでもアクセスできます。患者は遠隔地にいる、移動手段が限られているなどの理由で、今まで受けられなかった治療が突然受けられるようになります。

オンラインで提供することで、利便性も大きく向上します。従来の医療サービスに十分アクセスできる患者でも、デジタル治療の便利さを知れば生活が一変します。

こうしたデバイスの多くはソフトウェアベースなので、患者固有のニーズに合わせて治療を調整でき、より個別化されたユーザーエクスペリエンスを提供できます。また、デジタル治療では、双方向型のツールとリソースを提供し、患者が治療に積極的に参加するように促すため、患者エンゲージメントが向上します。患者が血糖値をリアルタイムでチェックできる、最新の糖尿病モニタリングシステムがその良い例です。

この新しいテクノロジーは治療の費用対効果を向上させる可能性があり、そうなると患者はより手頃な費用で医療サービスを受けられるようになります。患者が自宅で治療を受けられるようになれば、高額な通院費用も負担せずに済みます。さらにデジタル技術を使って術後のケアと長期入院のニーズを減らし、患者の臨床転帰を向上させます。

最後に、デジタル技術によって、医療関係者は長期的な健康状態をうまく把握できるようになり、効果的に治療する方法がわかるようになります。接続デバイスはデータをリアルタイムで収集・分析し、臨床医に患者の健康状態と転帰について重要な洞察を提供することができます。これがデータ全体に大きく貢献し、代替療法を迅速に開発できるようになります。デジタル治療は、新しい画期的な方法で患者の転帰を改善し、効果的な治療をより利用しやすくし、その一方で、進化する医療ニーズに関する知識を広げます。

実装の課題


デジタル治療には多くの利点がありますが、実装に関してはいくつかの課題があります。すべての医療用の機器に言えることですが、新しいデバイスは既存の認証・規制に準拠する必要があります。デジタル治療は比較的新しいこともあり、開発と利用を管理する明確な規制ガイドラインがないのがネックになっています。

そのため、徹底的に試験を行って効果を証明しなければならず、この分野でより多くの研究を行う必要があります。ウェアラブルデバイスの臨床的機能の範囲はすでに既存の規制に示されていますが、デジタル治療システムもまた機密性の高い患者情報を収集、保存、送信するように設計されています。

したがって、遠隔医療を提供するには、データセキュリティを隅々まで配慮した指示が必要です。健康データを無線ネットワークで伝送するウェアラブルデバイスを設計する場合は、個人のプライバシーを取り巻く幾層もの新しい規制を意識しなければなりません。開発者と医療提供者は、個人情報の安全保持を患者に保証できなければなりません。このタイプの治療はデータに基づいて行われるため、デジタル治療を既存の医療システムと統合するとき、特にリソースが限られた小規模な診療所では、課題が浮き彫りになるかもしれません。

これが患者に広く受け入れられる上での障壁の1つであり、この新しい技術に利点があっても、導入をためらう一因になるかもしれません。インターフェイスはスマートフォンに似ていますが、現代的な電子機器に不慣れで、ウェアラブルデバイスの操作に必要な「デジタルリテラシー」がない患者もいます。

デジタル治療に関連する初期費用も採用の障害になるかもしれません。すでに述べたとおり、デジタル治療は長期的には費用対効果に優れていますが、メーカーは医療機器の開発と実装に関連する多額の費用に直面し、さらに試験と認証を延々と行うことになります。

そのため、デジタル治療は患者の転帰を改善し、治療行為へのアクセスを増やす大きな可能性を持っていますが、メーカーはその幅広い導入と普及のための課題を認識し、それに取り組む必要があります。

設計者の課題


デジタル治療の登場で、医療は病院の枠を越えて、ウェアラブルテクノロジーの領域に踏み込みました。超小型エレクトロニクスのおかげで、患者は自由に日常活動を続けながら、遠隔モニタリングと治療を受けられるようになりました。

たとえば、糖尿病患者用の最新のウェアラブルは、小型化と高い機能性の理想的な融合を実現しています。Bluetooth®でスマートフォンに接続し、機器とスマートフォンを組み合わせることで、病院内の多くの機器よりも優れた接続性と計算能力が得られます。ただし、このIoT革命では、高度な医療機器を病院の保護された環境から患者の手に委ねることになります。

設計者はデバイスを開発するに当たり、これまで以上にユーザーを中心に据え、使いやすくて患者のニーズに応える製品を設計しなければなりません。これには、患者や医療提供者と緊密に協力してニーズと優先事項を理解し、フィードバックを設計プロセスに組み込む必要があります。

使いやすくわかりやすいデバイスにするために、ユーザビリティテストも実施しなければなりません。これには、実際のユーザーによるデバイステストを広く実施し、ユーザーエクスペリエンスを改善するために、重要な問題を洗い出して、変更を行う必要があります。その際には、すべての患者がその身体能力に関係なくアクセスできるようにする、アクセシビリティも考慮しなければなりません。それには、テキスト読み上げ、高コントラストディスプレイ、調節可能なフォントサイズなどの機能の組み込みが必要になるかもしれません。

他にも、小型化の利点を活かしながら、高速でデータを共有できるソリューションの開発という課題もあります。こうしたデバイスに使用されるコネクタにとって、これは特に厳しい要件です。データ伝送速度がギガビット/秒の範囲に達した今、信頼性の高い安全な回路を構成するコネクタの能力がかつてないほど重要になってきています。

同時に、ウェアラブルでも携帯型でも、新世代の医療機器は持ち運ばれるため、高速コネクタは手荒な扱いに耐えなければなりません。衝撃と振動は、これらのデータ集約型アプリケーションには極めて重要な検討事項です。過酷な条件は一瞬回路が開く原因にもなりえます。低周波の電気システムは1マイクロ秒のギャップでは影響を受けないほど堅牢です。ただし、最新のデバイスには10Gbps以上の高速データ処理が要求されているため、信号がわずか1マイクロ秒途切れるだけで、重要な情報の喪失につながる可能性があります。

コネクティビティを実現


デジタル治療デバイスに安全で信頼性の高い接続を確保するには、ウェアラブルデバイスが手荒な扱いや衝撃、振動を受けても、それに対する耐久性を持つよう設計されたコネクタが必要です。しかしながら、薄型デバイスの増加に伴い、コネクタには物理的な堅牢性の向上だけでなく、パッケージの小型化やより細かいピッチも求められています。従来の基板対基板用コネクタは、フレキシブルプリント基板(FPC)のような薄型軽量の製品に取って代わられました。

相互接続メーカーのMolexは、コネクタには小型化、堅牢性、高性能を適切に組み合わせることがいかに重要であるかを理解しています。こうした品質はコネクテッドワールドのソリューションにおいて極めて重要であり、設計者は自分たちが直面する課題を理解できるソリューションプロバイダーを見つける必要があります。Molexは、革新的で信頼性の高いソリューションを実現する専門技術を提供しており、明日のテクノロジーの設計者に多くの選択肢を提供できるよう取り組んでいます

Molexの最新のイノベーションはファインピッチコネクタの境界を越えました。Quad-Row基板対基板用コネクタは、長さ3.10mm(トータルピッチ+)、幅2.00mm、高さ0.60mmのコンパクトなパッケージで最大36ピンを実現します(図1)。Molexは、0.35mmピッチに4列のピンを採用し、各列を千鳥型に配置することでピッチをわずか0.175mmにし、このような小型化を実現しました。その結果、PCB設計者にとって実装面積がより管理しやすくなり、製造時の許容範囲も広がりました。


図1:Molex Quad-Row基板対基板用コネクタ(画像提供:Molex)

コネクタ端部の電力素子は50Vで最大3Aを供給し、機械的強度を備えているので、Quad-Rowコネクタは厳しい条件下に適しており、最新のウェアラブル医療デバイスに理想的なソリューションです。

まとめ


個別化され、利用しやすい画期的な医療ソリューションを提供できるデジタル治療は、患者の転帰を改善し、医療費を削減し、最終的に医療への取り組み方を変革させる治療法として期待されています。この医療革命のためのハードウェアを設計するには、その機能性と動作環境に対する根本的な理解が必要です。設計者は医療業界が求める信頼性、堅牢性、性能を提供できるコネクタを選択しなければなりません。

デジタル治療は、インターネット接続さえあれば、どこからでもアクセスできる画期的で効果的な医療を提供し、医療提供を変革しています。このテクノロジーは、アクセス性、利便性、個別化、患者のエンゲージメント、費用対効果の向上、および臨床転帰の改善といった多くの恩恵をもたらします。ただし、こうしたデバイスの実装には、規制とデータセキュリティ問題への対応など、一連の課題もあります。設計者はユーザーを中心に据え、使いやすく、患者のニーズを満たし、そして規制要件に準拠するデバイスを開発しなければなりません。コネクタはこの革命に重要な役割を果たします。
Molexの画期的なQuad-Rowコネクタは、医療業界が求める信頼性、堅牢性、性能を実現し、新世代のウェアラブル医療デバイス向けのコンパクトで高性能なソリューションを提供します。