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IoTをシンプルにしたいですか? Matterはそのためにあります。

David Freedman(マウザー・エレクトロニクス)

電球を点けたり消したりするのは、人々が思うよりずっと難しいことかもしれない。

とにかく、多くの製品開発者がそれを実感している。そう語るのは、ワイヤレス接続技術の提供を専門とするハードウェア・ソフトウェア企業、Silicon Labsで主任プロダクトマネージャーを務めるロブ・アレクサンダー氏。「スマート電球」の販売を目指すメーカーが増えるなか、ユーザーがスマホアプリから電球をリモート制御するには、そのコードの開発が必要なことに開発者は気づいているようです。

アレクサンダー氏によると、ON/OFFのコマンドは「1」か「0」を送るだけのシンプルなものですが、そのシンプルなメッセージを、Wi-Fi通信プロトコルやセキュリティプロトコル、さまざまなスマホアプリのプロトコル、Google、Apple、Amazonなどのアシスタントと連携させるためのプロトコル、クラウドに情報を格納するプロトコル、さらには他の電球やスマート製品と連携させるためのプロトコルで囲まなければなりません。「途方もなく複雑な取り組みになる可能性があります。メーカーは電球のことは十分知っていても、こうした下位層プロトコルについては何も知りませんから」と彼は言います。

このような状況のなか、「Matter」は登場しました。Matterは、あらゆる地域の一般家庭で急増するスマートデバイスのエコシステムにどんな製品でも容易に組み込めることを約束する、新しい包括的なソリューションです。

Matterが必要な理由


Matterは、モノのインターネット(IoT)への組み込み要件を簡易化することを目指す、規格、基礎コード、開発ツールです。色が変わる電球、ストリーミング音楽の再生スピーカー、歩数を数えるフィットネストラッカー、ジーンズが乾いたら携帯メールで知らせてくれる衣類乾燥機、配達を監視するドアベルカメラなど、世界中のありとあらゆる無線通信機器がインターネットでつながれています。

IoTは爆発的に成長しており、IoTデバイスの数は2021年の120億台から2025年には270億台に増加すると予想されています。私たちはスムーズに家事をこなし日常生活を送るため、娯楽、安心・安全、快適さ、便利さの点でIoTにますます依存しています。正しく設定すれば、個人のIoTネットワークでスマートデバイスを連携し、シームレスにコントロースできるでしょう。「たとえば『アレクサ、映画を見るよ』と言うだけで、自動的にロールスクリーンが降りて照明が暗くなり、テレビとステレオのスイッチが入り、お気に入りのストリーミングサービスが画面に表示されるかもしれません。これほど簡単に機器を操作できたら最高です」とアレクサンダー氏は語ります。

しかし、スマートデバイス開発者にとって、これほど便利な自動制御を提供するのは悪夢かもしれません。というのも、さまざまなプロトコルやエコシステムと格闘しなければならないからです。「開発者はドアロックやオーブントースターの専門家かもしれませんが、無線プロトコルの専門知識まで増やす意欲はないでしょう。IoTに必要なものを全部組み立てるのは、途方もなく複雑な作業なのです」とアレクサンダー氏は言います。

さらにユーザーにとっても、デバイスを接続し、複数のスマホアプリと遠隔操作の方法を覚え、複雑で誤作動の多い設定手順をなんとかこなし、それでも連動しないデバイスがあるようでは、耐えられないでしょう。

そこにMatterが登場しました。Matterの基本的な考え方は、非専有のIoTエコシステムの構築に必要なすべてのコードを標準化し、詳しく説明して、スマートデバイスの開発者が誰でも簡単に接続できるようにすることです。そうすれば、アプリ、リモコン、音声アシスタント、またはそのいずれかの組み合わせによって、操作インターフェイスの下でユーザーのスマートガジェットを一元的に接続することができます。「ウェブサイトを構築したり、ウェブブラウザーを使用するのに、下位層プロトコルについて詳しく知る必要はありません。Matterは、IoTでもそうした類のことをしてくれます」とアレクサンダー氏は語ります。

Matterのしくみ


Matterは、Connectivity Standards Alliance(CSA)という非営利産業団体によって考案されました。2006年からCSAの活動に参加し、役員を務めているアレクサンダー氏によると、業界関連企業がそれぞれ同等の立場でCSAを運営していると言います。

つまりこの団体は、開発者やユーザーを独自のエコシステムに縛られることがないようにし、利用可能なほとんどのデバイスでMatterを対応させるうえで、完璧な立場にあります。「Google、Apple、Amazonなど、好きなエコシステムを使い続けながら、Matter対応デバイスを追加することができます。こうしたエコシステムのデバイスをMatterの下で運用できます」とアレクサンダー氏は説明します。

Matterは、Matterと互換性のあるデバイスの構築を容易にするために、特定の種類のデバイス用に上位層制御オプションを詳述しています。「開発者はデバイスに処理させたいユーザーコマンドの種類を指定します」とアレクサンダー氏は言います。「例えばスマートロールスクリーンなら、メッセージは『全部開ける』、『全部閉める』、『25%開ける』 などになるでしょう。それだけでMatterは無線で処理するのに必要な低レベルコードを生成します。開発者は高レベルでMatterのコードにプラグインするだけでいいのです。Matterはすべての詳細を抽象化することができます」。

Matterはすでに最も人気の高いスマートデバイスに(もちろん電球にも)対応しています。そして継続的に新しい種類を追加し、多くのコマンドの種類を提供する能力も追加しています。アレクサンダー氏は「ロボット掃除機がディナーパーティー中に掃除を始めないようにするスケジュール処理など、現時点ではまだ解決すべき複雑なデバイスとタスクが残っている」としつつも、新しいMatterの機能、互換性、ツールが公式発表を目の前に、早くもインターネット上で出回っていることに言及しました。

さらに、Matterがより多くのメーカーをエコシステムに取り込み、ユーザーの認知度と関心をさらに集めて市場に根づくにつれ、こうした進歩はますます加速すると予想し、次のように述べています。「インターネットやソーシャルメディアの黎明期のように、ネットワーク効果が生まれるでしょう。より多くの企業と人々が参加するにつれ、利便性が向上し、より多くの企業と人が参加を希望するでしょう」。Silicon Labsのような企業は、Matterとデバイス開発者の間に立ち、プラグ&プレイ、Matter対応ハードウェア、ソフトウェアコンポーネント、ツールを提供します。

Matterがユーザーにもたらす恩恵とは?


Matterは必ずしも既存のスマートデバイスのアプリや独自のIoTエコシステムに取って代わるものではなく、むしろ、ユーザーの選択の自由を広げるもの、とアレクサンダー氏は強調します。ユーザーは自分の好きな既存のエコシステムを選んで使い続け、Matterの下でさまざまなエコシステムを組み合わせることも、シンプルに異なるエコシステムとアプリを併用することもできます。あらゆる場面で、Matterはすべてをつなぐ接着剤になります。

このようにして、Matterは古いスマートデバイスを最新の状態にし、将来にわたって使用可能にできると、アレクサンダー氏は主張します。「洗濯機や冷蔵庫など、10年に一度しか買わないスマート家電もあります。こうした家電製品は、一度購入したら、交換やアップグレードをせずに使い続けたいものです」。Matter適合ネットワークにこうした機器を追加すれば、機器の専用アプリやリモコンが古くなっても、他の機器を操作する最新のアプリでリモート監視し、コントロールできるようになります。

アレクサンダー氏は、多くのIoTエコシステムとアプリがかなり前に開発されたことに触れ、Matterはネットワーク全体を最新の状態に保つことができると言います。「その後、プロトコルとセキュリティにはさまざまなことが起こりました。最新機能で設計されたエコシステムを持つのは大きなメリットです」。さらに、ユーザーは他のエコシステムを使い続けても、Matter互換にすればこれらの機能を追加できるとも述べています。

Matter適合ホームネットワークでIoTデバイスを運用するために、新しいアプリとリモコンの開発に拍車が掛かり、ユーザーはいつでも最新製品に交換、またはアップグレードできるようになるでしょう。アレクサンダー氏によると、Matterは発表当初からGoogle、Apple、Amazonといった既存の主要エコシステムとの連携能力を持つので、基本的に巨大な設置基盤となるものでも最初から稼働すると言います。

そのうえ、メーカーと開発者は主要機能と互換性を維持しながら独自にMatterのカスタマイズバージョンを自由に作成し、特殊機能と独自の外観と雰囲気を追加できるようになるので、「開発者はまた一から作り直さなくても、より優れた体験をユーザーに提供することができます」とアレクサンダー氏は述べています。

それでも、特殊な用途のなかには、独自の単一デバイス制御アプリやリモコンが必ず必要なものもあるようです。アレクサンダー氏は、独自のネットワークでリモコンに接続し、車庫までの私道全域に信号を送るガレージのドア開閉システムを例に挙げ、「すべてのユースケースに完璧に対応できるテクノロジーはない」と言います。ただし、独自の方式が理に適っている場合でも、Matterの互換性があれば、Matterネットワークでデバイスの動作をリモートで監視することができ、依然として役立つはずであると付け加えました。

まとめ


Matterが受け入れられるためには、ユーザーが新しいデバイスを購入するときに「Matter対応」と認識できること、そして互換性に関する主張が完全に信頼できることが極めて重要です。その目標に向かって、CSAは厳格な試験と検証プロセスを確立し、一目で製品が基準を満たしているとわかるような、特徴的なロゴを作成しています。「互換性の主張が本物であると人々に信じてもらう必要があります」とアレクサンダー氏は述べています。

暗闇の中でひたすら電球が灯るのをむなしく待つ、誰もそんな体験はしたくありません。