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VOC(揮発性有機化合物)センサの注意点とは?

Robin Mitchell(マウザー・エレクトロニクス)

「volatile」という言葉は、不安定なもの、危険なもの、激しやすいものを表すのによく使用されますが、科学の文脈ではやや意味が異なります。科学用語では、「volatile」は揮発性という意味で、蒸気圧が高く、固形や液体から気体に変化しやすい物質を指します。化合物がどの程度揮発性であるかは、室温と標準海面気圧の環境に関係します。したがって、揮発性有機化合物(VOC)は、高い蒸気圧を持つあらゆる有機化合物を指します。

揮発性(volatile)という言葉は必ずしも爆発性や可燃性を意味しているわけではありませんが、ほとんどのVOCが可燃性で、その多くが低濃度で爆発を引き起こす可能性があります。VOCは反応しやすい性質のため、発火源に暴露される環境では、エンジニアに大きな課題をもたらします。このような環境では電気接触、スイッチ、そして衣服による静電気でもVOCが発火する場合があります。

VOCは産業プロセスや自然界に広く存在します。例えば、石油生産における硫化水素や、自然発酵におけるエタノール(アルコール)が挙げられます(ただし、エタノールの場合、通常、自然発酵ではなく蒸留中にリスクが発生します)。

合成工程からVOCを回収することもでき、そのようなVOCは蒸気圧が高いため、一般的に冷媒として利用されています。VOCの圧縮、冷却、その後の気化を利用して、低温にすることができます。そのためVOCはヒートポンプなどの用途に最適です。

このようなVOCを測定するにはさまざまなセンサを利用することができ、それぞれのテクノロジーには明確な長所と短所があります。どのVOCセンサテクノロジーを実装する場合でも、使用する環境と製造工程の性質を十分に考慮する必要があります。

VOCセンサの代表的なアプリケーション


VOCセンサの最も重要な用途の1つは、爆発性ガスの監視です。VOCが蓄積する危険性がある環境では、近くにいる人に警告を与えるガス検出システムが常に必要です。例えば石油やガスの採掘と生産では、作業中に放出される硫化水素が、作業員に命の危険(爆発や中毒)を及ぼす可能性があるため、ガス検出システムが必須になります。またVOCセンサはガス漏れの検出にも役立ちます。VOCセンサを携帯ワンドやウエラブルに取り付けることで、エンジニアはガス漏れの原因となる箇所を特定することができます。

また空気中のVOCは特に建物内の空気の質にも影響を与えます。施設管理者は、空気質管理システムにVOCセンサを設置することができます。主要なVOCが増加した場合は、空気質が低下したことを意味します。さらにこのようなシステムを建物の空調システムと連動させて、新鮮な空気を取り込むことも可能です。

このほかVOCセンサは自動車の排気ガスの監視にも欠かせません。燃料を正常に燃焼している自動車からは二酸化炭素と水しか発生しませんが、エンジンが最適に動作していない場合は、特にVOCが発生します。試験施設では、VOCセンサを使用してエンジンの性能と効率を確認することができます。

VOC測定にセンサテクノロジーを使用する際の課題


前述したように、VOCには爆発や火災の重大な危険性が伴います。したがって、VOC測定に使用するセンサは、VOCを発火させることなく測定できなければなりません。電気部品をVOCにさらすセンサは、故障時にスパークを発生させ、そのスパークがVOCに引火する可能性があります。そのため導線を露出させる直接検知方法では、防火装置(つまり、発火した混合物がカスケード効果を引き起こすのを防止するシステム)を組み込むか、導線間でスパークが発生しないようにする必要があります。

さらに、VOCは低濃度では危険になる可能性があるため、低濃度で検出することは困難です。センサを使用して100万分の1(ppm)レベルの化合物を検出することは非常に困難です。またVOCは反応性が高いため、センサが化学結合を利用している場合、特定のVOCの検出は難しくなります(つまりセンサはVOCは検出しても、VOCの種類は検出しません)。

VOCセンサの種類


金属酸化物半導体センサ
市場で最も一般的なガスセンサの1つが金属酸化物半導体(MOS)ガスセンサです。これは直接検出方式を採用しており、検出対象のガスは、センサ材料と物理的に接触します。VOCを検出するために、MOSセンサはVOCを酸化させる小さな発熱体を使用します。この酸化化合物は次に金属酸化物層(通常は酸化スズ)に反応し、これが金属酸化物層の抵抗に変化を与えます。

MOSセンサは最も安価で実装しやすいのですが、多くの問題があります。MOSセンサは小さなヒーターを使用しており、この温度が上がり、機能するまで時間がかかります。このためスイッチの切り替えを素早くすることができません。次にMOSセンサは較正前に最長48時間のセトリング時間が必要で、製造品に使用するのが困難です。

MOSセンサは有機化合物にも無機化合物にも反応し、ほとんど区別をしないため(つまりあらゆる揮発性化合物の存在を検出します)、精度が悪く、感度が低くなります。さらにVOCを酸化するために内蔵ヒーターを使用することで、発火リスクがあります。多くのMOSセンサは引火を防ぐためにケージが付いていますが、破損しているMOSセンサはVOCが漏れることが多く、環境にとって非常に危険です。

光イオン化検出センサ
光イオン化検出 (PID)センサは高周波の光を使用し、VOCの分子を分解し、分解した分子が発生させる電流を測定します。PIDセンサは精度が高く、高感度で、最低0.5 ppb(10憶分率)の濃度を検出し、数秒で濃度の変化に反応します。

PIDの選択性は、特定の周波数の光を使用することで一部、実現できます。特定の周波数の光はそれぞれの分子に対して既知のエネルギー量を与えます。これは電磁波のエネルギーは直接周波数に関係しているというプランクの関係(E=hf)で定義されます。特定のVOCには特定の活性化エネルギーがあるので、PIDセンサは特定のエネルギーを下回るVOCを無視し、この限度を超えるものに対してだけ反応します。

しかしPIDは高湿環境で適切に機能しない場合があり、メタンなどの小さいVOC分子の検出はできないことからアプリケーションは限られています。さらにPIDセンサは通常、官能基には有効ですが、炭化水素鎖には無効です。

電気化学センサ
電気化学センサはMOSセンサのようにVOCを酸化し、電流を発生させます。MOSは発熱体を使用し、物理的にガスを燃焼しますが、電気化学センサはVOCを拡散させ(酸素とともに)、活性化部位で化学的に結合させるメンブレンを使用します。この拡散層により爆発リスクが解消され、10ppbまで測定が可能になります。

電気化学センサは費用対効果が高く、反応時間は約30秒です。さらに選択性を可能にするベース電圧を使用しているので、特定のVOCを識別するのに最適です。しかしその構造のため通常、寿命が2年以内と短く、頻繁に交換する必要があります。      

インテリジェントセンサ
VOCの中には人工知能(AI)と機械学習(ML)を融合し、さらに進化しているものもあります。こうしたセンサは検出したガスをインプットさせ、そのインプットを使用してVOCを分類するよう特別にトレーニングしたモデルを使用しています。

センサで直接分類をすることで、センサは意思決定に使用できる詳細で貴重なデータを提供することができます。システムにインテリジェンスを活用することで、システムの残りの部分からコンピューティング要件をオフロードできるというメリットもあります。

水素炎イオン化検出センサ
水素炎イオン化検出(FID)センサは2つの電極間に設置した水素炎を使用します。公称条件において、水素は燃焼するとすべて水蒸気となるため、水素炎はイオンを発生しません。しかし水素炎で燃焼したVOCがイオンを発生する場合、イオンは電極で検出されます。そしてこの結果発生する電力の大きさが、VOCの濃度を示すことになります。

FIDは低コストで、メンテナンスをあまり必要とせず、非常に丈夫で正常に動作を続けます。さらにFIDでは生成される電流とVOC濃度が明確な比例関係にあります。しかしFIDは破壊的なセンサなので、測定されたVOCは破壊されます。そのためVOCを変化させてはならない場合はFIDを使用することはできません。また適切に設置されていないと漏れる危険性がある水素に依存しているため爆発リスクがあります。

光音響センサ
光音響センサは吸収した光は音波を生成するという光音響の原理を利用しています。基本的に赤外線(IR)エミッタを使用しガスを急速に熱し、IRの光を吸収し発生した音波を小型内蔵マイクで検出します。光音響センサは珍しく、使用されているものは通常、二酸化炭素の検出目的のものです。しかしVOCに使用できるよう研究が進められています。

光音響センサは、異なる音波を生成するガスを区別できるという優位点があります。さらに一部のガスは他のガスよりも特定の波長の光を吸収するため、選択光源を使用することで、選択性を向上させることが理論上可能です。

設計統合で考慮すべき事項


VOCセンサをアプリケーションに組み込む場合、エンジニアは多くの設計オプションを検討しなければなりません。多くの電子部品とは異なり、VOCセンサは化学品、気温の変化、環境における湿度に非常に敏感です。さらに多くは製造中にセンサを破損しないようにプラスチック製のタブやカバーが必要になります。

VOCセンサをデバイスに組み込む場合、エンジニアは環境の温度と湿度を考慮する必要があります。VOCセンサによっては極度の温度や湿度では正常に動作しない場合があり、安全性に関わるアプリケーションではこれは致命的です。

また環境に存在するガスも考慮しなければなりません。化合物のなかには(アンモニアや窒素酸化物など)VOCセンサのアラームのエラーの原因となるものがあります。さらに化合物によってはセンサを汚染するものもあり、一度暴露してしまったら、それ以降の動作の信頼性がなくなります。

VOCセンサはモニターする環境に暴露する必要があるため、センサのエンクロージャに通気口をつける必要があります。またセンサと通気口はガスが容易に流れるように(つまり対流)配置しなければなりません。そうしないとデバイスに籠った空気で測定にエラーが生じる場合があります。

アナログ出力のセンサは、スイッチモード電源やマイクロコントローラなど、ノイズの多い回路から離して取り付ける必要があります。またセンサから検出回路までのアナログラインに関しては、センサライン上に高速信号を通過させてはいけません(電磁両立性と電磁干渉の標準慣行を参照のこと)。

もう1つ考慮すべき点は、システムの他の部分がセンサからの出力をどのように使用するかということです。例えばセンサの出力がML分類モデルへの入力に使用される場合、センサにML機能が既に組み込まれたソリューションを使用するのが良いかもしれません。

最後に、一部のVOCセンサにはセンサの内外にガスを拡散させる開口部があります。このような開口部を塞いではいけないので、細心の注意を払い、埃などで詰まらないように保護する必要があります。

適切なVOCセンサの選択


MOSセンサは爆発の可能性が(低いとはいえ)あるため、重要度の低いアプリケーションに適しています。例えば、MOSセンサはそのシンプルさと低コストにより、住宅のモニタリングに使用される空気質システムにとって魅力的な選択肢です。さらにMOSセンサは非常に小さいため、薄型のエンクロージャ内に簡単に取り付けることができます。

PIDセンサは高い信頼性と安全性が要求される産業用アプリケーションに最適です。最小濃度のVOCを検出できるため、PIDセンサは早期警告アラームに最適です。エネルギー選択性により、特定のエネルギー下ではVOCを無視することができますが、設定エネルギー以上のVOCに対しては反応します。

電気化学センサは拡散層を使用するので爆発性環境での使用に最適です。低濃度検出能力が優れているので、パイプラインやリグなどの重要なインフラでの漏れの検出にも適しています。しかし寿命が短いので、交換が簡単にできるように設計する必要があります。

Bosch BME688 AIガスセンサなどのセンサは、インテリジェント機能をセンサに統合することでセンサの設計を改善します。BME688はチップにAIを組み込んだ業界初のガスセンサで、ガスを検出、分類し、アプリケーション固有の応答性を向上させます。この機能に加え、高感度、低消費電力、小型フットプリントを備えており、コネクテッドデバイスやスマートホームなどのアプリケーションに最適なソリューションです。

まとめ


エンジニアはVOCに関するさまざまな課題に対応しなければなりません。VOCは爆発の危険性があり、低濃度では検出が難しく、さまざまな形で存在します。

さまざまなVOCセンサがあり、それぞれのテクノロジーに長所と短所があります。MOSセンサは低コストアプリケーションに最適ですが、湿度の高い環境では性能が劣り、爆発の危険性があります。PIDセンサは選択性には乏しいですが、VOCレベルの突然の変化に反応することができます。電気化学センサは選択性に優れていますが、頻繁に交換しなければなりません。

どのVOCセンサテクノロジーを実装する場合でも、使用する環境と製造工程の性質を十分に考慮する必要があります。