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グリーンエネルギー普及に向けた主な動向

グリーンエネルギーシステムの普及に向けたイノベーションとその動向

Adam Kimmel(マウザー・エレクトロニクス)


はじめに


2015年にパリで開催されたCOP21は、世界全体で気候変動に取り組む大きな一歩となりました。この会議で各国はパリ協定を採択し、2100年までの世界の気温上昇を2°C以下(目標値1.5°C)に抑える取り組みを約束しました。参加各国は2050年までのクライメイト・ニュートラル(気候中立)な世界の実現を目指し、この目標を達成する意向です。

世界経済にとって朗報は、積極的な気候変動への取り組みにより、グリーンエネルギー(もしくは再生可能エネルギー)の市場機会が2030年までに2兆ドルに達すると見込まれていることです。この記事では、グリーンエネルギー分野の現状と最新の技術開発について概説します。

再生可能エネルギー源は、すでに世界の電源構成において大きな比率を占めています。その大部分は水力発電ですが、風力と太陽光も急速に追いつこうとしています。図1の2021年の世界の電源構成を見ると、ここ数年、風力と太陽光は次第に水力発電に追いつきつつあります。

図1:2021年世界の再生可能エネルギー発電の電源推移。(出典:「Energy」Hannah Ritchie、Max Roser、Pablo Rosado共著 (2022)。OurWorldInData.orgにてオンライン出版。データ元:https://ourworldindata.org/energy

太陽光エネルギー


太陽光エネルギーおよび太陽光発電(PV)の分野では重要なイノベーションが生まれていますが、実装には次のような障害があります。

  • 発電インフラの土地の確保
  • 装置と設置のコスト
  • インバータと電力変換装置
  • パワーグリッドとの統合技術
  • 大型ソーラーパネルを住宅の屋根や農地に設置する場合の美観上の問題

各国政府の間では、太陽光エネルギーの電源比率を高める重要性、およびパリ協定の目標達成までの期間を考慮した末、ソーラーパネルの設置を義務化し、他の選択肢を排除する動きも出始めています。たとえば東京都は2025年以降の新築住宅にソーラーパネルの設置を義務付けました。

ソーラーセルと太陽光の集積
太陽光エネルギーには、主に間欠性と非効率という2つの欠点があります。論理的には、自然由来の電力は高度に加工されたエネルギーよりも効率と信頼性に劣ります。たとえば、市販のソーラーパネルのエネルギー効率はわずか15~20%で、単材の理論上限値は30%以下です。これらの限界は、主にエネルギー変換損失と受光前の太陽光の拡散度によって決まります。

エンジニアたちは、実用性に適う限りPVを集積して、非効率的な処理の全体出力を高めようとします。そしてパネルを南向きに設置し、日陰を避けてエネルギー効率を最高に高めれば、パネルの枚数を最適化して、最大の価値を得ることができます。さらに、設置面積の広いソーラーパネル列は、駐車場に日陰を作り、地上からは見えない高層ビルの平らな屋上を活用できるという二次利益ももたらします。

海上太陽光発電
太陽光発電とって場所の確保は避けて通れない重要案件です。そうしたなか、海上に太陽光発電システムを展開する動きが出ています。地球上に開放水域は膨大にありますし、沖合に浮かべたPV(別名:フロート型太陽電池)には、海水による液冷効果、太陽光が水面に反射してパネルの受光量が増加する効果など、自然の恩恵もあります。さらに、液冷式は空冷式より伝熱効率が高いため、同等の発電設備よりも部品のサイズを小型化できます。

農業用太陽光発電
フロート型太陽電池と同じように、営農型太陽光発電(agrophotovoltaic)には広大な敷地にPVを設置できるメリットがあります。この場合、農地にソーラーパネルを設置し、農作物の栽培と発電を同時に行うことになります。この方法は、送電網にアクセスしにくい遠隔地にレジリエントなエネルギーを供給し、農業用のグリッドパワーを強化することができます。すでに利益を出していた農地で発電することで土地の価値が上がり、パネルによる土壌温度の低下、水分の蒸発の減少効果で、農地の収量が増える可能性があります。

集光型太陽熱発電(CSP)
太陽光エネルギーの非効率性を改善する別の方法として、ミラーやレンズを使って太陽光を小面積に集め、オンデマンドで熱エネルギーに変換する、集光型太陽熱発電(CSP)があります。太陽熱を電気に変換するプロセスは、スターリングエンジンや蒸気タービンのしくみに似ています。ちなみにCSPを実現するには、高電圧送電線へのアクセス、広大な土地、良質の太陽光(アメリカ南西部のような)などが必要です。

PV材料のイノベーション
市販の単材PVの変換効率は非常に低く、20%程度です。ただし、素材も大きく進化し、この限界に挑戦しています。たとえば、PVセルを薄くするだけで物理的柔軟性が増し、コストが減り、使用する資材の減少により持続可能性が向上します。またPVが薄いと、材料の厚みにより生じる(分厚い材料を加熱する)伝導損失が減り、エネルギー変換効率が上がります。

PV材料のもう一つの進化は、ビスマス(Bi)ベースの材料とコーティングを実装すことで、30%以下という理論上限値を超えたことです。主要なコーティング材のペロブスカイトは、理論効率の上限を43%に高めます。これは太陽光スペクトルの波長吸収範囲を広げ、利用可能なソースエネルギーの量を増やすためです。ただし、ペロブスカイトの耐久性はまだわかっておらず、ソーラーセルの耐用期間を通じて高効率を維持できない可能性があります。他のフィルムとコーティングも、CSPのように光線を捉えて方向を変えることで、5~10%の効率アップを実証しました。

風力発電と水力発電


再エネ電気は、テクノロジーが進歩し市場での導入が進んだことで、手ごろな価格になってきました。現在、風力/太陽光発電所の建設費は石炭/天然ガス発電所よりも経済的になっています。それでも、世界のエネルギー消費は、未だに再生可能エネルギーではなく、化石燃料が大半を占めています。

世界的な持続可能性への取り組みでグリーンエネルギーの需要が飛躍的に伸びるなか、風力/太陽光発電のエネルギー単価(kWh)も下がりつつあり、時に化石燃料を下回ることもあります。そうなると、化石燃料由来よりも投資資金と単価が安い再生可能エネルギーは、世界的需要の制約がなくなったとき、説得力のあるビジネスケースを生み出すでしょう。

再生可能エネルギー発電の中で最も比率が高い水力発電は、至る所にある水を利用します。水力発電は水流の運動エネルギーを利用してタービンを回し、連結された発電機を駆動して電気を生み出します。このほか、風力と海洋資源を融合したイノベーションも多数登場しています。

タービンの現地での組み立てと建設
風力タービンは巨大なため、ユニットを丸ごと輸送するのが難しく、物流責任者の頭を悩ませています。そこでエンジニアたちは、部品のまま運搬して現場で組み立てられるタービンを設計しています。この方法なら、タービンを輸送しやすくなり、特殊部品の数を減らせます。さらにそれ以外の一般部品の生産量が増え、スケールメリットによりタービンの経済性が向上します。

ブレードの空気力学と数値モデリング
風力発電の効率を上げるため、エンジニアたちはブレードの設計に注力しています。たとえば、3D数値モデリングを使用したり、計算流体力学(CFD)と呼ばれるコンピュータ支援エンジニアリングで静的・動的条件を分析し最適な設計を予測します。

デジタルツイン
デジタルツイン化では、物理的な部品をそっくりそのままデジタルで複製します。デジタルツインは物理部品の性能データを取り込んで、モデルキャリブレーションを行います。そして、メーカーが新たに物理的なプロトタイプを作る前に、デジタル領域で設計を迅速に更新することで、膨大な時間とコストを節約します。

環境発電
環境発電は、あらゆる特性差が発電機会を生み出すという事実を利用した発電方法です。たとえば、多くの家庭用貯水タンクは一定の水圧をかけるために高所に設置されています。海洋発電では、自然に発生する熱エネルギー、塩分濃度、潮流圧の差を利用する工夫が行われてきました。

海洋温度差発電と勾配エネルギーの捕獲
水面の温度と深度数百メートルの水温は大きく異なります。海洋温度差発電(OETC)装置は、温水と冷水を使用して蒸気圧縮冷凍サイクルの流体を気化し液化します。温度差が大きいほど、エネルギー効率と出力が向上します。同様に、浸透圧と潮汐波の圧力の差も、初期状態が低エネルギー状態と平衡状態になろうとするときにエネルギーを生み出します。

エネルギー貯蔵とグリッドの統合


エネルギー貯蔵では重要なグリーンエネルギー源のイノベーションが起きています。不安定な再生可能エネルギーも蓄電すれば間欠性を緩和できます。

バッテリケミストリ
電化の伸びに伴い、バッテリケミストリは絶えず進化しています。リン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)、ナトリウムイオン電池、全固体電池などのテクノロジーにより、電力密度、充電/放電速度、安全性が改善されようとしています。

電化ソリューションの寿命を伸ばすには、バッテリケミストリの改善が欠かせません。ただし、さまざまな用途の拡大に合わせてバッテリ製品を開発・適用し、安全性を確保することも同じくらい重要です。これは特に熱暴走を起こしやすいリチウムイオン電池にいえることです。

注目の製品:Analog Devices LTC6811 マルチセル・バッテリ・モニタ
Analog Devicesは、ISO 26262適合のシステム用のバッテリモニタリングに対応する堅牢なシステムを開発しました。LTC6811 12チャンネル・マルチセル・バッテリ・モニタ(図2)は、最大12個の直列接続セルを最大合計測定誤差1.2mVで測定できます。セル測定範囲0V~5V、測定誤差1%以下で、システムの全セルをわずか290µsで測定します。さらにLTC6811はisoSPI™インターフェイスを採用し、RF干渉を受けにくいホストプロセッサと高速長距離通信を行います。

 

図2:Analog Devices LTC6811 12チャンネル・マルチセル・バッテリ・モニタ。(画像:マウザー・エレクトロニクス)

モニタには、パッシブ・バランシングとPWMデューティーサイクル制御が含まれ、各セル内で電力を調整し寿命を伸ばします。バッテリや外部電源から電力を取ることができ、プログラム可能な3次ノイズフィルタ付きの16ビット・デルタシグマ型アナログ・デジタル・コンバータ(ADC)も採用しています。ノイズは電力系統の重要指標のひとつなので、これは重要な特徴です。

LTC6811は堅牢性、および複数のバッテリケミストリとシステムへの幅広い適用性を備えているため、二次電池式電気自動車(BEV)やプラグインハイブリッドカー(PHEV)、グリッドエネルギー貯蔵、バッテリバックアップシステム、高出力携帯機器などに理想的です。さらにソリューションが特定ローディングのバッテリを使用する場合、LTC6811モニタはその性能を測定し、性能指標が低下すると、近い将来故障が発生することを予測できます。

分散型エネルギー貯蔵とマイクログリッド
風力・太陽光発電のトレンドとイノベーションが進むなか、次に乗り越えるべきエネルギー遷移の大きな障害は、エネルギーと電力グリッドの統合でしょう。窒化ガリウムやシリコンカーバイド半導体など、グリッド電子部品は、パワーインテグレーションによるさまざまなエネルギー形態の通信を可能にします。しかもこうしたテクノロジーは、別の出力形式での分散型エネルギー貯蔵を実現します。

グリッド電子部品により、発電機のような独立的に稼働できる電源から局所的に電力を収集しグリッドと統合する、マイクログリッドも可能になります。こうした方法が、あらゆる再生可能エネルギー源による一次グリッド電力の増補、停電時のレジリエンス強化といった相加効果をもたらし、電力利用効率を改善します。そのため、LTC6811のようなバッテリモニタは、遠隔地のマイクログリッドが一次パワーグリッドにアクセスできない場合、性能を確保するうえで非常に重要な役割を果たします。

マイクロコントローラ
マイクロコントローラを使用すると、再生可能エネルギーの分配方法を制御できます。マイクロコントローラとAI駆動型スマートシステムを統合すると、需要の変化やピーク期間に応じて、最適なパワーバランスに自動調整できるようになります。コントローラは電力の間欠性による電圧変動に適応し、イン・アプリケーションで補正することもできます。

自動車からグリッドへの電力供給(V2G)
電化ムーブメントの最も重大な変化のひとつは、エンジニアのエネルギーに対する考え方が変わったことです。エネルギーは必要に応じて逆流・順流可能な液体のようなものと捉える人が増えています。ただし、グリーンエネルギーへのアクセス(もしくはグリーンエネルギーの不足)は、たとえコストが同等に下がったとしても、普及への重い足枷となります。

この点を考慮すると、電気自動車の普及がアクセスの問題を解決してくれる可能性があります。電気自動車は動くバッテリとして機能し、自動車とグリッド間に双方向の電源経路を作ります。この恩恵を特に受けるのは、グリッドに接続されていない遠隔地です。こうした地域で余ったエネルギーを貯蔵すれば、電力レジリエンスが得られます。これは既存グリッドの電力需要と間欠性を抑える一方で、クラス8トラック(オンロード、ヘビーデューティー)のビジネスケースも改善します。その結果、V2Gはグリーンエネルギーのイネーブラーになるでしょう。

まとめ


グリーンエネルギーをめぐりあらゆるムーブメントと流れが生まれるなか、今も導入の大きな足枷となっているのは間欠性と非効率性です。これらの障害を乗り越えるため、分散化の利点を生かして中間貯蔵機構を追加し、電源展開を最終ステージに移行する新しい動きが生まれています。エンジニアたちは、自然エネルギーが持つ特徴を活かして効率を高め、欠点を補おうとしています。

これらの発明と既存のグリッドをいかに統合するかによって、グリーンエネルギーの普及スピードと効果が決まるでしょう。