再生可能エネルギー活用の鍵
再生エネルギー活用の鍵を握るエネルギー貯蔵システム
Bill Schweber(マウザー・エレクトロニクス) 編集:Jon Gabay
画像提供:malp/Stock.Adobe.com
気候変動と地政学的な緊張が考慮されるなか、再生可能エネルギーは史上最強の追い風を受けています。化石燃料を排除する圧力は、比較的広く受け入れられています。
その一つのサインが、世界の再生可能エネルギーへの投資です。化石燃料価格が急騰すると、再生可能エネルギーへの投資が増加します。化石燃料価格が下がると、再生可能エネルギーは費用対効果が下がり、投資が減少します。気候変動と持続可能性の目標を達成するには、より優れた再エネ技術が必要で、再生可能エネルギーの展開を加速させなければなりません。
主要な再生可能エネルギーは必ずしも信頼性が高いわけではありません。風力も太陽光も間欠的なので、アレイを大きくして、エネルギーを貯蔵アレイに送る必要があります。局所的分散型エネルギー貯蔵システム(ESS)の設置も必要です。現在、蓄電池群に使用されているリチウム系バッテリは、環境への影響が懸念されています。幸い、近い将来より低コストでクリーンでエネルギー密度が高いバッテリソリューションが登場する兆しが見えます。しかし、もうしばらくは、分散発電、送電、貯蔵、顧客への供給が可能なインフラ構造を作る必要があるでしょう。
多岐にわたるESSのオプション
先ほど述べたとおり、基本的な再生可能エネルギーの可用性は、エネルギーという広範なパズルの1ピースにすぎません。完全なシステムにはエネルギー源、貯蔵、送電線が必要です(図1)。再生可能エネルギーに基づく実用的で完全なシステムを構築するにあたり、大きな問題となるのは、中間エネルギー貯蔵システムをどのように設置するかです。
図1:グリッドに接続した完全なESSには、エネルギー貯蔵サブシステムだけでなく、エネルギー源と送電線が必要です。(出典:Saft/Total Energies)
こうしたエネルギー貯蔵システムの必要項目は、可動式と位置固定式の設備に同様に該当しますが、実用的なオプションは、システムのサイズと環境によって決まります。エンドアプリケーションが大きいほど、または動かす必要がなければ、候補の暫定リストは広がります(図2)。
図2:エネルギー源には多くのオプションがあるように見えるが、実行可能性は立地と容量によって決まる。(画像:マウザー・エレクトロニクス)
さまざまなエネルギー貯蔵のアイデアが検討されています(図3)。水を高所に汲み上げて水力発電機に流したり、 電気モーターで重い錘を引き上げて必要なときに落下させたりして、位置エネルギーを取り出す方法もあります。この方法では、短時間に大電力を一気に生み出すことができます。ほかにもフライホイールを使って角運動量を保存する方法もあります。これらの方法は設置とメンテナンスに費用がかかり、貯蔵するエネルギーを送るときと、使用する電力を取り出すときに効率損失が生じます。
図3: エネルギー貯蔵スキームには、さまざまな電力およびエネルギー容量がある。(出典:Elsevier/Science Direct)
このほか、溶融塩電池のような熱電池技術も研究されています。溶融塩電池では、塩を融解温度まで加熱し、 その熱エネルギーを取り出して発電に使用します。これは温水暖房の熱エネルギーを貯蔵する場合は実用的な方法かもしれません。しかし、塩を十分高温になるまで加熱し、十分に蓄熱して、長時間にわたり蒸気でタービンを回すのはかなり大変です。
圧縮空気貯蔵も可能性があります。重いタンクとコンプレッサを使って空気を超高圧で貯蔵する方法です。空気の移動を利用して電気に変換するので、クリーンな発電方法です。しかし、これを大規模に展開するには費用がかかり、機械的システムの損失とメンテナンスが伴います。
風力や太陽光のような間欠的な再生可能エネルギーを使って水を水素と酸素に分解する方法もあります。これが標準的な加水分解より効率的にできるようになれば、よい代替策になるかもしれません。試行中のメッキ材は、現在の方法で使用されている高価なプラチナに取って代わる見込みです。水を加水分解する生物反応槽も登場しています。水素分解の長所は、自動車の燃料として使用し、燃料電池を使って直接電気を作れることです。
電気を電気のまま蓄える魅力
蓄電装置は、最も効率的になる潜在性を秘めた、一番望ましい選択肢です。スイッチング電源は非常に効率的です。エネルギーを電気という形態で受け取る場合、最善の方法は、高電力供給のスイッチング技術を備えるバッテリおよびスーパーキャパシタ式の貯蔵システムでしょう。
幸い、エレクトロニクス業界は新しい電源技術を開発済みです。たとえばonsemiのワイドバンドギャップダイオード、MOSFET、ドライバは、 同社の専有技術、シリコンカーバイド(SiC)テクノロジーを採用し、極めて過酷な条件でも耐久性と確実な動作を提供します。
高電力ダイオードはワイドバンドギャップ技術により、逆電流わずか80nAで1,700Vの繰り返し逆電圧(VRRM)に耐えられます。ショットキー構成の電圧降下はわずか1.5V@25Aです。シリーズの他の製品も最大100A、低損失・低発熱、サージ電流最大882Aです。これらは、大きなローカルバッテリーチャージャまたは高電力グリッドに接続されたインバータで高電圧・高電流パネルを接続するのに必要な仕様です。
さらにSiCテクノロジーは、スイッチングを高速にし、最大電流容量46Aの低損失MOSFETにも活かされています。堅牢性と定格逆電圧900Vにより、スパイクおよびスイッチングノイズへの耐性を備えているほか、最高の電力密度と最小サイズを実現しながら、電磁干渉(EMI)を低減します。
たとえば、onsemi NTHL060N090SC1 EliteSiC MOSFETは、ドレイン・ソース間抵抗がわずか84mΩ@46Aで、電力散逸は最大221Wです。スイッチング素子として、最大900Vの逆電圧に耐えられます。NCP51705MNTXGのようなコンパニオンゲートドライバは、EliteSiC MOSFETとのインターフェイスを容易にし、このテクノロジーの高速立ち上がり/立ち下がり時間を有効活用します。このドライバは高速オン/オフ遅延50nsで最大6Aのゲートドライブを提供することができます。小型QFN24パッケージを採用し、消費電力は2.9Wで、消費電流はわずか12mAです。
このテクノロジーが魅力的なのは、最大80kW、100Aに対応できる(NXH100B120H3Q0STG IGBTモジュールのようなパワーモジュールを利用できることです(図4)。これらのモジュールは、バイパス・ダイオードとブースト・ダイオード、およびスナバ用IGBT保護ダイオードをすべて低インダクタンスレイアウトに内蔵しています(図F5)。
図4:onsemi NXH100B120H3Q0デュアルブースト・パワーモジュールは、高エネルギー、再生可能エネルギー、高電圧、高電流システムの設計、実装、メンテナンスを簡易化する。(画像:マウザー・エレクトロニクス)
図5:ソーラーインバータ、無停電電源、エネルギー貯蔵・測定システムに最適なonsemi SiCパワーモジュールは今すぐ入手・使用可能。(出典:onsemi)
主導権を握るバッテリ
充電式バッテリには多くの有利な点があります。まず敷地造成がほとんど不要で、可動部品もない、そして一度設置して稼働したら、実質的にメンテナンス不要ということです。従来からある鉛酸蓄電池は90%が完全リサイクルされていますが、多くの場合、リチウム系のケミストリが優先的に選ばれています。リチウムケミストリのほうが重量に対するエネルギー密度が高いためです。どんなバッテリ技術でもそうですが、リチウム系のバッテリはニーズに合わせて拡張でき、直列接続すれば電圧を上げ、並列接続すれば電流を上げることができます。適切に設計すれば、アレイのセルを個別に交換でき、残りのセルを遮断せずにすみます。
敷地造成はほとんど不要で、可動部品もありません。一度設置したら、実質的にメンテンナンス不要です。公益エネルギーにはリチウム系バッテリユニットが採用されていますが、その主な理由のひとつとして、電気自動車(EV)の人気の高まりがあります。リチウム系バッテリの需要(EV、民生用デバイス向け)が増加するにつれ、採掘、製造、組み立て、高エネルギー密度パワーパックの利用が増え、生産プロセスへのハードルが下がりました。
エレクトロニクス産業は再びこうした課題に対処し、安全に充電とエネルギー測定を行う小型で安価なバッテリ管理チップを実現しました。これらのデバイスは、万が一、一つのセルが故障してもバッテリアレイの残りのセルを守ることができます。
別のオプションとして、低コストの中古バッテリを使用して、位置固定型のシステムを構築する方法があります。これには中古車や事故車から回収された、かなりの容量があるバッテリを使用します。一般に、貯蔵容量が新品時の80%に低下したバッテリは、「使用済み」で当初の用途には適合しないとみなされます。しかし、位置固定システムには十分な容量であるため、こうした「セカンドライフ」セルが再使用、リサイクルされます(図6)。
図6:電気自動車の成長により、電気自動車から回収された使用済みの「セカンドライフ」バッテリから容量が生まれている。(出典:Circular Energy Storage Research and Consulting)
自動車と電力グリッドを統合すれば、停電時に電気自動車をグリッドに接続できるようになります。適切な電子部品と分散型インフラによって、電気自動車が一時的な変電所の役割を果たすことができるのです。
オングリッドか、オフグリッドか
先ほど述べたとおり、バッテリ系のESSは局所で独立的に利用することも、グリッドに接続することもできます。現在使用されているトポロジでは、分散環境へのエネルギー挿入と降下が可能です。
高度なESSアルゴリズムは、電力潮流をバランスよく分配することで、可用性を最大限高め、運転コストを最小限に抑えることができます。つまり、電源が利用できて電気代が一番安いときには、グリッドを使ってバッテリを充電します。逆に、グリッドの電気代が高いとき、または再生可能エネルギーが利用できないときや不足しているときには、バッテリを使用します。
さらに先進的なESS設計では、再生可能エネルギー源が必要な電力を供給できるとき、バッテリが満充電でグリッドを必要としていなければ、電力をグリッドに戻して、利益を上げ、全体的コストを削減することができます。この場合は、双方向型ESS電源ユニットを使用して、利用可能な電源から電力を必要としている場所、または電力を貯蔵できる場所へ透過的に電力を送ります。
分散された電源を利用できれば、施設や住宅で無停電電源装置(UPS)付きのような電力供給が可能になります。グリッドが物理的損傷を受けない限り、エンドユーザーは決して停電に遭いません。小さな電圧低下は発生するかもしれませんが、局所UPSシステムを使ってグリッドから電力を再び得られるまで、医療機器などの極めて重要な機器は持続的に稼働します。
構成部品技術が標準化されたことで、性能の向上とコスト低下が進み、Generac PWRcellシステムのような住宅用オンラインシステムも利用可能なレベルに達しています(図7)。
図7:Generac PWRcellのような新しい住宅用システムは、グリッド電源、太陽電池電源、および蓄電池をシームレスに統合。オプションの発電機も組み込むことができる(非表示)。(出典:Generac Power Systems, Inc.)
まとめ
エネルギー貯蔵システムは、間欠的、または予測不能な電源に部分的、全体的に依存する電源・供給系統において欠かせない構成要素です。貯蔵方法には多くの選択肢があり、それぞれに重要な電気的、機械的、物理的な性能と設置のパラメータをめぐるトレードオフがあります。バッテリに基づくエネルギー貯蔵は、可用性、モジュラ性、拡張性、エネルギー密度、管理の容易さ、ノイズフリー稼働という特性を備える、有望な候補です。