新型コロナで加速するオートメーション
編集者注:本記事は筆者がオートメーション業界の複数の専門家に行ったインタビューを基に執筆されました。
2021年、Westec Plastics社はカリフォルニア州リバモアにある自社ビルの前に「人材求む」と書かれた巨大な垂れ幕を掲げました。そして資金を投じて主要オンライン求人サイトにリスティング広告を掲載し、当時すでに最低賃金を大きく上回っていた初任給を24%も引き上げました。しかし、どれも効果はありませんでした。1年以上前から3つのシフトはすべて人員不足に陥っており、会社は取引を失いました。
ところが今、Westecは失った取引を取り戻し、さらにそれ以上の取引を獲得しています。従業員100名の同社は、最近、3台の「コボット」(人間の従業員の隣で作業するロボット)を設置し、簡単な作業をコボットに任せるようにしたのです(図1)。Westecは今も増員に取り組んでいますが、3台のコボットが6人分の仕事をしてくれるので、労働力不足は以前ほど深刻でなくなりました。Westecの社長、タミー・バラス氏は次のように語ります。「とてもうまく行っています。さらにコボットを2台追加注文しているところです。この調子でロボット従業員を増やしていこうと思います」
作業の自動化の流れはコロナ前から始まっていましたが、この2年間に労働力不足とサプライチェーンの寸断が生じ、この傾向が一気に加速しました。オートメーションを先送りにしていた企業、ゆっくりと進めていた企業は、さまざまな理由から、急遽思い切った決断に踏み切りました。ウエストバージニア大学スマート・マニュファクチャリングの准教授ソーステン・ウエスト氏は次のように語っています。「彼らは自動化を実現できるかどうか、迷っている場合ではありませんでした。他に選択肢がなかったのです」
Westecのように、コロナ禍でオートメーションを立ち上げた、またはアップグレードした(そしてすぐに投資の効果が得られた)企業は、もっとコボットを増やす可能性が高いとウエスト氏は言います。「通常操業に戻った今、新たな課題はいかにしてオートメーションを最大限利用するかです」。ロボットなどの製造オートメーション機械はますますスマートに、そしてフレキシブルになり、コストも低下しているため、オートメーションの恩恵は大幅に増えている、と付け加えました。
図1:Westec Plasticsのような小規模メーカーは、従業員の隣で作業できる、低コストの自己学習能力型ロボットで労働力不足を補っています。(画像提供:Westec Plastics)
大きな見返り
SnapLogicおよびCebrによる2021年11月の調査によると、米国企業はオートメーションへの投資から3か月以内に、平均7%の年間収益率アップを実現しています。 同時にこれらの企業では雇用も7%増えています。 オートメーションの導入で雇用が増えると言うと、意外に思うかもしれませんが、実は理にかなっているようです。サンフランシスコを拠点に、Westecなどのメーカーにロボットを提供するRapid Robotics社のCEO ジョーダン・クレッチマー氏は次のように語ります。「ここ数年の研究はどれも、製品コストに占める人件費が10%低下すると、利幅が20%増加するという結果を示しています。利幅が上がれば、従業員を雇用し、スキルアップさせる余力が生まれ、従業員の定着率が高まります」
アメリカ合衆国労働省労働統計局によると、2020年初期以降、製造業の賃金は10%上昇しており、この数年間は特にオートメーションの効果が出やすい環境となっているようです。 それに、つまらない仕事をしてくれる人を探すのは大変です。「皆、一日中ずっと機械の前に座って、ひたすら金属の切り屑を浴びるのは嫌ですから」と、クレッチマー氏は言います。
その間、世界中の企業はサプライチェーンの寸断で混乱し、悪戦苦闘してきました。バラス氏はこう言います。「今週、ツールを作ってくれる海外のベンダーを見つけても、翌週になるとその会社が閉鎖されることがある。顧客はそれに懲りて、ツールを全部国内で調達したいと言うのです」。しかし、国内製造100%への需要シフトは、雇用圧迫に一段と拍車をかけています。
オートメーションのスマート化
オートメーションベンダーは、自社装置に人工知能(AI)、機械学習(ML)、その他の先進的ソフトウェアを追加して、製造業のさまざまな問題を解決しています。「企業は過去20年間、ごく基本的なオートメーションの構築に取り組んできました。今、それにインテリジェントツールを追加する流れが一気に加速しています」と、アラバマ州モービルのオートメーションシステム統合会社、Hargrove Controls and Automation社のデジタル化リーダー、ヒース・ステファンズ氏は語ります。
ステファンズ氏によると、多くのメーカーではかなり前から、センサで温度、圧力、流量など、多くのポテンシャル変数を追跡し、そのデータを記録する装置も設置していたと言います。ただ、こうしたデータを分析し、作業の自動化を改善するには、複雑な計算ができる、高度な訓練を受けたチームが必要なため、大半の企業はそのデータをうまく活用できていなかったようです。
しかし、機械学習ならデータをリアルタイムで整理し、製造プロセスの複数の制御装置を自動調節し、結果を改善することができます。例えば、生産する薬品の純度を高めたり、生産量を妥協することなく、加工温度を下げてエネルギーコストを削減したり、廃棄物を最小限に減らして持続可能性を高めたりすることができます(図2)。ステファンズ氏は次のように語っています。「10種類のパラメータがあるプロセスで、人がそれらすべてを調節し、完璧なスイートスポットを見つけるのは無理でしょう。でも、機械学習プログラムなら、目標を伝えれば、プログラムがそこに至る方法を考えてくれます」
新しいオートメーション知能は、生産量を改善し、コストを削減するだけでなく、予防メンテナンスも進化させます。ステファンズ氏によると、従来の予測では、振動の増加などのシンプルな検知技術を使用して、故障の数時間前に警告するのが精いっぱいでした。しかし、現在のクラウドベースの機械学習プログラムがあれば、複数のセンサの複雑なパターンを見つけ、少なくとも1週間前には故障を警告することができます。これだけ時間があれば、必要な部品を注文し、予定のダウンタイム中にメンテナンスを計画し、操業停止に伴う高額な費用を節約できるでしょう。「知能の追加は必ずしも人員削減に直結しません。効率と品質を向上させることなのです」とステファンズ氏は語ります。
ウエスト氏は、製造工程とロボットにAIベースの機能を追加すると、「コグニティブ・オートメーション」を実現でき、しかも、従来の「物理的オートメーション」に統合できるのが最大の魅力と説明します。「機械学習、分析、ビジョンシステム、センサ…これらすべてが今や、ロボットなどの機械と密接に連携しています」
図2:製造オートメーションは、プロセスを監視・調節できるAIベースのプログラムを搭載することで、生産量を増やし、コストを抑え、持続可能性を改善します。(画像提供:Hargrove Controls and Automation)
小規模メーカーにも大きな恩恵
長年、小規模なメーカーは、コストがかかり、プログラミングとセットアップが複雑なロボット技術の強化には及び腰でした。クレッチマー氏によると、組み立てラインにロボットを設置するには、数十万ドル、場合によっては数百万ドルかかると言います。同じ部品を同じ方法で数年間生産する大企業なら、投資の元も取りやすいでしょうが、中小企業はそうはいきません。「米国のメーカーの98%は、注文ごとに組み立てラインの段替えを行っています」とクレッチマー氏は言います。組み立てラインを変更するたびに、ロボットの再プログラミングに10万ドルもかかるとしたら、投資する意味がありません。
こうした問題を回避するため、ロボット企業は自己プログラミングの機械学習機能を備えたロボットを構築しています。例えば、Rapid Roboticsの「Rapid Machine Operator」ロボットは、コンピューター支援設計図を見て、実行すべきタスクを判断します。次に、4つのカメラを使って作業空間を分析し、例えば、部品を機械にセットして取り除く、機械を操作する、溶接するといった作業を0.1mmの精度で完了させる最適な方法を判断します。そしてコンポーネントの位置が外れていたら、すぐに偏差を修正します。
AIを搭載したロボットはセットアップが非常に簡単なので、組み立てラインが新規注文用に再構成された場合でも、ロボットを別の組み立てラインに移動したり、作業を継続することができます。「当社のロボットは新しい機械に転用できます。人と同じように30秒もあれば生産を開始できます」とクレッチマー氏は説明します。従来のロボットアームは、購入とセットアップに莫大な費用がかかりましたが、Rapid Machine Operatorは月2,100ドルのサブスクリプション契約で導入できます。
ウエスト氏は、コグニティブ・オートメーションの能力が上がるにつれ、より高度なスキルが必要な仕事も任せられるようになる。そして、高度化するオートメーションの恩恵は、これからも人間の従業員により多くのすばらしい機会をもたらすと言います。 しかし、オートメーションが担おうとしている仕事を現在やっている人の多くは、新たに生まれた仕事のスキルを備えていないかもしれない、と指摘します。
ウエスト氏は、この問題の対策として、学校、企業、政府が従業員のスキルアップへの取り組みを強化し、オートメーションがもたらす生産性向上と新たな機会を労働者が活かせるようにすべきだ、と主張します。「最大の成果を上げるには、オートメーションと従業員のスキルアップの両立が必要です」。