マニュファクチャリング4.0が成功する理由
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マニュファクチャリング4.0(Manufacturing 4.0)は、4.0時代を迎えた他の分野と同様に、データと接続技術を活用してプロセスの効率化とリーン化を図り、インテリジェントシステムによる意思決定を実現することに全力を注いでいます。そして、多くのテクノロジーがこうした成長と能力を実現させています。特に人工知能、機械学習、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、拡張現実が脚光を浴びていますが、目標達成には、他の脇役的なテクノロジーも不可欠です。本記事では、マニュファクチャリング4.0の進歩を支えているのに、過小評価されているセンサ、プログラマブルロジックコントローラ、低電力コンポーネントとシステム、ビジョンシステムが果たしている重要な役割について考察します。
センサ
センサはマニュファクチャリング4.0の実現にいろいろな形で貢献しています。センサは洞察と意思決定に使用するデータを収集し、製造工程を進めるために必要なデータも入手します。例えば、
• 位置センサは、最も一般的なセンサのひとつです。次の製品を組み立てラインに進める前に、シリンダーが基準位置に戻っているか確認するときなど、機械的な位置測定を支援します。
• 存在検知センサも位置センサに似ていますが、光学存在検知センサは目視できる光線やレーザーを照射し、その光が何かに遮られれば「存在する」、光が確認できれば「存在しない」と知らせます。
• サイズ検知センサのデータは、品質管理に使用され、組み立て品を生産ラインに安全に流すことができるか判断します。
• 接触センサは、ドアの開閉状態を検知したり、装置の損傷を防ぐために急停止させたり、安全に関わる検知に使用されます。
• 振動センサは、装置の健康状態の診断によく使用されます。例えば、サーボモーターの振動を検知すれば、部品の摩耗を知ることができます。このデータを基に、問題が生じる前にメンテナンスの必要性を予知することができます。
センサがなければ、製造オートメーションはまったく機能しません。プレス機が45,000kgの圧力をかけるときは、周囲に何もないことを確認しなければなりません。センサはオートメーションのデジタルの目、耳、鼻、指となって、当て推量や思い込みを排除し、はるかに安全で一貫性のある、効率的な条件を整えてくれます。さらに、高温、湿気、油、粉塵など、さまざまな過酷な環境で使用するセンサには、堅牢な設計が必要です。
データ収集の点で言えば、センサは、生産ラインで何が起きているかを教えてくれる生データの源泉であり、探し求めている洞察への入口です。多くのメーカーは今も古い装置をレトロフィットしていますが、古いプログラマブルロジックコントローラの機能を低下させずに、データアクセスポイントに接続するシステムの開発には相当苦労しているようです。また、複数のデータ源を持つ企業は、それをどのように活用すれば有益な洞察が得られるか、必死で答えを見つけようとしています。
センサフュージョンによって、収集可能なデータの品質と種類が向上し、データから得られる洞察の確度も上がりました。例えば、レーザーセンサで高さを検出し、ビジョンセンサで確認することができます。大抵の場合、違う種類のセンサを複数使用すれば、データ収集を多重化することはできます。しかし、センサフュージョンを行えば、さまざまなセンサの長所に基づいてデータを組み合わせ、洞察を編み出すことができます。ただし、今日の驚異的なセンサ技術をどのように応用し、有用な知見を得るかが課題となっています。
プログラマブルロジックコントローラ
機械から情報を収集するとき、データはセンサ間ではなく、製造ネットワークのセンサからプログラマブルロジックコントローラ(PLC)に送られます。PLCは、耐久性の高いソリッドステート産業用コンピュータで、製造プロセスの制御に使用されます。PLCは、論理とプロセス情報を保存し、ネットワーク通信の起点となる、製造ネットワークのブレインです。
PLCの主な機能は、入力を受け取り、リアルタイムで論理ベースの決定を下し、出力から操作指示を送信し、最終的に複合的プロセスの動作順序を決定します。PLCはスイッチ、センサ、ビジョンシステムなどの情報源から入力を受け取り、出力をサイレン、リレー、インジケーターランプ、シリンダー、ソレノイド、アナログ出力、ロボット、そして他のPLCに送信します。PLCには、正しい入力の受け取りを保証する機能もあります。例えば、機械に大きな赤いボタンがあり、それを押すとベルトコンベアが始動するとします。このような場合、PLCは電源オンの信号だけでなく、安全機能が始動していることも確認してから、ベルトコンベアを始動させます。
PLCは、閉ループ・デジタルツイン(CLDT)用のオペレーションデータを提供することで、製造効率アップも支援します。CLDTでは仮想モデルを使用します。そして理想としては、そのモデルに生産効率に影響するすべてのシステムと変数を取り込みます。このような場合、PLCは過去とリアルタイムのI/Oデータを他のシステムからのデータと共に提供し、機械の設定、人員配置、原材料の保管、その他のオペレーション関連の微調整に使用できるようにします。CLDTは、装置1台から生産ライン全体、製造作業全体まで、あらゆる規模で実装できます。
エッジ対応の環境では、仮想化PLCが勢いを増し、物理的なPLCとエンクロージャがなくなりつつあります。仮想化しない場合でも、製造現場全体のPLCをひとつのケースにまとめたり、モジュラ設計にしたり、機能(電力、処理、I/O切り替えなど)別にグループ化することができます。モジュラ式PLCは、他のシステムに固定されていないため、メンテナンスが簡単というメリットがあります。物理的なままでも、仮想化されていても、PLCは製造プロセスの司令塔なのです。
低電力コンポーネントとサブシステム
他に過小評価されているテクノロジーに低電力コンポーネントがあります。低電力コンポーネントはあらゆる電子機器・電気装置やサブシステム、PLCにも使われています。低電力コンポーネントは、トランジスタ、プリント回路基板(PCB)、抵抗器、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)といった、最下位設計のコンポーネントとして存在します。また、低電力コンポーネントの大幅な小型化は、マニュファクチャリング4.0の実現の強い味方になります。低電力コンポーネントの進化がなければ、電気機械駆動システムには、家の壁くらい大きなリレーボックスが据え付けられていたでしょう。
低電力コンポーネントとサブシステムは、小型化と同時に熱放出が減り、効率が上がり、コンパクトになったため、性能的にも向上しました。そのおかげで、製造施設全体を使わなくても複雑な機械設備や工程を構築できるようになりました。そしてもちろん、小型化はコスト削減に直結します。これまで存在していても、コスト的に難しかったさまざまなテクノロジーや手法が今なら可能です。イーロン・マスクはあるインタビューで、火星への物資の輸送には1トン当たり14万ドルかかる、と言っていました。つまり、火星に行く技術はあっても、そんなコストのかかるプロジェクトには誰も投資できない、ということでしょう。
ビジョンシステム
ビジョンシステムというと、物体を識別し、重要な情報を他のシステムに伝え、視覚に基づいて行動できる先進的ロボットと思うかもしれません。一般にビジョンシステムの用途は次の4つに分かれます。
• 誘導: 部品の位置と向きを示す
• 識別: 部品の識別、バーコードの認識、在庫の選別などの作業
• 測定: 2点間の距離を測定・計算し、測定値が仕様と一致しているか判断する
• 点検: 不良品、異常の検出など
製造現場では、ビジョンシステムをトレーニングして、物体を認識し、物体の測定、カウント、解読、位置決めをさせることができます。他の機械学習と同じように、トレーニングを行うには、形状、サイズ、向き、輪郭、模様、色といった特徴の膨大なデータセットが必要です。例えば、ビジョンシステムにフィンチューブの欠陥を識別するようにトレーニングすれば、管の長さと円周が指定の寸法になっているか、(鋸歯状ではなく)プレーンなストリップフィン(ワイヤーフィンではない)が0.14インチ間隔で溶接されているかどうかを識別できるようになるでしょう。トレーニングされたビジョンシステムは、比較の基準となる画像(明確な一群の画素)を保存します。
そして現場で合否結果を出します。先ほどの例で言えば、システムのカメラは製造工程の終了時にフィンチューブの画像を撮影します。この画像には、グレースケール(黒、白、グレー)、場合によってはカラーで撮影された光が表現されています。これがイメージセンサに送られ、そこで反射光が取り込まれ、明確な一群の画素に変換されます。システムはこの画像を解釈し、トレーニングされた一群の画素とぴったり一致するか判断します。
ビジョンシステムは、製品の品質を向上させ、無駄(原料と時間)を削減し、ダウンタイムを短縮し、トレーサビリティとアカウンタビリティを構築し、コンプライアンスを促進するなど、さまざまな形で製造業の進歩に貢献してきたのです。
まとめ
マニュファクチャリング4.0は、すばらしいテクノロジーによって電光石火の進歩を遂げています。人工知能、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、積層造形がしばしば見出しを飾るなか、密かに重要な役割を果たしている技術も多くあります。
• センサは洞察と意思決定に使用するデータを取り込み、スムーズに製造工程を進めます。
• PLCは、プログラム、情報、バックアップを保存し、通信を管理する、製造のブレインです。
• 低電力コンポーネントとサブシステムは、これまでコスト的にもサイズ的にも不可能だった技術と手法を可能にします。
• ビジョンシステムは、物体を見て、重要な情報を他のシステムに伝え、タスクを実行する能力をロボットにもたらしました。
派手な技術がスポットライトを浴びがちですが、こうした地味な技術もマニュファクチャリング4.0とその後の進歩には欠かせないのです。