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空港の高速データ接続イノベーション

テキサス州最大級の空港であるダラス・ラブフィールド空港では、年間の搭乗者数が約1,500万人に上ります。世界中の多くの航空旅客と同様、ラブフィールドの利用者も、空港に安定したデータ接続を求めています。

空港は、人々が頻繁にネット通信を行う必要がある場所です。最新の運航情報をチェックする、会社に所在を知らせる、家族と連絡するなど目的はさまざまです。しかしながら多くの空港同様、ラブフィールドも高速のWi-Fi®やセルラー回線を常に利用者に提供できているわけではありませんでした。混雑時には、同じエリアで同じ時間に数千人もの人が従来型のWi-Fiネットワークを利用し、通信速度が遅くなることもありました。多くの人が音楽配信やビデオ会議、写真のシェアなど高帯域幅のアプリを使うためです。空港は総じてセルラー信号が弱いという問題もあります。通信事業者が滑走路の近くに基地局を設置できないからです。

スペクトル帯域の実験

ネットワークの通信速度が遅い、接続できないといったトラブルにユーザーがいらいらさせられる場所は、空港に限りません。混雑した場所では、Wi-Fiもセルラー回線も電波が弱い、キャパシティが足りないといった問題を抱えています。グローバル・ネットワークサービスプロバイダのボインゴでCTOを務めるエンジニアのDerek Peterson氏も、次のように指摘しています。「空港、スタジアム、工場、オフィスビルなどさまざまな場所で、多くの人々がより良い接続環境を求めています」

ネットワークの速度について誰もが不満を口にするなか、ラブフィールド空港は2018年に問題解決に乗り出しました。ボインゴと協働し、プライベートLTEデータネットワークを導入する米国初の大手空港となったのです。ラブフィールドにとっては、空港内で通信事業会社を運営するのに匹敵する試みです。新たなネットワークは、これまでユーザーが電波状態の良い環境で、携帯電話事業者から享受してきたのと同等の高速データ接続を提供します。

空港向けのネットワークテクノロジーとしてラブフィールドとボインゴは、OnGoを採用しました。OnGoは、現在十分に活用されていないスペクトル帯域である3.5GHzのCBRS(Citizens Broadband Radio Service:市民ブロードバンド無線サービス)の業界標準の1つです。CBRS帯を利用すれば、通信事業者向けのスペクトル帯域のライセンスを取得する必要もなくなります。ライセンス取得はコストがかかり、多くのエリアではそもそも取得が不可能です。ただしOnGoネットワークは最先端テクノロジーだったため、ボインゴとラブフィールドは連邦通信委員会(FCC)から特別に一時的な使用許可を取得しなければなりませんでした。あくまでも実験的なネットワークであり、通信事業者やその他の信号と干渉せずに運用できることを確認する必要があったからです。Peterson氏は言います。「信号電力は、エリアをカバーするのに十分でありながら、外部のネットワークに対して問題を生じないレベルに調整することが可能です」

問題は1つ。CBRSは新しいテクノロジーなので、大部分のモバイル/スマートフォンは今のところアクセスできない、という点です。とはいえ2023年までには、スマートフォンの90%がCBRSにアクセスできるようになる見通しです。Peterson氏によれば、CBRSネットワークは今後数年間で世界中のさまざまな場所で主流になるとみられます。つまりラブフィールドはライバルの一歩先を行っているということです。今回の試みは、通信事業者との干渉を生じることなく効果的に運用できるネットワークだとFCCに証明する助けになるだけではありません。ラブフィールドの新たなネットワークは、空港の内部運用にとっても重要なリソースになっています。また、市民のスマートフォンのCBRS対応が進めば、ラブフィールドのネットワークを直ちに提供することができます。しかも、LTEから、世界中で普及が進んでいる新しい高速通信規格、5Gへのアップグレードも容易です。

高速データ伝送に使用されれているもう一つのテクノロジーに、シリコンフォトニクスがあります。このテクノロジーは、波長と粒子の挙動を使い、より高速で長距離の移動を可能にします。また、フォトニクス集積回路の進化により、光リンクのパラレルバスがなくなり、回路基板も小さくなりました。こうした小型チップによる高速、長距離伝送を可能にしたのが、インテルのハイブリッドシリコンレーザーです。高出力で高価な専用トランシーバモジュールは、電気を直接光に変換することで、より少ない出力で、より高密度の帯域幅を増やします。インテル® シリコン・フォトニクス 800G DR8 OSFP光トランシーバモジュールなら、従来の短距離および長距離光モジュールのボリューム不足を克服できるでしょう。現在、量産品として100、200、400、800GB/sが提供されています。


オンデマンド・キャパシティ

ラブフィールドは、空港での安定した高速データアクセスに向けたその他の措置も講じています。プライベートLTEネットワークは、接続の問題を解決するその3つの措置の1つに過ぎないのです。第2の措置として、ラブフィールドは分散アンテナシステム(DAS)を導入し、空港利用者向けのセルラー回線を向上させました。空港内に小型の基地局を分散設置し、大手通信事業者の強い信号を伝送するシステムです。さらに第3の措置として、Wi-FiネットワークをPasspoint®にアップグレードしました。サインインしなくてもネットワークを利用することができる、新しいWi-Fi規格です。

ラブフィールドの取り組みは、あらゆる場所におけるデータアクセスの方向性について、高次元の見通しを示しているとPeterson氏は指摘します。未来においては、高速通信はよりスムーズかつ効率的になり、携帯回線からプライベートネットワーク、またはWi-Fiネットワークへと異なる帯域を瞬時に継続的かつシームレスに切り替えて、最良の接続環境を得ることができるのです。

同時に、通信事業者が特定のスペクトル帯域や基地局、設備に縛られないシステムが可能になるだろうとPeterson氏は述べています。より具体的には、追加のキャパシティを必要とするネットワークがあれば、そのつどスペクトル帯域と設備がダイナミックに割り当てられるようになるはずだと言います。「新しいネットワークを必ずしも構築しなくて済むようになります。既存のネットワークが互いに、さらにはスマートフォンとも通信を行い、ある場所と時間のトラフィックに適切な接続環境を構築できるからです」とPeterson氏は言います。

こうした変革はすべての空港はもちろん、データ通信が不可欠なあらゆる混雑した場所に変化をもたらします。今や誰にとっても欠かせない、高速接続が可能な場所へと変わるのです。飛行機はこれからも遅れることがあるでしょう。それでも利用者は、会社や家族に遅れを知らせ、時間つぶしに映画を観ることができるのです。