プライベート5Gネットワークが切り拓く未来
ワイヤレスネットワークは、高速データ通信を可能にしました。ワイヤレスネットワークの種類には、3G、4G、5Gなどの商用通信サービスのほか、BluetoothやWi-Fiといったより個人向けのものがあります。これまでワイヤレスネットワークは劇的な向上を遂げてきました。高解像度での動画配信は当たり前のものとなり、利用者の期待やニーズは高まる一方です。
個人利用から、民間用、商用、自治体向け、軍用までさまざまな用途があるワイヤレスネットワーク。そのプロトコルと送受信システムが世界を変えるさまを、私たちは間近に目撃してきました。従来、Wi-FiとBluetoothは一般ユーザー向け、セルラーサービスは少数の大企業向けと分けられていました。 現在ではハンドヘルドなどの5Gデバイス、スイッチ、ルータ、基地局が進化したことで基地局のアーキテクチャも変化し、プライベート5Gネットワークを個人や各種の団体・機関が導入できるようになりました。プライベート5Gネットワークはまさに今、台頭しつつあります。
産業界で進む普及
現在、多数の民間セクターと産業セクターがプライベート5Gネットワークの導入を検討しています。企業や製造施設の間でも関心が高まっています。工場のオートメーション化が進むなか、制御/データ監視アーキテクチャもグローバル化しています。たとえば機械メーカーは、世界中の自社製品にリアルタイムで接続し、高度な診断、性能監視、統計的プロセス制御データの収集などを行うことができます。
機械の動作制御すらも、遠隔で行える時代です。たとえば製造施設の最適化を目指すなら、リアルタイムの受注処理を調達サプライチェーン運用や製造スケジュールと緊密に連携させれば、保守・整備のための制御された運転停止を実現できます。設備の運転停止と開始には貴重な時間とリソースを費やすことになりますが、ニーズに合わせて事前に計画とスケジューリングができれば、運転停止やラインダウンの回数を減らせます。
高速データ通信と低遅延を特徴とするプライベート5Gネットワークなら、より応答性に優れた制御ループも実現できます。たとえば切削工具の破損発生から、通常の運転停止コマンドを送るまでに50msの遅れが生じれば、フライス盤にさらなる損傷を引き起こす可能性もあります。Wi-Fiでは、あるいは4Gサービスでも、5Gで可能とされる1msという低遅延は達成できません。つまり5Gなら、これまでワイヤレステクノロジーを有効活用できなかった工場でも、活用できるようになるのです。
プライベート5Gネットワークのもう1つのメリットは、セキュリティ脅威のいくつかのクラスをブロックできるという点です。たとえプライベート5Gネットワークをパブリックインターネットに接続するリンクが存在しても、シングルアクセスポイントでリンクを管理し、エンドポイント攻撃やサイバー攻撃、ランサムウェア、いたずらなどを排除できます。ネットワーク上のすべてのノードに直接パブリックアクセスができる環境では、こうした脅威は回避できません。さらにシングルアクセスポイント・アーキテクチャなら、コスト削減も期待できます。下流のデバイスは5Gの利用料を払う必要がないからです。
専用のAIやクラウドサービスでAI機能を実行できるという点からも重要です。たとえば、AI機能が学習した行動を用いて、ツールヘッドの故障を事前に予測するといったことが可能になります。AIシステムが人間の能力をすでに上回っている現在、製造プロセスにAI搭載監視カメラを導入すれば、運用基準の改善すべき点を明らかにできるかもしれません。
プライベート5Gが推進される理由
5Gネットワークが民間利用により適していると言われる理由はいくつかあります。ただし3Gや4Gと異なり、5Gの信号は拡散しないため、十分な品位の効果的な5G信号で対象エリアをカバーする必要が生じます。つまり利用者の近くに基地局が必要となり、より多くの場所により多くの基地局を設置しなければなりません。そして、あらゆる場所で基地局を増やすには、莫大な投資が必要です。
一方で、3Gや4Gと異なり5Gのルータは小型、軽量、低電力、低価格といった強みがあるため、住宅やオフィス、遠隔地に専用の5G基地局をプライベート基地局のように設置することが可能です。地方でもファイバーインフラが整備されるようになった現在、低コストなローカル5Gの基地局の設置・保守は最小限の費用で実現できます。5Gの基地局は、かつてのWi-Fiルータのような存在となっているのです。
低コストな5G基地局の導入を後押しするもう1つの要因が、デバイスメーカー製の5G対応チップセットの誕生です。高集積プロセッサや通信・電子機器は、波長がミリ波帯なら小型化できます。集積アンテナとPCB導波管は、より低コストでより高いパフォーマンスを発揮します。特にビームステアリング方式の導波管は、高価かつ複雑な工程を経て機械加工しなくても、3Dプリンタで作れるからです。マウザーをはじめとするディストリビュータが、Amphenolの5G用同軸コネクタの販売を開始しています。5G回路基板、ケーブルアセンブリ、5Gアンテナアレイに集積できる同軸コネクタです。
5Gの素晴らしい点は、ビームステアリング方式の指向送信が可能なところです。高周波の電力密度を上げて見通しポイントに送信できる ビームステアリング(電子追尾)は、機械的な回転や仰角調節も不要で、 すべて電子的に行われます。
入手しやすく、ローコストな5Gチップセットには、IoTデバイスを5Gネットワークに直接接続できるという利点もあります。とはいえ多くの場合、これはやり過ぎでしょう。大部分の一般ユーザー向けIoTデバイスはサーモスタットや照明、音楽コントローラといったシンプルなものなので、万人向けの使い方ではありません。それでも、高速通信と低遅延を必要とするすべてのデバイスが、IoTの世界に参入できるようになったとは言えます。
このアーキテクチャは、通信事業者があらゆるロケーションで5Gを展開する場合にも、コスト削減を実現します。個々のロケーションが基地局として機能するからです。集積型高速光ファイバーまたは中継(バックボーン)回線があれば、5Gは大規模エリアの包括的なカバレッジが可能です。これは、自動運転車の安全性に注目が集まるなか、その台数が増えた場合に非常に重要なポイントとなります。(図1)
図1:自動運転/駐車車が今後増えれば、さまざまな施設に安定した高速接続の提供が求められるようになります。近い将来、自動運転車は乗員を迎えに行き、目的地で降ろし、自ら駐車するようになるでしょう。(出典:Sergey Nivens/stock.adobe.com)
プライベート5Gネットワークの展開に際して最も重要なのが、セキュリティです。ファシリティ/ITマネージャーは、セキュリティ保護スキームやパスワード、認証、レポーティングの策定・保守を行い、不定期に変更することができます。それによりプライベート5G基地局を経由するデバイスは、より高いセキュリティ信頼度の下で通信できるようになります。ファイヤーウォール下でのデバイス間認証はよりシンプルになります。往復認証を減らすことができるため、コネクテッドデバイスは低コスト化、小型化、高速化が進みます。
すべての5G IoTデバイスが高速データ通信と低遅延を必要としているわけではありません。それでも、ユーザーが広範なプライベート5Gネットワークを導入できれば、付加価値がもたらされるのは間違いありません。5Gリンクをローカル制御できれば、身の回りのデバイスのAI統合を推し進められます。AIシステムがより広範に普及するようになれば、産業界と工場はこのテクノロジーをローカルに活用し、ハッキングやランサムウェアの危険性を抑えることもできます。
軍用から警察用に至るまで、AI制御されたあらゆる機器類やドローンは5Gの広帯域幅がもたらす高速データ通信と優れたレスポンスタイムにより、人の手の介在を効率的に減らすことができます。
プライベート5Gネットワークの現状
設備面がすでに整っているなら、プライベート5Gネットワーク導入の選択肢はいくつかあります。たとえば、CBRSの一般認可アクセス(GAA)のような、ライセンス不要の帯域を使うことが可能です。これはプライベート5Gネットワーク導入の最も一般的なアプロ―チです。エンドユーザーがライセンスの取得や帯域の微調整に悩まされる心配がないからです。極めてシンプルで、Wi-Fiルータのように簡単に導入できます。
大規模な施設や企業なら、米FCC(連邦通信委員会)のオークションで優先アクセス免許(PAL)を購入した団体から、帯域のライセンス取得を選ぶかもしれません。総じてこうした大企業には、専用の帯域を持つための十分なリソースがあります。通信事業者同様、これらの大企業は月額料金などでユーザーにアクセス権を販売します。
十分な資金があり、弁護士チームも付いているなら、FCCの周波数オークションで入札して帯域を持つという選択肢もあります。帯域の割り当て後は、その帯域内のチャンネルを使えるよう機器類を調整し、必要に応じて暗号化やネットワークアーキテクチャの設定を行います。すでに複数の大手がこうしたサービスに資本を投下しており、 たとえばVerizon、AT&T、Cisco、Amazonなどが専用の帯域を用いて、エンドユーザーにサービスや専門知識、機器類の提供を行っています。利用料やサービス内容はまだ十分なレベルとは言えませんが、大手はターンキーソリューションやクラウド、AIソリューションなどのほか、技術的サポートも提供できるでしょう。
まとめ
プライベート5Gネットワークは、あらゆる規模の企業にとって導入を検討する価値があります。 高速データ通信と低遅延という特徴を生かせば、IoTデバイスをさらに拡張する、高度にデータ集約型のサービスを提供するといったことが可能です。専用の帯域を持たないなら、5G基地局を通信事業者の周波数に合わせて設定する必要があります。
たとえば米国では、Verizon、T-Mobile、Sprint、AT&Tのいずれも異なる帯域を運用しています。帯域は国・地域ごとにも異なります。日本は2.7~28.28GHz、中国は24.25~27.5GHz、スウェーデンは26.5~27.5GHz、EUは24.25~27.5GHzといった具合です。
機器類も、利用する通信事業者に合わせて設定が必要です。現在では、3.5~6GHzの低帯域が使われていますが、今後は高帯域(24~40GHz)も利用されるようになるでしょう。プライベート5Gネットワークはまだ初期段階にあり、これから新たな製品やサービスが続々誕生するとみられます。それらの帯域も国・地域ごとに異なり、 たとえば中国は37~43.5GHzを、米国は28~39GHzを使うといった違いがあります。
結論として、5Gルータ基地局が広く設置されれば、屋内向けの標準サービスとしてWi-Fiに取って代わるだろうということが言えます。プライベート5Gは、高度にカスタマイズされた固有の暗号化が可能であり、施設全体での通信にはWi-Fiを使うよりもセキュリティが向上します。
現在ではメーカーも、5G通信対応機器の設計者向け製品を拡充中です。Amphenol 5Gコネクタのような部品やサービス、通信事業者、クラウドサービスも、プライベート5Gの導入・展開