ドライバーモニタリングシステムで安全性を高める
自動車安全システムの効果はこの数年で飛躍的に向上しました。最新モデルを運転すれば、バックカメラ、車線変更警報、死角検知、自動ブレーキ機能なしの運転など、もう考えられないと思うでしょう。
欧州の自動車安全評価・試験機関である、Euro NCAPは大胆な構想を展開しています。2017年9月、Euro NCAPは自動車事故ゼロを目標に掲げ「Pursuit of Vision Zero」ロードマップ2025を発表しました。想像してください、自動車事故のない世界を。WHOによると、毎年交通事故で亡くなる人は130万人以上、その94%が人為的ミスによる死亡事故です。
ADAS(先進運転支援システム)があれば、事故をなくせるかもしれません。自動車メーカーは自動運転レベル2の開発を進めています。このレベルでは、車がドライバーに代わって車線中央走行と適応型クルーズコントロールを行い、自動ブレーキをかけることができます。その間ドライバーは少しだけハンドルとペダルを離すことができます。
しかし、部分的自動運転を長時間利用すると、ドライバーの注意力が落ちるという、残念な証拠もあります。
図1:DMSが眠気を催したドライバーを監視。(画像元:Have a nice day/AdobeStock)
今はDMSがある
ドライバー注意力モニター、若しくはドライバーモニタリングシステム(DMS)は、「あればいいが、重要ではない」と思われていましたが、 今では、どんな部分自動運転車にも絶対に欠かせない存在となっています。DMSは、ドライバーの注意力が低下すると、それを検知して注意を促します。長年にわたって世界中の商用トラックや輸送車両で使用され、不注意による運転ミスを検知し軽減することで、トラックドライバーの無事な帰宅と、運送会社の弁護士の負担軽減を支援してきました。NCAPは、ドライバーの監視を安全機能の最上位に位置付けています。欧州では2020年から新車が安全性5つ星を達成するには、DMSが必須となりました。
ドライバーの頭が運転に集中しているかどうかを判断できる技術はまだありません。しかし、視線、頭の位置、手の位置を監視して、積極的に運転しているときの状態と一致するかどうかを確認することはできます。この技術は最近急速に進歩しています。イメージセンサは感度が向上し、照明制御はコストが下がり精度が上がりました。また、最新のデジタル信号処理チップを搭載して、AIと機械学習技術を使って処理するようになりました。
車に運転させるより、人が安全に運転できるようにした方が、簡単で早くて安上がりです。いずれにせよ、SAEレベル4、レベル5の自律運転が実現するのは、当分先の話でしょう。
DMSを実現するには
ドライバーモニタリングシステム(DMS)は、フィルター付きのCMOSカメラを使用します。通常、解像度は1~2メガピクセルで、ハンドルの後ろか上、またはバックミラー(旧式のミラーが付いている場合)かその付近に取り付けられています。カメラのイメージセンサは、例えばonsemiの8.467mm AR0135CSなら、グローバルシャッターを搭載し、画像の全領域を同時にスキャンすることができます。このグローバルシャッターはパルス光源と同期します。センサはパラレルおよびシリアルデータインターフェイスを備え、前世代の製品よりも10倍少ない暗電流と4倍のシャッター効率で優れた高感度性能とHD 720pの画像品質を提供します。このセンサ用に評価キットもあります。
システムは、不可欠なドライバーの顔認識用の照明を備え、 肉眼では見えない近赤外線で照らします。赤外線を使うと、ドライバーの邪魔にならず、太陽光や街灯といった予期せぬ外部効果も排除できます。また赤外線は、サングラスの影響も比較的ありません。
シーン照明に使われるLEDは、制御が極めて重要です。赤外線には安全上の問題もあるので、光を当てる時間と頻度は慎重に選ばなければなりません。onsemiのNCV7694 Safety Controllerは、1つの外付けMOSFETで一連の赤外線LEDの動作を管理できます。このチップは、目の安全機能をすべて備えています。このドライバICのPWM出力がMOSFETに流れ、一定のLED電流を発生させます。イメージセンサから点滅信号が入力されると、LEDドライブの出力を開始し、コントローラが正しく時間管理します。
チップの安全機能は、IR LEDの点灯時間が長すぎて不適切な暴露が生じたり、過度に点灯したりするのを防ぎます。ICには回路障害検知・シャットダウン機能もあり、ESD保護も一式備えています。障害がDIAGピン経由で報告されると、DC/DCコンバータ(図2)がオフになり、ADASに信号が送られます。
図2:イメージセンサとNCV7694近赤外線安全コントローラを備えた標準的設計の系統図。(出典:onsemi)
NCV7694チップにはNCV7694-GEVBによる評価/開発ツールがあります(図3)。21mm x 21mmのカードで、LED光源は、NIR OSRAM SFH4725SとCREE XPGBWT-L1-0000-00G51(白)の2種類から選べます。LEDピーク電流は、分流抵抗器により3Aに初期設定されています。このキットは照明評価専用で、イメージセンサは含まれていません。
図3:onsemiのNCV7694-GEVB安全コントローラー照明評価ボード (出典:onsemi)
システムの2つのLED光源は、適切な光で領域を照らさなければなりません。一般にランプはイメージセンサの片側に取り付けられ、必要な光量はドライバーとのの平均距離に基づいて計算されます。
標準的な光源の波長は850nmまたは940nm。850nmは光源からの「赤色発光」効果があり、人の目でも赤い光の点滅が見えます。940nmでは赤い光の点滅はありませんが、 ややグレアが多いかもしれません。ランプの例として、OSRAMのSFH 4725AS 940nm NIR LEDは、1.5A、VF=3.1V時の放射強度が1350mW/srです。
カメラの画像データは、ビジョンプロセッサ/DSP、または直接車両のADASシステムで評価されます。DMSの優れた力を引き出すには、AIと機械学習の使用が不可欠です。今は大抵どの業界でも業務にAIシステムを取り入れて、効率化を図っています。DMSシステムもAIがなければ、使い物になりません。人工知能は機械学習より先に登場しましたが、勢いは機械学習(ディープラーニング)が上回っています。
図4:レベル2のADASで、マイカーが自宅までほとんど運転してくれる。(出典:Have a nice day/Adobe Stock)
イメージセンサ/プロセッサは、まばたきの頻度からドライバーの視線の向きまで、あらゆる目の動きに「目」を配り、目の開き具合すら検知します。プロセッサシステムは、ドライバーの注意散漫や眠気を察知すると、適切な警報でドライバーに注意を促し、休憩を取るようにすすめます。DMSには、様々な高性能FPGA、DSP、特殊なADASプロセッサといったAIプロセッサが使用されており、多くの企業がこうした製品を提供しています。
ソフトウェアの検討
一般にDMSの開発には、様々なコンピュータービジョンとディープラーニングのコンポーネントの統合が必要になります。機械学習アルゴリズムは、多くのデータに暴露されることで、自己調節を進め、性能を向上させるプログラム(演算と論理)です。Smart Eye AB(スウェーデン)など、多くの企業が「ハードウェアに依存しない」DMS専用のソフトウェア開発キット(SDK)を提供しています。他にもPathPartner Technology(カリフォルニア)といった企業が、ARM、Intel、NXP、AMD、ルネサス、Broadcomを搭載した幅広い車載グレードのプラットフォームに対応できるとしています。
Cipia(イスラエル)のDriver Senseは、OEMおよびティア1向けのソフトウェアベースのDMSです。処理のハードウェア要件が少なく、低価格で費用対コストに優れたプロセッサに移植でき、完全なコンプライアンスが可能だといいます。Seeing Machines(オーストラリア)は、FOVIO組み込み型ドライバーモニタリングエンジン(e-DME)チップとソフトウェアを提供しています。現在、ゼネラルモーターズの運転支援機能「スーパークルーズ」とメルセデス・ベンツのSクラスおよびEQSセダンに採用されています。膨大なデータセットを備え、DMSをADASと半自動運転システムにシームレスに統合できるといいます。
車載用マイクロプロセッサ企業は、DMSシステムの開発ツールと共に、人工知能(AI)、自動ディープラーニング機能、ソフトウェアの開発ツールキットも提供しています。これらは往々にして、より大きなスケール、すなわち自動車のADASシステムの一部として組み込まれることを想定しているようです。車載グレード専用プロセッサのパッケージを使えば、さまざまなアルゴリズムを開発環境から完全実装へシームレスに移行できます。
機械学習で「学習する」とは、データの処理方法も時間と共に変わるということです。一般に機械学習の実装は、フレームワークから始まります。標準フレームワークは多数ありますが、 いくつか例を挙げると、GoogleのTensorFlow、モントリオール大学のPyTorch(言語はNVIDA CUDA)、Berkeley AI LabのCaffe、Chainer(言語はPythonのみ)、MicrosoftのCNTKなどがあります。ほぼすべてプログラミング言語のPythonとC++に対応しています。
ドライバーモニタリングシステム設計には、ほとんどの場合、安全規格ASIL-Aレベルが要求されます。ASILとは、Automotive Safety Integrity Level(自動車安全水準)のことです。. 自動車の機能安全性に対するリスクを分類するため、 ISO 26262 規格によって定められました。ASILは、A、B、C、Dの4段階に分かれ、Aが最低等級です。ASILはシステムレベルの安全性要件で、ソフトウェアとハードウェアの両方を対象としています。
結論
未来のDMSは、顔の画像処理解析を越え、セキュリティ機能として顔認識を組み込むかもしれません。 これからは運転している人を認識して、座席位置、ミラー、空調、音楽など、車の設定をカスタマイズできるようになり、 車の持ち主以外が運転するのを阻止することもできるでしょう。さらに、心拍数モニターや呼気分析装置といったバイオメトリックセンサを組み込めば、ドライバーが集中して運転できる状態かどうかを確認できるようになるかもしれません。
SAEレベル5の自動運転が実現し、ドライバーが不要になるまでは、ADASと人が協力して車を運転することになるでしょう。その責任はどちらが負うのでしょうか? もちろん、ドライバーが機械を監視します。その一方で、機械もドライバーを見守らなければならないでしょう。