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現実世界に浸透する没入型テクノロジー

Adam Kimmel(マウザー・エレクトロニクス)

(画像元:Kiselev Andrey Valerevich/Shutterstock.com)

現実の概念を表面的に理解するのは簡単です。それは自分の周りの世界、自分の目で見えるもの、感じるものすべてを指します。現実とは、簡単に言えば、存在するものです。

しかし、モノのインターネット(IoT)、スマートデバイス、5Gの急速な普及によって「現実」の前提が変わり、不変で予測可能な世界から、絶えず進化する現実と仮想の体験へと変わったのです。もちろん、私たちは物理的現実を見たり、感じたりしていますが、それは全体のほんの一部に過ぎません。物理的現実と没入型/クロスリアリティ(XR)がバランスよく融合し、より充実した新しい体験が生まれています。

没入型現実には主に3つの種類があります。

  • 仮想現実 (VR):デジタルだけの世界に没入した感覚になれる、完全なシミュレーション環境。
  • 拡張現実 (AR):デジタル画像と体験を重ねて物理的環境を拡張すること。スマートフォンのカメラを使ってARを体験することが多い。
  • 複合現実 (MR):物理的なオブジェクトとデジタルなオブジェクトが相互作用する環境。MRは、ARとVRの長所と利点を活かしてユーザー体験を最適化する。

没入型体験をするには、主にXRヘッドセットを使用します。XRデバイス内には演算・処理素子、アクチュエータ、センサなどのコンポーネントが搭載されています。これらのコンポーネントが2つの世界をつなぎ合わせ、人類に恩恵をもたらす革新的なアプリケーションを可能にするのです。XRの使用例としては、子どもたちが安全に社会交流できるシミュレーション環境を提供したり、恐怖症、痛み、不安などの病気の治療を支援したり、人的・社会的に貢献する用途が挙げられます。XRは、医療分野だけでなく、スマートシティやコネクテッド街灯から、宇宙旅行支援まで、さまざまな用途で私たちの利便性を高めてくれます。

仮想的世界と物理的世界が交わることで、人類をより良い方向に変えることができます。以下では、XRの各テクノロジーについて説明し、シグナルチェーンのコンポーネントがどのようにこの革新的な技術を可能にしているのかについて概説します。

 

没入型テクノロジーの枠組み


シグナルチェーンとは何か、そして処理要素がどのようにしてこの体験を実現するのかを理解するために、没入型テクノロジーの枠組みを定義しておきたいと思います。

 

物理的現実

現実世界からのフィードバックにより、ユーザーが期待できることにガードレールを設定します。

仮想現実 (VR)

できるだけ多くの五感をシミュレートし、完全な没入体験を提供します。

拡張現実 (AR)

ARで物理的領域に仮想要素を重ねることで、ユーザーの視覚的体験が拡張され、機能や能力が高まります。

複合現実 (MR)

MRを使用すると、デジタル要素を単に物理的な要素に重ね合わせる代わりに、この2つの相互作用が可能となります。

 

シグナルチェーン・コンポーネント


材料調達のサプライチェーンと同様に、シグナルチェーンはXR体験を提供するコンポーネントのネットワークとその順序で構成されています。

処理能力/熱管理

ディスプレイの負荷が高まるにつれ、デジタル機能の提供に必要な電力要件も高くなります。そこで電力密度の高い熱管理とプロセッサを統合すれば、要件を満たしながら優れた没入体験を実現できます。さらに、増加する処理熱負荷を十分に冷却して、装置の故障からユーザーを守らなければなりません。医療や介護の分野では特にそれが求められます。データセンターの冷却市場は、プロセッシングやチップの冷却ソリューションの開発を促しており、これはXRにも役立つ可能性があります。

ビジュアルディスプレイ/照明

視界をリアルからバーチャルへ(そしてバーチャルからリアルへ)巧みに切り替える照明を備えたディスプレイが、ユーザーの求める革新的な体験を実現します。さらに、高解像度カメラはますます現実に近い体験を提供するよう進化しています。

接続性

リアルな環境を提供するためのデータの量は、システムがユーザーに送信するデータ量が増えれば増加します。高速・低遅延の5Gにより、ユーザーの行動に対するリアルタイム応答が不可欠となるアプリケーションで、XRの実用化が進むでしょう。さらには、5Gの普及により、中央のハブから切り離してデータ分析が可能になり、機器レベル(エッジ)でより多くのデータを処理できるようになります。エッジ処理によりデータを送信する時間と距離が短縮されるはずです。

モーショントラッキング

センサは環境からデータを収集し、アクチュエータは人間の反応を記録し伝送します。これらの開発、特にセンサの開発は、自律走行車技術に牽引されています。物理的環境とデジタル環境の正確な相互作用を実現するには、センサが物理空間のマップを正確に作成し、アクチュエータが人間の行動をそのまま正確に伝送する必要があります。

注目製品:EPCOS/TDK PowerHapピエゾアクチュエータ


物理的現実の空間を正確にマッピングするためのデータを収集することで、設計エンジニアが仮想要素を作成できるキャンバスが提供されます。物理的現実のマトリクスが緻密であればあるほど、設計者の自由度が増し、ユーザーが自然な動きと直感で反応する、繊細で生き生きとしたインタラクションが生まれます。高性能のデータ処理で、ユーザーは高い没入感を体験できます。また、どのヒューマン・マシンインターフェイス(HMI)を使用しても、高感度で動的な運動応答性でXRのユーザー体験が強化され、現実感を味わえます。

これら2つの機能を組み合わせた革新的な製品が、最適なエンハンスド・リアリティ体験を生み出します。最も優れた製品の1つがEPCOS/TDK PowerHapピエゾアクチュエータです。PowerHapは、導電体に機械的な圧力を加えることで電荷が発生する圧電効果を活用しています。この効果により、PowerHapは触覚フィードバックを提供して伝達媒体を起動させ、ユーザーの触覚感度に働きかけることができます。また、アクチュエータには統合センサが搭載され、加速度、力、応答で高い動作性能を発揮します。

PowerHapには、銅の内部電極が備わった多層ピエゾプレートが組み込まれています。銅の高い導電性により、比較的低い電圧(120V以下)での動作が可能です。さらに、圧電効果により起こるx軸、y軸での同時収縮量が一定であるため、これらのプレートのz軸での伸びは最小限になります。ピエゾアクチュエータは統合型のシンバル機能も使用して、z軸の収縮を公称値の最大15倍に増幅させます。

こうした高い性能を、最大20Nの力、35µm~200µmの広い変位範囲、100gの負荷で最大15gの加速度、コンパクト性、高いエネルギー効率などの製品機能が支えています。PowerHapはパッケージの最大フットプリントを26.0mm2に抑え、挿入高は2.4mmと極めて低く、1サイクルあたりのエネルギー消費量はわずか1〜8mJです。

PowerHapピエゾアクチュエータは、フットプリントが小さく、高感度、高性能であることから、拡張現実や仮想現実に最適です。

 

まとめ


没入型テクノロジーのシームレスな統合は、明らかな恩恵をもたらします。この革新的な技術は、エンターテインメントを進化させ、製品開発、医療とサービス、車両の安全性、教育の質などを改善することにより社会に貢献しています。以下の分野の開発がこの統合を後押しするでしょう。

  • データセンター業界の処理能力と冷却技術
  • スマートフォンおよびディスプレイメーカーによるディスプレイ・照明技術
  • 5G関連メーカーおよびネットワークサービス事業者によるコネクティビティ技術
  • センサーおよびアクチュエータ・メーカーによるモーショントラッキング技術

これらのテクノロジーはいずれも没入型テクノロジーの成長を制限する危険性があります。市場レポートが予測しているような飛躍的進歩を実現するには、各分野で協力して開発・成長に取り組む必要があるでしょう。しかし、XRの進歩によって人類が手にする恩恵を考えれば、十分投資に値するといえます。