新しいオープンソース、RISC-Vと投資対効果の関係
オープンソースのRISC-Vで新しいアプリケーションの投資対効果を最大化
マウザー・エレクトロニクス アダム・キンメル
オープンソースの命令セットアーキテクチャ(ISA)の必要性を認識していたSiFiveのYunsup Lee氏とAndrew Waterman氏(両者とも同社の現在の経営陣)は、2010年に縮小命令セットコンピュータ(RISC-V)ISAと初のマイクロプロセッサを設計しました。プログラマが共通言語を用いてハードウェアとソフトウェアの間のコミュニケーションを標準化するために、オープンソースという形態は不可欠です。このずれをなくす取り組みによって、イノベーターがコミュニケーション経路をつないで業界を前進させ、冗長となるリスクがある中であっても業界の将来を見据えることができます。
10周年記念の動画の中で、Lee氏とWaterman氏は、オープンソースという形態のISAによって、5G、モノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)のこれからのアプリケーションが促進されていくであろうと話しています。RISC-V InternationalのCEO、Calista Redmond氏は、セキュリティやクラウドもRISC-Vに最適なアプリケーションに数えられると加えています。この類いのアプリケーションは、エネルギー効率化と合わせて相当な計算能力を求める変わらぬ需要を実際に示していると、これらの専門家たちは話しています。この2つの要素の間でバランスをとるという課題が標準化を後押ししているため、RISC-Vに最適なアプリケーションの候補となっています。
10年前、カリフォルニア州バークレーのローレンス・バークレー国立研究所で、RISC-Vを業界全体に普及させたいとクリエーターが立ち上がりました。そして2015年、RISC-V Internationalとして別個の法人が設立されました。RISC-V Internationalは、初年度に25社の参加を求め、設立から5年で飛躍的な成長を遂げました。2020年には共同事業体として63%以上の成長を見せ、メンバーシップに参画する企業数は750社を超えるまでになりました。北アメリカ(NA)、欧州連合(EU)、アジア太平洋(APAC)のどの地域でも、RISC-Vは広く採用されていきました。
コミュニティの提携が世界規模で拡大していき、新たに確立された組み込みアーキテクチャと産業用アーキテクチャの採用と商品化に繋がりました。レガシーなアーキテクチャはRISC-Vを取り入れようとしているものの、変化することに明らかなリスクがあるため、既存の技術という厚い壁に直面しています。
ビジョン
Redmond氏いわく、RISC-Vは、マイクロプロセッサの設計で数十年も採用されてきた独自のアプローチを打開するオープンスタンダードとして当初から構想されていました。
「RISC-Vは、シンプルなモジュール式アーキテクチャとして技術面の障壁を乗り越え、史上最も広範囲に及ぶイノベーションを可能にするだけでなく、開発コスト、ビジネスリスク、ライセンス制限といった課題も解決し、急増する産業機会のどこにでもグローバルに採用できるようになりました。」とRedmond氏は話しています。
採用に至るまでに立ちはだかる所有権などの商業的な障壁を、オープンソースモデルの力で押しのけて、選択権と自由をもたらし、コミュニティに浸透している改革精神を発揮させます。RISC-V Internationalは新しいメンバーを迎えるごとに、好奇心から採用につなげて組織を前進させるという目的を大きく育てています。メンバー以外には、「なぜRISC-Vなのか?」から「なぜRISC-Vではないのか?」という発想の転換を促しています。
「オープンソースという形態は、RISC-Vで製品化するとき、またそれが製品化に関わるときにはじめて成功を収めたと言えます。RISC-Vを大規模に採用することで、メンバー全員が成功に導かれるのです。」とRedmond氏は話しています。
確かに、これこそ、標準化に課せられた使命です。
RISC-Vコミュニティメンバーシップ
インダストリー4.0の重要なソリューションに対応するという共通の課題と重要性によって、「業界パートナーが協力すれば人類が早く進歩する」という信念を軸にコミュニティは結束を強くしています。メンバーは半導体業界の最先端を目の当たりにする立場で、それぞれの専門分野で企業間のワークグループに参加しています。標準規格を共同開発することの他にも、このようなワークストリームは、コミュニティによって業界全体が技術開発チームの一員であることを示す具体例となっています。
また、業界パートナーと緊密に協業することで、仕事への満足度、セキュリティ、ネットワーキングが向上します。こういった要素が、技術の成熟度曲線に基づく起業家精神にあふれる環境を作っています。
ビジネス事例と投資対効果
メンバーの情熱と構想が明快でも、商業的な根拠がなければ計画は真に成功しません。その点、オープンソースは、独立系企業が投資に対する望ましい利益を得るには量産が必要になるといった、通例の商業的ハードルを克服できます。コスト面を改善するために量に関して個々の企業が責任をもつのではなく、コミュニティが開発コストをメンバー全体に分散させます。この商業的な利点があることから、新たなメンバーが参画しやすくなり、取り組む意欲が高まり、また投資額を抑えることができます。
新たなメンバーに魅力的な入り口があればメンバーが増え、将来的にさらに展開しやすくなります。その上、新たな発展の形に透明性があることから、コミュニティメンバー全体に関わる問題を一社が解決して、そこからスピードアップや効率性の向上に繋がり、ホワイトスペース戦略への投資を拡大することができます。
アプリケーションと市場
RISC-Vの使命の魅力の一つは、このテクノロジーは一部の産業や分野に限定されないという点です。ISAは最小単位の構成要素で、エンジニアはそれを大小のシステムに実装します。コミュニティのメンバーは次のようなアプリケーションにRISC-Vを応用しています。
- 高性能コンピューティング(HPC)
- PC
- ウェアラブル
- 組み込み
- 車載
- 宇宙
この応用範囲は広さは、オープンソースISA使用の可能性の広さを表しています。数々の商業的な障壁は乗り越えていますが、エンジニアがどれだけ速くテクノロジーを応用して統合できるかという点が、今後の採用に制限をかける唯一の要因になるでしょう。
テクノロジーの未来
RISC-V Internationalのコミュニティが急速に拡大し続けていることは、この取り組みには限界がないことを示しています。Zephyrといった他のオープンソースグループは、RISC-VをHPCコミュニティに引き込んでいます。RISC-V InternationalのCTO、Mark Himelstein氏は、「おそらく、史上最大のオープンソースプロジェクトだろう。」と述べています。
作業規模は非常に大きいものの、ビジネス案件に説得力があり、ROIが高いことから、コミュニティの飛躍的な拡張へと繋がります。RISC-Vの可能性は無限に広がっています。